おっさん冒険者と(狂)戦士僕
ちょい長いです
「ふぅ〜。あ、貴重な水をありがとう…!!ほんとに!!」
「いえいえ。えっと、お名前は?」
僕もこの人も落ち着きを取り戻したので話を進める。
「ああ。私は、鈴木明です。歳は34で……君は?」
「自分は水柳朱鷺って言います。16歳っす」
「高校生かぁ…若いねぇ」
「あの、明さんはいつからここに?」
これまでに何があったのか、どのくらいここにいるのか。
聞くことは沢山あるけど、いつ魔物が襲ってくるか分からんので急がなければ。
「それが。気付いたらこの変なとこにいて…。多分、1日経ったかどうか…」
1日?んー…その間何してたのか。飯は。魔物の襲撃は。
質問がいくつも浮かんでくるが、取り敢えずは戦力になるかどうかだな。
「明さん。自分の職業とレベル…てか、ステータスって分かります?」
「おお!君もアレが見えるのかい!?良かったぁ。気が狂ったのかと思ってたよ…」
明さんの職業は『冒険者』だそう。初めて聞くが、何となくありそうだなって考えてた。
レベルは2。数時間前に1匹、襲われたので反撃してゴブリンを倒したらしい。
その時のレベルアップの声でステータスの存在に気が付いたらしい。
「朱鷺くんの職業とレベルも聞いていいかな?」
まだあんまりこの人を信用できないんだよなぁ。正直に答えるか、職業変えたり低くして答えるか。
「自分の職業は『戦士』で、レベルは10っすね」
「マジか、高いなぁ!それに戦士ってカッコいいな!確かに剣持ってるもんな…って。何で剣があるの?」
こんなファンタジーみたいな剣持ってんのちょっとおかしいよな。分かるわ。
「この剣、『鍛治職人』って職業の人に作ってもらったんですよ」
「うへーそんな職業も。ん、その人はいないの?」
面倒だし魔物が気になるけど、軽く説明しておこうか。
ここが城塞の塔で、その3階である事とか。
説明する。
「な、るほど?あー…うん。大丈夫、分かった」
「良かったっす。説明下手ですんません」
「ああ、いやすごく分かりやすかった。ありがとう」
説明完了。
なんだかんだで、3階に来てからもう10分以上経ってるな。
「それじゃあ進みましょうか。一緒に来ますよね?」
「その前に…申し訳ないんだが。ご飯、恵んでもらえないか?」
あ、そういえばさっきの水以外は何にも食ってないのか。忘れてたわ、こっちこそ申し訳ない。
「全然大丈夫です。カロリー◯イトで良いですか?」
「ありがとう…!!」
リュックから取り出して渡す。と、同時に、足音が聞こえた。魔物だ。
「明さん、食べながらで良いんで少し下がって。魔物です」
明さんはモグモグ口を動かしながら壁際に寄っていく。
剣を下段に構え、感覚を研ぎ澄ます。
足音はゆっくり近づいて来る。ネズミでもゴブリンでも無さそうだ。
姿を表したのは、木で出来たマネキンのような魔物。僕は木人形と呼んでいるヤツだ。
「な、なんだアレ…マネキン?」
出来れば斧が良かったけど、魔力を流せば剣でも余裕で斬れるだろう。
僕も木人形に合わせてゆっくり歩き距離を詰める。
残り7メートル、6、5…駆け出す!
木人形はロボットみたいにぎこちないが、中々の速さで腕を振るう。
その腕を斬り落とし、足を払って地面に倒す。
木人形は心臓の位置にある核を潰さないと止まらない。それを僕は身を持って学習済みだ。
核を突き刺し、破壊する。そうすると、木人形は塵になって消える。
「す、すっげえ!かっこいいよ朱鷺くん!」
「デカい声出さないようにしましょう。また魔物が寄ってきます」
「りょ、了解」
褒められて悪い気分じゃあないんですけとねェ!!いや、確かに僕はすごいんですけどぉ!?無駄な戦いは避けよっかなってぇ〜。へっへ。
まっちゃんたち等親しい人以外に褒められるのは初めてだったので、僕は完全に調子に乗ってしまった。
幸いなのか不運なのか分からないが、この階には気が緩んでいても倒せる相手しかいなかったので、僕は調子に乗ったまま先に進んでしまった。
流石に途中からは冷静になってたけどね。ちょっと浮かれてたよね、ウン。
「よぉし、確か次は4階だったね。朱鷺くん、次もこの調子で頼むよ!朱鷺くんさいきょー!」
「あ、次からは明さんも戦いましょう」
「え」
木製の扉を開き、4階に足を踏み入れる。
相変わらず変化はない…訳では無さそうだ。
3階よりも少しだけ空気中の魔力が濃い?感覚的な、曖昧なものだけど。
それに魔力が濃いとどうなるのかも分からない。ただ、気を引き締めた方が良いのは間違いない。
「じゃあ、進みましょう」
「朱鷺くんちょっとストップ。『危機察知』のスキルが反応してる」
スキル『危機察知』。職業冒険者が最初から持っている3つのスキルのひとつ。
自身に危険が迫っていると、軽い頭痛や寒気のような感覚をスキルが発生させ警告する…らしい。
それが反応している。
魔物か?いや、気配はない。なら何だ?
「そこの床。ちょっと違和感ないか?」
そう言って明さんは僕の少し前の床を指さす。違和感がある?いや、確かに。
「あそこの床、ほんとに少しだけ高いですね。今まで気持ち悪いくらい整ってたのに。あそこだけ」
「もしかして…罠なんじゃないか?」
罠…!
なるほど。いや、マジかよ。ヤバすぎる。
「え、やばくないっすか」
「やばい、やばいけど。そこまで強い警告じゃないみたいだ。初めて魔物に襲われた時の方がもっと強い警告だったよ」
じゃあそこまで危険な罠ではない、のかな?
踏んだら毒ガスとか天井が落ちて潰されるとかじゃない。タライが落ちてくるくらいの罠?
分からない。未知が過ぎる。
「踏んでみます?」
「勘弁してくれ」
にしても『危機察知』いいね。優秀なスキルだ。次の選べるスキル獲得にあったら選ぼうかな。
けどそしたらマジでこの人と一緒に行動する意味なくなるかな?
でも寝る時とか飯とかトイレとか、安心してできるのは強いよなぁ。交代制はすげぇよ、天才だ。
「明さん、先に進んでもらっていいですか?魔物きたら交代しましょうよ」
「……分かった。いつまでも子どもに頼ってばかりじゃあ、大人として情けないしな!任せてくれ」
かっけぇよ明さん。頼むわ。
そう思った矢先、カチリと、不吉な音が聞こえた。
「あ、まだ罠あったっぽい!踏んじゃった!」
「(コイツ…カロリー◯イト吐き出させてやろうか)」
罠に掛かったらしいが、特に何も起きなかった。
「不発、か?危機察知も反応ないし」
「次は気をつけて下さいよ、マジで」
この時は気付かなかった。
この塔の罠に、不発なんてあり得ないこと。
この塔は、想像以上にタチが悪いことに。
……………
……………
「ひっ、ひっ。ちょ、もう少し、ペースを、落として、くれない、か」
「無理ですよ!死にたいんですか」
現在、命懸けの鬼ごっこ中。
鬼役はもちろん魔物。それもたっくさんいる。ぱっと見、20匹?
その魔物は、ゴブリン、ネズミ、それと犬の魔物。正直言って雑魚ばかり。
けど、数が多過ぎる。
僕ひとりなら勝てる。けど、もうひとりお荷物がいる。
見捨てるのは流石に人として終わってる!
「分かれ道です!左行きましょう!」
「わ、わかッひェ」
ダッシュ!ダッシュ!明ァ!ファイト!
曲がった先は、開けた空間!大当たりッ!
奥には階段。手前には、2メートル強の木人形。
後ろから迫り来る魔物たち。
時間がない。
このデカい木人形、瞬殺以外に道はない。
なら。
「『英雄特権:限定解放』」
小声で、囁くように。
「『剣術:海割』」
剣に、急激に波のように魔力が流れる。頭がクラッとするくらい剣の方に持っていかれた。だからその分、威力に期待!
「シィッ!」
剣を纏う魔力が物質化したように、木人形の身体を大きく削り取っていく。
この細い刀身ではあり得ない、起き得ない現象。
剣を振り切った後に残っていたのは、両手の部分だけだった。それ以外は全て、まさに木っ端微塵。
今までのどんな剣術のスキルより強力…いや、違う。このスキルが特別なんじゃなくて、僕が追いついた。これが本来の威力なんだろう。
「明さんGOGO!先に階段登って!」
「お、おひ」
遅えぇ!もう僕が運んでくか!
「ちょっ、朱鷺く」
「GO!GO!」
先に階段を登っていた明さん担いで、一気に登る。急いで扉を開いて、明さんを投げて次の階にぶち込む。そして僕も。
「ッ…ハァ〜」
疲れた…頭痛ぇ…寝てぇ…寝よ
何でおじさんしか出せないんだろう。もっと可愛い女の子とイチャイチャさせてぇ。
けど、無理だ。ごめん。