殺す。殺した。レベルが上がる。
「■■■ッ!」
意味のない声が自然と発してしまう。いや、これは咆哮だ。敵を威嚇し、自分を奮い立たせるための。
拳を握りしめ敵に向かっていく。一歩踏み出すたびに、敵と近づくたびに身体が燃えるように熱くなっていく。けれど、それと反比例するように頭は思考は氷のように冷えていく。
敵は1匹。武器は石斧。背丈は130くらい。
僕は1人。武器はない。相手より僕は大きい。
敵を視る。自分を知る。考える。考えて、殺す。
状況は不利?敵は武器を持ってる。でもフィジカルはかなり勝っているが…不安が残る。
けど、身体は勝手に動き始めた。敵を殺すその為に。
「シャァッ!」
攻めろ。何もさせるな。殴り、蹴り、殺す。
速度を上げ接近する。ゴブリンは驚きで歩みを止めた。隙が生まれた。殴りかかる。狙うのは頭。
拳が完璧にゴブリンの顔面に直撃する。骨が砕ける音が骨を伝って聞こえてきて不快だ。
そのままゴブリンは1メートルほど吹っ飛ぶ。手に持っていた斧を手放した。
「ギィ…ギィ…」
ゴブリンが泣くようにうめき声を出すが気にせず接近する。
鼻と口から青色の血を流しうずくまるゴブリンにトドメを刺す為、頭を地面に打ち付ける。全体重を右足に乗せて2回ほど打ち付けたところで。
「……」
ゴブリンは一度痙攣したように震えると完全に沈黙した。
戦闘時間は3分も経っていないだろう。意外とあっけなかった。
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《戦闘終了》
《ゴブリンを討伐しました》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上昇しました》
《ステータスを確認してください》
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脳みそに直接謎の声が響く。気持ちが悪い。
ゴブリンの死体を見つめていたら変化が起きた。ゴブリンの死体が少しずつ崩れていく。崩れた箇所は塵になっていく。
後に残ったのは塵と紫色の石、いや水晶?とゴブリンが持っていた石斧だけだ。
僕は身体の熱を放出するように息を吐き、呼吸を整えていく。
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《スキル「精神汚染」が停止しました》
《精神状態が通常に戻ります》
《スキル「バーサーク」が停止しました》
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どっと疲れが身体を襲ってきて、僕は思わず地面に座り込む。さっきまでの頭の回転が嘘のように何も考えられない。頭を整理しよう。
ゴブリンと戦って…殺して…レベル上がって?
「…ダメだ、わけわかんねぇ。」
やっぱ無理だ…今すぐ考えるのは諦めよう…
僕は取り敢えず倒れた自転車を起こし、ゴブリンが残したものを鞄に詰め、再び走り始めた。