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死んでいくのは嘆く者




 嘆き、絶望する者から死んでいく。

 次に死ぬのは悩み、足を止めた者だろう。


 だから、悩むのはやめよう。まだ、死ねない。

 けど、後悔は止められない。

 それに、悲しくはない。何故なら彼女は大切な存在ではなかったから。

 

 嘆いてはいない。悲しみはない。後悔はある。怒りもある。それと同時に安堵も無いとは言い切れない。


 面倒な事にならなくて良かったと、思ってしまう自分がいる。


――なんて、醜いんだろう。

 

 心臓を貫かれ、死んでしまった彼女の血を浴びて、そう思った。


 それでも。醜かろうが、愚かだろうが、幼かろうが、敵を殺すのに関係はない。


 「…《闘争本能》、《狂身狂霊》」


 狂気には逃げない。狂戦士としてではなく、一人の男として剣を振るう。


 「《英雄特権:限定解放》」


 視界に映るのは三つの死体と、四メートルほど先に死体を作った魔物が1匹。


 この魔物に名前を付けるのなら、()()()()だろうか。


 バケツ三杯分くらいの水らしき液体の塊が、うねうねと動いている。

 その液体の中に浮かぶテニスボールくらいの球体が恐らくは核、人でいう心臓。急所だろう。だと信じたい。


 「《剣術…ッ!」


 スライムが体の一部を鞭のように変え、薙ぎ払う。


 攻撃を止め、しゃがんで回避する。


 かなりの速度で広範囲な攻撃。その分威力はそこまで強くは無さそうだ。

 さっきは形をドリルのように変えて心臓を貫いていた。

 

 自由自在。変幻自在。


 今までにない戦いだ。常識は当て嵌まらない。よく観て、覚えて、考えろ。


――biiyaaー!


 スライムは鞭を四本に増やし、癇癪を起こした子どもの様に無茶苦茶に振るう。


 右から一本、左からニ本、上から一本ほぼ同時のタイミング。


 後ろに退いて回避…いや、斬り落とす!


 「《英雄特権:限定解放》」


 ()()が溢れ出し、剣に流れていく。


 「《剣術:空斬》」


 一歩踏み出し、剣を半円を描くように振るい、全ての鞭を斬り落した。


 スライムは体を鞭状にして伸ばした分、本体が小さくなった。


 攻めるなら今…!


 一気に駆け出し、接近する。


 「《剣術:地割》」


 剣が魔力を纏い、光を放つ。


――pyaaaー!

 

 スライムの水のような体が変形を始める。恐らくあのドリル形態だ。喰らうのはまずい。


 けど、遅い。


 「シィッ!」


 スライムの液体の体を切り裂き、核を二つに断った。


――bi、bi……


 液体状の体は蒸発するように消えていき、最後には魔石が一つ、残されていた。


 人を三人殺した魔物にしては呆気ない終わり。いや、何人殺したとか関係ないか。

 

 ただ僕は、彼女たちの死が眩むほどの強烈な何かを、求めていただけかもしれない。


 「はぁ…」


 ため息が漏れる。気が重い。勝ったのに殺したのに何も嬉しくない。


 死体を弔う余裕はない。先に進もう。


 魔物とは違って、人の死体と血は消えてくれない。だから、僕の服は赤く染まったままだった。


 ……………

 ……………

 

 さて、もうすぐ家に着いてしまう。それは喜ばしいけれど、まだ母さんたちと合流出来てはいない。もう家に着いているのなら良いんだけど。


 ちなみにここに来るまでにゴブリンと一回、犬と一回、木の魔物と二回の計四回戦闘があったけど、レベルは上がらなかった。

 何より人の死体が三つほど転がっていたのが精神的にキツかった。

 割と体力と精神の限界。


 だけど、ようやく我が家に到着!安心感がヤバい。泣きそう。めっちゃ眼うるうるしてる。


 家のインターホンを鳴らす。少しして鍵が空いた音がして扉が開いた。


 僕を出迎えてくれたのは()()()()()()()()()


 「トキリンおかえり!!元気か!?なんか血塗れだな!」


 「朱鷺!よく生きてたな!絶対死んだと思ってた!」

  

 へらへら笑いやがって…くそっ…なんか涙でそう。


 「元気じゃないし、血塗れだし、死にかけた。おかげさまで」


 「ごめんって」


 「マジかっこよかったっす先輩!」


 二人と話しながら靴を脱ぎ、剣とリュックを置く。


 リビングに入ると、皆んなが出迎え…てはくれなかった。


 母さんと咲季は血塗れの僕を見てうるさいし。


 父さんはまだハ◯ターハ◯ター読んでるし。


 浩二さんとタカシのお母さんはなんか卒業アルバム見て泣いてるし。


 まっちゃんのお兄さんの滝さんは目が逝ってる。多分ステータス見てるんだろう。  


 まっちゃんのお父さんに至ってはどこ?あ、机の下で寝てる。


 「はぁ…」


 ため息がまた出てしまった。


 けど、今のため息は、嬉しさを隠せていなかった。


 「まずオヤジは漫画読むのやめろ!クソ野郎か?息子が死にかけてんのによお!」


 「あ、ごめん」


 「めっちゃ血ついてる!血ついてる!死んじゃう死んじゃう!包帯!絆創膏!救急車!」


 「わ、私は治癒師。私は治癒師…治す治す治す大丈夫大丈夫大丈夫…」


 「大丈夫だから!もう治ったから!死なないから!」


 「うぅ〜。ずっと三人で遊んで、うぅ、うっ。あぁ〜あっ。ヒック。だけど、朱鷺くんはぁああ〜」


 「いや、生きてます!殺さないで!」


 もう無茶苦茶過ぎる…。とりあえず落ち着くまでに着替えとか済ませてしまおう。


 それからタオルを浴槽に貯めた水で濡らして体を拭き、服を着替えた。


 そしてリビングに戻るとようやく落ち着いたようだった。


 「いやーすまないね朱鷺くん。取り乱してしまって」


 ほんとですよ。


 「お兄ちゃんほんとに大丈夫なの?」


 大丈夫です。


 「いや、マジ反省してる。てか、本気で心配してた。だから漫画読んで気を紛らわせてたんだよ!」


 ふーん、あっそ。


 「まあまあ一旦情報を共有しよっか!ねぇトキリン!」


 せやな。



英雄の周りの人間はよく死にます。英雄の試練に巻き込まれたりで。


まあ今回は試練とかじゃなく単に運が悪かっただけですけど。

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