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ここは任せて先に行け

戦闘まだです。スミマセン。


 「ここは任せて先に行け!」


 別にふざけてないんですよ。咄嗟に出た言葉これだっただけで。


 僕だって、まさか自分がこんな馬鹿みたいな死亡フラグを建てるなんて思ってもなかった。


 ……………………

 ……………………


 タカシが全員に問う。


 「で、これからどうすんの?」


 現在、会議中。議題はこれからのことについて。


 「それは、短期的な意味?長期的な意味?」

 

 「え?あ〜……短期の方?」


 まず問いに反応したのはタカシの父、浩二さん。逆に質問し返した。

 短期的、つまり今日や明日の行動についてなのか。

 長期的、一週間や一ヶ月の範囲なのか。


 「そうだね。私はとしては兎にも角にも、此処から離れるべきだと思うよ」

 

 「此処からって、この家ですか?それとも海の近くからって事ですか?」


 「海の方だね」


 母さんが浩二さんに質問した。


 「海がどうかしたんですか?」


 「それがですね、恵さんたちは見た、いや戦ったでしょうあの半魚人」


 「アレ、海からやって来てるんですよ。それも、続々と」


 まあ魚だもんなあ、来るなら海だよな。じゃなくて!大事なのは続々と、の方だ。


 「それは二階から見たんです?」


 浩二さんは頷き、肯定した。


 確かにタカシの家は結構な高さの場所に建ってるし、海からも結構近いから浜辺が見えるのか。


 「じゃあとりあえず此処から離れるのは良いとして、どこにどうやって避難するかですよね?」


 そう聞いたのは、まっちゃんのお父さん、名前は忘れた。ゆうなんとかだった気がする。


 「そうだね。それで朱鷺くんと恵さん。車できたんですよね?車はどの辺に?」

 

 そういえばまだ言っていなかったと、母さんと目を合わせる。

 目でやりとりして、母さんが言うことになった。


 「それが…車が動かなかったんですよね…」


 浩二さんが眉を顰めて質問する。


 「それは、先日から?それとも今日いきなり故障したんです?」


 「昨日までは普通でしたよ。ただ今日は何回やってもエンジンが掛からなくて…」


 そこでタカシが提案する。


 「ウチのも調べてこよーぜ」

 

 



 調べた結果、エンジンはかからなかった。


 まだ二台しか調べていないから確実ではないが、こんな状況とはいえ、街に車一つ走っていないってことは多分、何かしらの力が働いているのは間違いない。


 「"らしく"なって来たじゃん」


 そう言ってまっちゃんは少し笑った。その後すぐお兄さんに不謹慎なこと言うなと、怒られていたけど。


 「じゃあ歩いて行くしかないってこと?困ったわね…」


 タカシのお母さんが不安そうに頭を抱えている。

 

 「大丈夫、何とかするさ」

 

 浩二さんはそのまま奥さんを抱きしめた。イケメンが過ぎないか?勘弁してほしい。

 若干気まずい空気になってるし、早く離れて下さい。


 「おっと、すみません。それで提案なんですが、恵さん、私たちをお家にお邪魔させてもらえませんか。」


 「恵さん、ウチもお願いできませんか?男三人で邪魔くさいですけど…」


 話の転換がかなり強引だったけど、家の大黒柱たちが頭を下げている。

 

 返答はもちろん。



 「もうっ。当たり前じゃないですか!頭を上げて下さい!」

 

 「ありがとうございます!」

 

 「ありがとうございます、恵さん!」


 これでとりあえず決まったな。早めに移動の準備を済ませてもらおう。


 「よし、じゃあ早速準備しましょうか。手伝いますよ!」


 「家を出る準備は終わらせておいたぜ!俺の指示でな!」


 アッ、そうなの…。さすがまっちゃんだわ。


 もっと思い出の家を置いて出て行く葛藤とかないんすか?いや、もう済ませたんですかね…何より命が一番ですよね…。


 なんかでしゃばった感出てない?大丈夫?恥ずいんだけど。


 「ありがとう朱鷺くん。外でもその調子で頼むよ。君がこの中で一番強いんだろう?」


 そうだそうだ。戦闘こそ僕の本領。ぜひ任して欲しい。


 

 それから、荷物の最終確認と、全員の職業(ジョブ)とレベルをもう一度確認しておく。


 ・僕―狂戦士―レベル8

 ・母さん―魔術師(水)―レベル2

 ・まっちゃん―魔術師(火)―レベル2

 ・まっちゃん兄―狩人―レベル1

 ・まっちゃん父―戦士―レベル1

 ・タカシ―剣士―レベル1

 ・浩二さん―軍師―レベル1

 ・タカシ母―治癒師―レベル1


 そうだな…前衛三人に後衛五人かあ…でもまあ何とかなるか?

 いや、問題は武器が無いことなんだよな。持ってるのは槍と斧の二つだし。斧はタカシに渡しておいたし。

 何か代用できるもの…長くて硬い棒が有ればなんとでもなるか。まっちゃんのお父さんには物干し竿でも使ってもらおう。


 タカシのお兄さんの狩人はスキルで周りを偵察できるっぽいし、攻撃できなくても問題ない。

 軍師の職業は、味方への支援、つまりゲームでいうバフを配るバッファー?で、安定感がアップ。

 治癒師もいるから怪我も安心?


 おお!結構良さそうだな。


 「そろそろ出るよ。準備は本当に大丈夫?」


 浩二さんの声が耳に入り、意識を現実に戻す。もう出発か、ドキドキして来た。


 玄関に移動し、扉の前に立つ。僕は一番に出るから先頭だな。


 「じゃあスキル使ってみます。《索敵》……大丈夫です。近くにはいないみたいです」


 「滝くんありがとう。それじゃあ、一応扉を開けたらまず前衛?組が周りを確認、安全を確保次第、静かに素早く焦らず移動。全員いいね?」


 全員、真剣な顔で頷いた。

 

 「よし、行くぞ……前衛組、頼んだ」


 扉が開き、すぐに外に出る。右隣にタカシ、左にまっちゃんのお父さんがいる。


 外は、町は、薄い()で覆われていた。


 先が見えないほどではない、けれど明らかに異常事態。


 「うわあ…マジか。どうなってんのコレ?」


 「全くわからん。けどあの魚人もいなさそうだし、さっさと進もう」


 「じゃあ俺が残りを呼んでくる…気をつけてな」


 そう言ってまっちゃんのお父さんが後衛組を呼びに行くと、すぐに出て来て、同じよう驚いていた。


 「霧?」


 「だ、大丈夫かなぁ?」


 いつまでも留まるのは怖いから、とりあえず進もう。


 「進みましょう。僕が先頭で行きます」



 移動を始めて十分は経った。その間何度も滝さんが索敵のスキルを使用し、魔物との遭遇を避けて進んでいる。


 戦闘は一度もない。索敵のスキルが有るとはいえ、行きと比べ明らかに魔物との遭遇が少ない。霧の影響なんだろうか?


 集中していて気が付かなかったが全く会話がない。なので後ろを振り返り、みんなの様子を見る。


 全員顔を青白くし、下を向いて足を進めていた。


 「ど、どうかした?顔色すごい悪いケド…?」


 そこで全員、ハッとして顔をあげる。


 「あ、ああ。少しボーッとしていた…すまない。こんな時に…」


 ボーッとしていたにしては様子が変だったし、普通こんな時にそうはならないよな?


 不気味だな…やっぱり霧と何か関係してんのか?


 さっさと抜けてしまいたい。もう結構海から離れた筈だし、そろそろじゃないか?


 「えーと、滝さん?そろそろ索敵使ってもらって良いですか?」


 少し遅れて、返事が返ってくる。


 「…あ、ああうん。今使ってみる」

 

 索敵、と呟いた声が聞こえる。他の誰も口を開いていないので、よく聞こえた。


 「は?」


 「なに?どうかした?魔物?」

 

 滝さんの零した声に母さんが反応した。


 「う、後ろから5体?いや、6体何か近づいてます!」


 頭が切り替わる。生存の道を探し、冷たく速く、思考が回転する。


 「後衛は下がって攻撃準備!前衛は前に出て武器を構えて!」


 スキルとアビリティを発動する。狂戦精神とバーサークはまだ使わない。使うのは「英雄」と「戦闘本能」、「生存本能」。


 発動したタイミングで、追ってきた魔物の姿を捉える。


 あれ、全部魚人か!しかも武器持ち?無理じゃね?


 すぐに判断を下す。勝てない、いますぐ退避。

 

「勝てません、逃げます!タカシたち前衛が先頭!全力で逃げて下さい!」


 「はあ!?逃げんの!?てか、トキリンは!?」


 「僕は、ここで時間稼ぎ。文句は受け付けてないです!さっさと行け!」


 タカシもまっちゃんも、全員が馬鹿を言うな。みんなで逃げようと抜かす。


 こっちこそ馬鹿を言うなと言いたい。逃げ切れる訳がないだろ。現実を見ろバカが。


 僕の判断に「生存本能」が馬鹿みたいに頭に警告の意味を込めた頭痛を響かす。


 けど、これでいい。


 「ここは任せて先に行け!」


 そう言うと、まっちゃんとタカシは笑った。こんな時にふざけてんなよと。絶対死ぬなと。



 ………………

 ………………

 

 準備は完了。気合は十分。


 敵は6体。しかも結構強い。霧が濃くなり、視界は悪い。


 絶望的で、つい笑ってしまう。アイツらも、笑ってる気がする。


 なんだか、ハッピーな雰囲気だ。


 「■■■ァッ!死ッねェッ!!」


 

 

 

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