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狂身狂霊


 1対6。


 サッカーやバスケ、バレーなどスポーツだったとしても勝つのは不可能と言っても過言じゃ無いだろう。

 

 それが殺し合いなら尚更のこと。


 「はァ…はァ……」


 戦闘が始まりわずか3分、僕は既に息を切らしていた。


 今は近くの家の屋根に避難しているが、もうすぐそこに迫ってきている。


 戦いは数。なるほど、これは真理だ。


 この戦いで痛感した。1対1なら勝てる相手とはいえ、同時に6体相手するんだから、なかなかキツい。


 だけど、時間を稼ぐくらいなら。

 


――ひヒッ!おいツいタぞ!シね!シね!



 「■■ッ!」


 追ってきてくれてありがとう!じゃあ堕ちろ!


 屋根までよじ登って来た魚人を槍で突き落とす。魚人は受け身など取れず地面に落下し、鈍い衝突音が聞こえる。


 これなら相手の数も関係ない。登って来たやつを突き落とすだけなんだから。


 やばい、自分が天才すぎて恐ろしいわ。


 と思ったけど。相手も別に馬鹿じゃない。


――おオ、にンゲんンン。


――ヒひっ!しネ!しネ!


 手に持ってた刺又?銛?を僕めがけ投擲してくる。狙いは甘く、掠りもしない。


 けど、それを5体同時にされたらどうだろう。


 数打ちゃ当たる。これも真理。


 四本目の銛が完全に僕を捉えている。しゃがめ込んで回避。

 五本目が飛んでくる。当たるか当たらないか微妙なコース。それでも一応避けようとして足を踏み出す。


 けどここは屋根。結構角度があるし、湿っている。


 つまり転んだ。


 体勢を崩し、落下しそうになるが、掴まってギリギリで堪える。


 あっぶねぇぇ!投擲は人間の専売特許だろうがっ!パクんじゃねえよ!カス!


――すべっタ!おチてこイ!おチてこイ!


 このまま屋根にいてもこれの繰り返しか。なら。


 「■■ァ!」


 このまま飛び降りてそのまま一体は殺す(もっていく)


 喰らえ!位置エネルギーキック!


 顔面に蹴りを入れ、衝撃を消すように着地。


 このまま他の魚人が来る前に殺し切る!


 両手で槍を構え、心臓(きゅうしょ)に狙いをつけて、穿つ!


――ぃぎギッ!


 まだ殺し切れてない!槍を更に深く押し込み、心の臓を完全に貫く。貫いた!


 魚人は塵となって消える。


 向こうは残り五体。一体を除きほぼ無傷。

 こっちは体力を結構、槍が後どれだけ持つか心配ってとこ。


 キツいけど、希望が見えてきた。


 …僕は気づいていない。目的が時間稼ぎから、敵の殺害に切り替わっていることに。

 

 笑みを浮かべていることに。


 殺し合いに、愉悦を感じ始めていることに。

 

 「は、ははァ…」


――GiaaAA!


2体の魚人が並んで迫ってくる。


 片方に集中すればもう片方に殺られるし、両方同時に相手しなければいけない訳だ。


 ちょっとキツいな。それでもやるしかない。


 息を吐く。吸う。相手を視界の中心で捉える。


 「ォ■■ァアッ!」


 まずは右から。槍を高く構えて、叩きつける!


 魚人は両腕で防いだ。けど、かなり良い手応え。骨は逝ったろ。


――iggyaa!?


 それ悲鳴か?キモいな。


 身体ごと引いて、槍を戻し、腰の辺りで構える。


 左のヤツが体当たり(タックル)を仕掛けようとしてくる。丁度良い。今度はお前。


 体当たりを右に飛んで回避。体当たりを外してガラ空きの今がチャンス。


 そのまま体勢を深く。膝のバネを一気に解き放つイメージで。


 今!


 槍は腹に突き刺さり、貫通した。けど、殺せてない!ここまで深いと抜くのも難しい。出血で死ぬのを待つしかない。完全にミスった。


 一旦引く。


 武器がない。丸腰は無理だ。いや、アイツらの銛を拾えばいっか!ナイスアイデア!


 近くの家の屋根に登りに行くついでに銛を二本確保。槍一本で2体に負傷、更に二本武器ゲットだからプラスだな。


 屋根に登ると、無傷の3体が、銛を拾おうとしているのが見える。


 どうしようかね。銛は二本あるから投げて攻撃しても良いけど当たる自信はない。

 まあここは息を整えて体力を回復だな。それと相手の出方次第か。


 「……?」

 

 アイツら、何してる?


 無傷の魚人たちは負傷した魚人たちを囲んでいる。何かの儀式?なら止めたいけど…。

 すると、血が飛び散ったのが見える。


 魚人は共食いを始めた。負傷した魚人に牙を立て齧り付いている。もちろん悲鳴は上げているが抵抗はしていない。

 狂気的としか言いようの無い様を見て、思考が一瞬停止する。


 そして突然、寒気が走る。首筋に電流が走ったような感覚。

 それと同時に、ヤツらから尋常ではないナニかを感じる。


 恐らく、()()だ。ドス黒く、深く、恐ろしい。


 魚人達を中心に謎の文様が地面に浮かび上がり、黒い煙が発生した。煙は広がらず、魚人達を覆った。


 今すぐ手を出したいが、その異様な雰囲気に手を出さない。


 そして、煙が薄まり中にいるモノのシルエットが見える。

 数は一つだ。


 煙が完全に消える。そこにいたのは、二回り以上は大きくなり、4メートルは越す魚人だった。


――GiiaaAAA!!


 とてつもない咆哮。民家のガラスは震え、今にも割れそうだ。僕の鼓膜も。


 合体って。ダs…特撮ヒーローかよ。


 ジロリと、巨大で、虚な眼をこちらに向けてくる。虚なのに、敵意は感じる不思議。ごめんて。


 図体には似合わない速度でこちらに向かってくる。一歩進むたび、振動が伝わってくる。


 やるしかないかぁ…。


 「フゥー…」


 お得意の体当たりか。このまま屋根で迎え討つ。下に降りたら踏み潰されそうだし。


――SYaaa!!


 デカ魚人の体当たりが家に直撃する寸前で跳び、背後をとった。

 

 家は半壊し、あのまま喰らっていたらどうなっていたかよく分かる。

 

 このまま両手に持った銛を背中に突き刺す!


――nGiiyaa!??


 うるっせぇぇ!!口が近いから余計うるさい!

 

 滅茶苦茶に激しく動き、振り落とそうとしてくるが、絶対に離さない。


 右手の銛を、足で背中を蹴って強引に引き抜き上に突き刺す。


 左も同じく引き抜いて突き刺す。


 魚人が吠えてうるさい。どうやら背中から地面に勢いよく倒れ込み、僕を押し潰そうとしているらしい。


 殺す(とった)


 「■■ァ!」



 銛を、()()()()()()()()()()


 銛を刺す反動で下に勢いよく降りる。全速力で下から抜け出す!


 間に合うか…!?


 ………………

 ………………


 ギリギリで間に合わなかったらしく、鱗が腕と足に刺さって痛い。鱗がちょっとした小魚くらいの大きさで、硬いし鋭い。


 下敷きにならなかったのは幸運だった。多分死んでた。


 刺さった鱗を抜いていたら、悪寒が全身を襲う。


 今すぐここから離れ…!


 何かが直撃する。


 咄嗟に防御し、なんとか防ぐがそのまま吹っ飛び、後ろの塀に勢いよくぶつかった。


 「ぅっぐぁ…く…そ」


 殴り飛ばされたんだ。まだ生きてたアイツに。


――Gia"a"a"


 大音量の咆哮が頭に響いて痛い。全身が痛い。息が苦しい。けど、アイツもかなり傷を負っている。いや、アイツの方がかなり。


 動け…!立て…!トドメを刺せ…!


 「ぉォオッ!」


 動ける。骨は少し折れただけ。血だって大して出てねぇ!その程度の傷、痛み!


 戦士なら!狂戦士なら!英雄なら!


 「し、ねェッッ!」


 近くに落ちていた銛を拾う。持ち手が途中で折れていて短い。けど、殺すには十分。


 魚人は満身創痍だ。銛が背中から貫通している。ギリギリで心臓からズレてしまった。だが、致命傷に違いはない。


 すぐに死んで塵となるだろう。それでも、死ぬまでアイツは殺しに来る。


 今すぐに尽きるだろう命を削り、燃やし、殺しに来る。


 なんて。なんて()()()()()だろう!



 僕は殺されかけている!死にかけの相手に!


 ああ、楽しい!気持ちが良い!


 こんなにも人生で生を実感したことがあったか!?


 ないんだ。適当に生まれて、適当に育って、適当に生きていた。


 けど、今は違う。()を懸けて殺し合っている!


――a"a"a"!!


 「■■■ァアッッ!」


 心臓に、銛を突き立てる。


 ありがとう。命を教えてくれて。



 深く、深く。押し込む。ねじ込み。確実に心臓を破壊する。



 「――ありがとう」


―――――――――――――――――――――――――

《戦闘が終了しました》

《経験値を獲得しました》

《レベルが2上昇しました》

―――――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――――

《全スキル、アビリティを解除します》

《アビリティ「生存本能」が「狂身狂霊」に変化しました》

―――――――――――――――――――――――――



 


アビリティが変化するのは人格にかなりの変化があった時だけです。

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