英雄特権
滑り込みセーフ!
間に合ったか!?
荒ぶり過ぎた、落ち着け、落ち着いて殺せ。
眼を閉じる。
当然ながら視界は暗転し何も見えなくなる。
それでも眼を閉じて、息を整え、心を鎮める。
耳で聴き、肌で感じる。
あと三歩、二歩、一…
――今
「シィッアァ!」
下から斬り上げた剣は敵を捉え、頭部を二つに割った。
眼を開き、周囲を見渡す。殺した犬の魔物は魔石を残して消え、二体のゴブリンが迫ってきている。他にもこちらに魔物達が移動してきている音も聞こえてきた。
迫ってくるゴブリンの一体は足払いして転倒させ、その隙にもう一体の方を斧で頭をカチ割る。床に倒したゴブリンの首も刎ねる。
これで入口近くの魔物は処理できたが、追加で三体ほどゴブリンがやってきた。
場所は悪くない、このスーパーの中なら広い方だろう。けど、囲まれるのはキツい。
出来れば自分から攻めに行きたいが…辞めておこう。高い商品棚が並んでて死角が多いし、狭い。
だから、ここで向い討つ。
左右から二体、正面から一体が迫ってくる。まずは正面を瞬殺、次に右、左の順で処理しよう。ただし臨機応変に!
正面のヤツに近くにあった果物の袋を投げつけ牽制、避けようとした所で一気に接近し、剣で斬りつける。
「チッ」
殺せなかったが、放っておいても出血で死ぬだろう。他のゴブリンが近づいてきてるし、放置だ。
「ギャァッア!」
「ギィッヒィ!」
くそっ!かなり近づいてる!
剣じゃ殺り難いと判断して、剣を手放して斧を右手に持ち替える。
左側のゴブリンが果物を投げてきたので、頭を逸らして避ける。
「……」
やっぱり左のヤツから殺す。他の個体より頭が良いのかも知れない。そうじゃなくても殺す。
まず体勢を崩す、じゃないと殺しにくい。なので蹴りを入れる。ゴブリンは腕で防御したが、強引に蹴り飛ばす。
飛ばした隙に、もう一体のゴブリンを勢いよく肘で殴る。
肘はとても硬い部分だから威力が高いと聞いたことがあるけど、マジだった。鼻が曲がり、歯も折れている。
痛みに悶えている内に斧で頭をかち割った。すぐに、蹴り飛ばしたゴブリンも首を刎ねて殺した。
右側から来ていたゴブリンが手に持つ棍棒を僕を狙い振るう。
「ギィぃぃ!」
駄目だ、避けれない。
腕で攻撃を受ける。衝撃が腕を通り、全身に響く。痛い、痛いが、我慢できないほどじゃない!
腕で受け止めた棍棒を奪い取って、そのまま殴る。殴って、さらに近づいてくるゴブリンに投げつける。
斧で首を斬りつけると、血が噴き出し、服にかかった。すぐにトドメを刺し、血液ごと、消えてもらった。
「ハァ…ハァ…」
さすがに、キツい。こうも連続して戦い続けると、体力が持たない。
当たり前の話だが、何キロもある斧を振るったり、全力で蹴ったり、殴ったりすれば疲れる。それが命を賭けた殺し合いの中でなら尚更だ。
レベルアップでステータスも上昇しているとはいえ、無理なもんは無理か。
僕、この戦いが終わったらコ◯ラ飲むんだ!
「シャアアアッ!!」
気合を入れろ、殺意を放て。
こんな雑魚どもに負けてるようじゃこの先、生き残れない。
コイツら全員経験値に変えて、もっともっと強くなる。そンでもっと、強いヤツを倒して経験値に変えて、さらに強くなる…完璧な計画!
だからまずは、この戦いで勝つ。
投げつけた棍棒を拾おうとしているゴブリンの腹を蹴飛ばし、置いておいた剣で心臓を突き、殺した。
後ろから足音が一つ、犬の魔物だ。
どんどん近づいてくるが、まだ振り向かない。まだ、まだ、今!
振り向き様に、剣で斬る。毛皮を斬りつけただけだ、まだ致命傷じゃない。
――ドンッ!
商品棚が勢いよく倒れる音が店中に響く。埃が舞い、鼻がムズムズする。
棚を倒したのは、チラリと見えていた、他の個体より大きく、ガタイの良いゴブリンだ。果たしてゴブリンなのかどうか分からないが、見た目は大体同じだ。
とりあえず犬の魔物を殺す。ちょうど埃が舞っているせいか、不愉快そうに頭を振るっているので、そのまま斧で頭をかち割る。
斧の刃を見ると、素人目にも分かるほど、傷んできた。まだ持つだろうけど、不安だな。
で、コイツだ。僕より一回り小さいくらいだから身長は160くらい。痩せ型で、力は強くなさそうだけど、ステータスなんてものもある訳だし、見た目だけで判断は出来ないな。
「おい、お前。金、持ってるか?」
「ギィ…?」
もちろん言葉なんて通じないと思うけど、一応聞いておこうか。好き勝手飯漁ってるけど、金持ってんのか、と。
それに対する反応はぎぃ。よし、殺そう!
「しねぇぇぇ!」
「ギィ!?」
まずは剣を振るう。が、後ろに下がって回避された。
それなりに速かったし、他のゴブリンなら斬れてたケド。避けるか。
そのまま斧で追撃。これも避けられた。
そうだな…二刀流はダメだな。
完全狂気モードなら上手く扱えてたけど、今の僕は半々くらいだからな。正気と狂気が半分。いや、狭間の方が合ってるか。
それは置いといて、やっぱ斧だな。剣を投げつけてやっても良いが、拾われると厄介か。
剣は自分の後ろに放り投げる。
その瞬間、大ゴブリンが勢いよく、大振りで殴りかかってくる。
しゃがみ込んで回避。そのまま足を斧で断ち切ってやろうと振るったが、跳躍して回避された。
落ちてくる勢いを乗せ、上から叩き付けるような蹴りを放ってくるが、横に転んで回避する。
「ギッヒヒ!」
「楽しいか?気が合うな。死ね!」
楽しいな。今までで一番殺し合いって感じだ。攻撃して回避されて、攻撃されて避けて。楽しいぞ、コレ。
とはいえ、あんまり余裕もない。さっさと殺して家に帰る。
それじゃ、行くぞ。自分でも理解してないが、使えるようになった技だ。
「英雄特権:限定解放」
勝手に喉が震え、舌が口が動き、音を発する。英雄特権…?
まあいい。強そうだし。
―――斧術
臍の下の辺り、丹田?とりあえずそのあたりから何かエネルギーが発生し、身体を巡り、右腕を伝って手に持つ斧に流れていくのを感じる。
直感で理解する。このエネルギーは魔力だと。それが斧に流れ込んでいく。すると、斧がほんのり光を纏い出した。
―――木断
最速で斧が振われる。ギリギリ目で追えたが…マジか!こりゃヤバイ!
すぐに何が起きたか証明された。大ゴブリンの上半身がズレ堕ちた。
美しいと感じるほど綺麗な断面をしているのが、よく見える。背骨もバッサリだ。
って、見惚れてる場合じゃねえや。もうこれ以上は帰る余裕が無くなりそうだ。
これで戦闘は終了!これより帰還する!
急いで魔石を拾ってトンズラする。ついでに、咲季の好きなキウイフルーツをこっそり頂く。いっぱい倒したからね。正当な報酬だよ。報酬。
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《戦闘が終了しました》
《全スキルが停止されました。アビリティ「闘争本能」が停止しました》
《レベルが2上昇しました》
《レベルが5に到達しました。スキルを一つ獲得できます。終末世界攻略サイトが利用可能になりました》
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