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終末と善人と罪悪感


 現在の時刻は朝の4時。外はまだ少し暗く、僕以外はまだ誰も目を覚ましていない。

 そろそろ出発の時だ。


 最後に荷物の確認しておこう。


 荷物はできる限り減らして、少しでも負担を軽くしなくちゃいけない。確実に戦闘するだろうし、何より長時間の移動だからね。

 距離だけで言えば徒歩で1時間半くらいなんだけど、この状況だから2、3時間は掛かるだろうし。


 「…いってくる」


 書き置きだけ残して、家から出る。


 ……。


 別に、サイトのトーク機能でいつでも話せるし。死ぬつもりもないし。

 だから悲しむ必要も、泣く必要もない。


 けどもし、もう会うことが出来なくなってしまうと考えると少し、いやかなり……ツライ。


 だからこそ、行こう。


 死ぬ為に行く訳じゃない、生きる為に行くんだから。

 知り合い全員で笑って飯を食って、安心して寝れる日常を取り戻す為に戦うんだ。


 武器も持った。防具も着た。荷物の確認も済んだ。


 扉を開き、外に出る。


 

――そして今日。僕はようやく終末の意味を知る。


 今までの戦いは崩壊の序章でしかなかった。


 世界の、日本の終末(地獄)はこれからだと、僕は身をもって知る事になる。


 ………………

 ………………

 

 「ハァ……ハァ……ッ」


 家を出て30分くらい。やはり単独だとかなりのペースで進めた。だけどまだ2km進めたかどうかくらい。原因はやはり魔物だ。

 たった2kmの差で、魔物の数と質が全然違う。


 こっちの魔物は、強い。そして何より集団で、連続して襲われる。


 「フゥー…」


 今は()()の家で身を隠し、休息をとっている。

 多分、この家の主は殺されたんだろう。食料を取りに出かけたのかは知らないが、数日は家を空けているような状態だった。

 少し罪悪感はあるが、家を漁らせてもらい、飲料水を貰う。


 この辺りは結構栄えていて、新築の家が立ち並び、店もかなりある。それが理由か、魔物が多いし強い。

 

 ゴブリンは4,5体で固まり、デカいゴブリンがリーダーのように必ず1体いる。

 犬の魔物はそこらでゴミを漁っているし、木人形の魔物もそれなりにいる。

 他にもスライムにオーク、それと初見の魔物も数種類いる。


 まあ負けはしない。しないが、流石に何回も連戦すれば疲れるし動きも鈍るに決まってる。


 「行くかァ…」


 あの馬鹿デカい塔までもう少し…ではないけど、かなり近づいてきてる。こんなとこで止まってられない。

 にしても、あの塔ほんっっとにデカい。スカイツリーの2倍はありそう。太さもすげぇし。中はどうなってんだろうな。


 色々考え事しながら休憩して、10分経った。

 うん、かなり休めた。出発しようか。


 「お邪魔しました」


 緩めていた革の防具をしっかり締めて、リュックを背負い、剣を握る。


 立ち上がり向かったのは玄関の扉ではなく、二階の窓。

 窓を開けて、身を乗り出して屋根に登る。


 これが僕の考えた『パルクール』作戦だ。クソ真面目に魔物と殺し合ってたら日が暮れる。

 だからこの住宅が密集してる事を活かし、屋根から屋根に渡って魔物との戦闘を回避する。


 「ッ!」


 助走をつけて、隣の家の屋根に飛び移る!


 そして衝撃を出来るだけ殺して着地する。もし人がいたら大迷惑だからね。


 落ちるかもしれない。落ちたら大怪我するかもしれない。このスリルにパルクールしてる奴は取り憑かれたのかも知れない。実際楽しいし。


 そんなこんなで結構進み、パルクール作戦(ボーナスタイム)も終わりみたいだ。もう近くに家が無い。なので壁を使って地面に降りる。これからは歩きだ。

 もちろん出来るだけ身を隠して戦闘は避けるが、限界がある。僕は狂戦士であってアサシンとかじゃあないからそんな技術持ってないわけで。


 だから、戦闘になる。


 「Ggggー!」


 無機質な音を発するこの魔物。見た目はかなり蟻に近く、虫らしい頭・胸・腹に6本の足と触覚。

 ただ、サイズが全く違う。コイツは大型犬くらいの大きさだ。ついでに皮膚?虫だから違うか?まぁ…皮膚が金属のようで見る限りは硬そうだ。


 それが3匹。


 「害虫駆除しとこうかぁ」


 一気に駆け出す。蟻もこちらに向かって一斉に走り出す。


 接近。


 先頭の蟻は口に生えた一対の牙で噛みつこうとしてくる。僕は跳躍し、その蟻を踏み付ける。


 そして更に迫る2体の蟻。どちらも噛みつき狙い。


 「Gssyaaーッ!」


 剣を構え、息を整える。


 集中。


 魔力を操作して身体と剣に流す。魔力を纏った身体と剣はぼんやりと赤いオーラを放つ。


 「ラァッ!」


 踏みつけた蟻から飛び降りると同時に2体の蟻に剣を振るう。

 剣は2体の蟻の頭部を二つに引き裂く。身体を捻り、勢いはそのままに踏みつけた蟻の頭の中心に剣を突き刺す。

 

 これで終わりじゃない。


 頭が2つに裂けても、剣を突き刺しても安心するのはまだ速い。

 僕はまだピクピク動く蟻たちの頭を刎ねて、刻む。


 そしてようやく塵となって消えていく。


 コイツら結構しぶといとさっき身をもって知ったので、トドメを刺し切るまでは油断しない。

 さっきは勝ちを確信して足を噛まれた。魔力を纏っていたから痛いで済んだけど。


 そう、僕は魔力をかなり操作出来る様になっている。まあ魔力が何なのかとかは全く分かっていない。


 分かっているのは纏うと、身体能力と防御力が上がり、剣は切れ味だけじゃなく丈夫さも格段に上がること。

 …すごい強い。魔力を制したものが殺し合いを制すといっても過言じゃないんじゃ無いかな?知らんけど。

 さて、考え事はここまでにしてさっさと先に進もう。


 僕は魔石をリュックにしまったらすぐに移動再開した。


 ……………

 ……………

  

 進むこと10分。僕は何かの気配を感じ取る。殺気とか敵意とか嫌な感ではない。

 チラッと視界に動くものが映る。人間の腕だ。


 少し先の建物の屋上に、人影が見える。生存者かな?


 ちょっと寄ってみるか?でもなぁ…。でも手を振ってるって事は何か用があるって事かなぁ。


 う〜ん…ま、行ってみるか!


 建物はそこまで大きくはなく、四階建てくらいの雑居ビルだ。

 中に入るのは少し抵抗がある(もしかしたら罠かも知れないし)。なので壁をよじ登っていこう。近くに魔物もいないし。


 剣が邪魔だったけど、特に問題なく屋上まで登れた。

 

 「す、すごいねキミ」


 「えぇ?なんで壁を登って…」


 そこにいたのは30代くらいの男2人と女2人だ。やはり敵意の様なものは感じない。むしろ心配とかそんな感じ?


 「何か用ですか?」


 そう尋ねると、眼鏡をかけたぽっちゃりした男性が答える。


 「用って訳じゃないんだ。ただ高校生くらいの男の子がひとりで歩いてるから心配で…」


 うわ。もしかしてすげぇ良い人?


 「そうだよ。キミ、ひとりでどうしたの?」

 

 今度はおっとりした雰囲気の女性に尋ねられる。


 「いや〜ちょっとあのデカい塔に行きたくて」


 「え、なんで?」


 「まあちょっと野暮用?っす」


 そう答えると、黙っていた方の真面目そうな男性が話出す。


 「…やめておきなさい。キミ、ご両親は?」


 うそぉ。すごいまともな人たちだ。疑ってごめんなさいね。


 でもどうすっかなー。ちょっぴり面倒。


 「…その。2日前、化け物に…」


 全員表情が固まった。何か申し訳ない。


 「す、すまない。デリケートな話を…」


 「ご、ごめんねぇ」


 うわぁ罪悪感やべぇー!こんな事ならいっそガチの悪人の方がマシだった。


 「あの。すんません、自分もう行きます…」

 

 「あ、ああ。引き止めてごめんな…」


 すげぇ申し訳ないので足早にこの場を去った。今度は建物の階段を通って。

 

 

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  最後に塔についてだけど、多分塔があるのは中央区。ここからは車で1時間、つまりこの状況じゃあ決死の覚悟で挑む旅だ。あまり現実的じゃないね。 …徒歩で1時間半?
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