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焼き魚とイキる友だち


 今すぐ襲いかかりたい衝動を抑え、先頭の邪魔になる母さんを退ける。


 「ちょっと離れてて!動けるようになったら援護!」


 母さんを退けて、槍を拾う。今はリーチの長い槍で様子見、時間を稼いで母さんの魔術で動きを妨害、一気に畳み掛ける。


 作戦はおっけ。後は実行するだけだ。


 「■■■ァ!」


 槍を両手で軽く振るい、牽制。


 人魚は後ろに避け、動きを停止。顔が限りなく魚だから感情が全く読めない。


 どう出る…?


――お、オマえ。なンか変ダ。ほントに人間カ?


 どっからどう見ても人間だろうが化け物!煽ってんのかクソ!死ね!バーカ!  


 深呼吸…落ち着いて…殺そう…。


 「■■ッ■■―!」


  最速で踏み込み、最速で槍を振るう。刃が人魚の鱗の生えた肌を軽く撫で、切り裂く。


 いい感じ。けど作戦は何処に行った?様子見しろよ様子見。


――イぃぃタァい!いたイいたイ!なニした!オマえ!


 切った肌から煙が上がり、爛れ始め、身をよじる程の痛みに襲われているらしい。


 うわー痛そう!気分が良いね!死ね!


 原因は不明だけど、まあ良い。ラッキーだ。怯んでるうちに殺そう。


 思ったより、弱か…ッて!


 待て待て。さっきもそうだったよな。油断したから攻撃を受けたんだろ?すぐ忘れてるじゃねぇか。本当に馬鹿だな。学習しろ。油断するな。驕るな。


 「フゥ――」


 良く考えろ。あんだけ痛がってるのは僕の攻撃で間違いない。だけど今まであんな状態になった魔物はいなかった。


 発動していたよく分からん英雄のスキルの効果だろうな。英雄のスキルは謎が多い。特権だのなんだの、日本に何人だの…。


 まあそれは置いておく。大事なのは今の僕の攻撃はアイツにかなり有効な事。つまり殺せる。


 油断せず、確実に着実に殺る。それが一番。


 よし、じゃあまずは動きを封じる。足と腕を狙う。最後に眼、首、心臓。急所を狙う。


 「■■ッ!」

 

 まずは右腕。高さをつけて振り下ろす。


 勢いの乗った一撃は皮膚を破り肉を裂いたが、骨は断てず止まってしまった。 

 やっぱ槍じゃあ骨は断ちにくいな、斧じゃないと。刃が薄いんだよね。


 急いで槍を外し、距離を取る。


――ァア"!オ、まえ"え"!!


 走って距離を詰め、そのまま左腕の大振りな殴り掛かってくる。


 後ろに飛んで回避する。


 そのまま相手は勢いよく突っ込んでくる。体当たりか。


 ギリギリで右に転んで回避。避けきれず少し掠り、逆立った鱗が僕の服を破り、肌を裂いた。


 ピリッとした痛み。だがその程度。


 体勢を持ち直し、槍を構える。


 その時、人魚の足元に水溜りが発生した。


――nぎぃ!?


 落とし穴の魔術!母さんの援護か!


 「ォ■■!」


 人魚は前のめりになった。槍で追撃し完全に転倒。隙を逃さず、左腕、右足に深い傷を与えた。


 傷から煙が上がり、人魚は激しい痛みに悶えている。

 

 一気にトドメを刺したいが、手負いの敵は何するか分からない。一旦引いて斧取ってこよう。


――あ、アァ…。ワれらが主よ…。さいゴに、チカラを…!


 明らかにパワーアップするパターンだろコレ。勘弁してくれ。第二形態とか洒落にならんから此処で殺す。


 まるで()()()()()()()()()()()跪き、両手を握り始めた。


 いや、怖ぇな…。いま仕掛けて良いのか?いきなり自爆とかしない…?


 悩んでいたら突然。


 「朱鷺ぃ!一旦下がれ!」


 この声は、まっちゃん!


 指示どうり距離を置くと、人魚に何かの液体を浴びせ、小声で何か呟いた。


 いや、魔術の詠唱か!


 そう気づくと同時にまっちゃんの前にバスケットボールくらいの火の玉が現れ、人魚に向かって飛んでいった。


 火の玉は直撃し、火が燃え盛る。多分あの液体はガソリンとかその辺りか。


 「ナイス援護。流石だわ」


 「まァね。てかよくこっちまで来れたな。そっちの方がスゲェよ」


 「レベル上げついでに君たちの様子見に来たンすよ。まあ無事で良かった、タカシは?」


 「ああ、タカシは…って!朱鷺、アイツまだ生きてる!」


 あ、忘れてた。感動の再会を邪魔すんなよな。


 火はいつの間にか消え、人魚は全身を火傷しながらも立ち上がり、こちらに向かってきた。


 「うわヤバいヤバいぃ!」


 右手に持った斧を放し、槍を両手で持つ。


 槍で足元を払うと、簡単に転んだ。まあかなり右足斬ったし、全身傷だらけだしな。


 今度は槍を手放して斧を拾う。


 呼吸を整え、力強く踏み込み、振り下ろす!


 斧が首の太い骨に当たり、ガツンと衝撃が伝わってきたが、構わず更に力を込め骨を断つ。


 首を落としても死ななかった前例があるので、ついでに頭を蹴り飛ばし、残ったデカイ身体からも目を離さない。

 …すぐに人魚は塵となり、魔石を残して消えていった。


―――――――――――――――――――――――――

《戦闘が終了しました》

《経験値を獲得しました》

《スキル「狂戦精神」「バーサーク」が解除されます》

《スキル「英雄」の■■■■が解除されます》

―――――――――――――――――――――――――


 「よし、おっけ。」


 「うぇぇ〜。グロっ!最後に眼ぇあったんだけど!」


 全身火傷させた奴が何を今更グロいとか。まあ確かに首の断面は未だ慣れはしないけど。

 

 「はぁあぁ〜怖かった…。もう帰りたい…」

 

 「あ、母さんもナイス援護。助かったわ」


 「朱鷺のお母さんも魔術師なんスね。てか、ここまでお疲れ様っス」

 

 話したいのは山々だけど、外だしいつまた魔物に襲われるか分からんし、とりあえずどこか安全な所行きたいな。

 

 「とりあえずどっか家とかに入りたいんだけど…」


 「タカシん家行くぞ。俺の家族も集まってるし」


 まっちゃんが有能すぎる…。株爆上がりなんだが。


 槍と魔石を回収したらすぐに移動を開始した。

 

 かなり近くまで来ていたので、少し話をしただけですぐにタカシの家に着いた。


 「あ、扉を5回ノックするのが開ける合図だから」


 「合図とかも決めてんのな…」


 まあな。とまっちゃんが頷くと、扉が開いたので中に入った。


 「ただいまっす」


 「お邪魔しまーす」


 玄関にはタカシとタカシのお父さんがいた。


 「え。トキリンじゃんナンデ!?」


 「おぉ!海斗くん!無事でよかった。それに朱鷺くん…と恵さん?とりあえず入って入って」

 

 リビングに案内され、入ると中にはタカシのお母さん、まっちゃんのお父さんとお兄ちゃんがいた。


 「海斗くんおかえり〜。あれ、朱鷺くん?」


 「あ、お邪魔します」


 それから少し落ち着いた後、これまでの事を簡単にではあるが伝えた。


 「トキリンやるじゃん。今レベルいくつ?」


 「俺も気になってた!今何レベなん?」


 タカシにレベルを聞かれ、隠すこともないのでレベル8だと答えた。


 「は?マジ?メ◯ルスライムでも倒したんか?」


 「メタ◯スライムとは遭遇もしてないッスね〜。てか、タカシの職業なに?」


 「ああ、俺剣士だったわ。勇者でも良かったんだけどなァー!」

 

 タカシは勇者って感じじゃないけどな。それよりも何故まっちゃんが単独で外に出てたのか気になったので聞いた。


 「コイツいきなり『俺、主人公かも知れねぇ。いや、主人公だわ。試してくる』とか言って一人で外出て行ったからね。まじヤバいでしょ」


 「えぇ…?で、主人公だったんですか?」


 「朱鷺の方が主人公っぽくてムカついたけど…まあ朱鷺のピンチ救ったし、やっぱ主人公でしたわ!」


 別にピンチでも無かったけどな。まあそうゆう事にしといてやろう。助けられたのは事実だし。

 

 「そろそろ良いかな?これからのことについて相談したいんだけど」


 「あ、スミマセン」


 タカシのお父さん、浩二さんは少し口角を上げ優しい眼をして言った。


 「構わないよ。若者は人生を楽しまないとね。とはいえ命が掛かっているから、真剣に行こう」


 うわイケメン!こんな父親が欲しかったなあ〜。それに比べてうちのオヤジは…。いや、やめておこう。

虚しいだけだ。


 はあ…。


 ………………………

 

 ………………………

 

 「お兄ちゃんたち、大丈夫かな?」


 「ん〜大丈夫だろ」


 不安そうな娘とは違い、父親にそんな様子はない。


 「何でそんな落ち着いてんの?心配じゃないの?人の心がない畜生なの?」


 「急に辛辣だな…。まあそうだな」


 問われた父親は自信を持って答える。


 「俺の息子がついてるからな」


 そう言ってドヤ顔する父に、娘は。


 軽蔑した眼差しを、送るだけであった。

 

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