人助けは一石二鳥?
周りを見渡して、近くに魔物がいないか確認する。見たところいなさそうだし、これで気兼ねなくレベル上げに行けるな。
目的地は一番近くのスーパーと、その周りの住宅地。
距離は自転車で十分くらいなので遠くはないのだけど、なんせこんな状況だから、二十分以上は掛かるかもしれない。
僕は空き地に移動して、剣を振るってみる。上から下に、下から上に、剣を振るう。
これで良いのか悪いのか、それすらも分からないが、殺し合いになったら自然と使いこなせるという確信のようなものを感じていた。いや、流石に自意識過剰だな、油断しないよう気をつけよう。
剣に鞘は付いてこなかったので、このまま手に持って行くしかない。見つかったら完全に警察さんのお世話になりそうだが、その警察さんが生きてるかどうかも分からんし。でも、拳銃とか持ってるし大丈夫か。
剣の軽すぎる練習を終えた僕は、目的地に向けて歩き出した。
遠くでは家事が起きているのか、煙が上がっているのが見える。
それと、今更ながら気が付いたが視力が上がった気がする。あと聴力も。
レベルアップの効果かな?ステータスも上がってるだろうし。
―――タッ、タッ
僕の耳が何かの音を察知した。これは、足音か?かなり軽い音だけど……
視界が遠くの曲がり角から茶色い何かが飛び出してきたのを捉えた。
なかなかの速度だ。大きさは中型犬くらいか?ていうか犬か?にしては纏う空気?が変な感じだ。殺気のようなものを感じる気がする。
ぐんぐん近づいてくる。立ち漕ぎした自転車くらい速いな。
敵か。
僕はそう判断を下し、剣を構える。
――――――――――――――――――――――――
《スキル「英雄」、アビリティ「闘争本能」を発動します》
――――――――――――――――――――――――
八十メートルくらいあった距離を縮めていく。五十、三十、十メートル……!
頭が冷えていく。冷えて、冷えて、研ぎ澄まされていく。
勢いに乗って、すごい速度で飛びかかってくる。そこを、狙って。
「はァッ!」
脚を踏み込み、剣を頭の横あたりで構え、相手にあわせて、剣を、振り下ろす!
――命を絶った、感触を、音を感じた。
完璧に決まった。硬い骨に覆われる頭を、縦に断ち切った。
名前不明の初めて見た魔物は、地面に落下した音以外立てることもなく、コイツもまた、魔石だけを残して消えた。
――――――――――――――――――――――――《戦闘が終了しました》
《レベルが上昇しました》
《ステータスを確認して下さい》
――――――――――――――――――――――――
深呼吸して、息を整える。
冷や汗かいていたので、袖で拭う。
こんな奴もいるのか……どのくらいの数がいるのか分からないけど、囲まれたらヤバそうだな。
今のは一体だけだし、正面から襲ってきたから良かったけど、何処から来るかもわからず、集団だったら、殺されるかも知れない。
残していった魔石を拾い、リュックにしまう。手首を回し、身体をリラックスさせたら、再び歩き出した。
数分歩くと、視界に映る家が増えてきた。怒号や悲鳴など、人の存在を知らせる音が聞こえてくる。
人がいるのは嬉しい気持ちもあるけど、面倒事も増えそうだよなぁ……って、早速か。
「っ助けて下さい!襲われてます!変な奴らに!」
「くそっ!ちょっとまっ、〜痛ってぇぇ!」
家の外に出て、数体のゴブリンと戦っている男の人がいる。近所の人を助けようとした所で、ゴブリンに腰を棍棒で攻撃された。
助けに入るか、見捨てるか。
まあ余裕あるし、経験値稼ぎたいし、助けよう。少し距離はあるけど、レベルも上がってるし、すぐに着くか。
スキルとアビリティが発動したのを聞いたら、軽くた息を吸って、一気に走り出す!
ゴブリンも男の人もこちらに気が付き、動きを止めた。
その隙に走りながら剣を右手で肩に担ぐように構え、勢いよくゴブリンに振るう。
そのまま狙ったゴブリンを袈裟斬りする。空いた左手で二体目のゴブリンを殴り飛ばす。
体勢を整え、敵の数と状態を確認する。
見た感じ、ゴブリンが四体いるだけだ。
その内の一体は致命傷、一体は殴ったので倒れている。残りの二体もこの男の人がしたのか、軽い怪我を負い、血を流している。
人もいるし、剣を置き、小回りの利く斧に持ち替え、殺しにかかる。
軽傷のゴブリンたちを牽制しながら、倒れているゴブリンを男の人の方に蹴飛ばす。
「コイツ、任せます」
驚いているようだが、構っていられない。
二体のゴブリンは横並びになっているので、襲いにくい。
そうだな……まあいっか!勢いに任せる!
距離を詰め、左側のゴブリンに斧を叩きつけるように振るう。
斧は頭蓋骨を割り、頭の半分くらいで止まった。消えるのを待つのも、斧を引き抜く暇もない。
斧を手放し、残ったゴブリンを殺しにいく。
ゴブリンが手に持つ棍棒を振るってきたので、両手で掴む。ズンと、衝撃が腕を伝うが、無視して棍棒を強引に奪い取る。
体勢を崩し、フラつくゴブリンに所謂ヤクザキックのような蹴りを入れ、倒れたところに棍棒を振るい、トドメを刺す。
斧で殺したゴブリンが魔石を残して消えたので、斧を拾い、向こうの状態を確認する。
「ハァ…ハァ…」
どうやら男の人の方も片付いたようだ。僕の置いておいた剣で殺したらしい。
肩で息をする男の人に話しかける。
「大丈夫ですか?」
俯いていた顔をあげ、こちらを見る。
「ああ…ありがとう…君こそ、大丈夫か…?」
人の心配を出来るくらいの余裕はあるみたいだ。良かった良かった。
「僕は問題ないです。動けます?」
「腰は痛いけどね、動けるよ」
あ、そうだ。一応、ステータスが見れるのか、見れたら職業は何か確認しておきたいな。
「あ、ありがとうございます!助けてもらって」
「ッあ、いえ。ドウイタシマシテ…」
急に話しかけられてビックリした。そういえば居たな、もう一人襲われてた人が。影薄くないか?この人。
「あー、その、皆さん。自分の職業って分かります?」
「え、ジョブ?仕事のことですか?」
「俺は唯のサラリーマンだけど…」
質問ミスったな。これじゃ訳わかんないか。
「えっと、そうじゃなくてっすね。とりあえずステータスって言ってみてもらっても良いですか?」
二人は不思議そうな顔をしながらも、ステータスと唱え、同時に目を開いて驚いた。
「…何ですかこれ?」
「え、何これ。ゲームじゃん」
それから二人に、見たであろう夢の話や、ステータス、魔物についてなど説明した。
「つまり、私たちかなり危ないって事ですか!?」
「嘘だろ…唯の夢じゃないのか…でも実際こうなってる訳だし…」
「悩んでるとこ、申し訳ないんですけど、とりあえず室内行ったほうがいいですよ」
そう言うと、二人はハッとして、謝ってきた。別にそれは良いけどね。
僕は二人の謝罪を軽く流し、魔石や武器を回収してきた。
「じゃあ、自分はこれで」
「え?君はこれからどうするの?」
「近くにスーパーハウリンあるじゃないですか、そこに行こうかなって」
「何しに行くの?」
女の人が質問してくる。
「いや、ただレベル上げしに行こうかなって」
そう言ったら、男の人が苦笑いして、僕に言った。
「レベル上げって言うと、何かゲームみたいで気が抜けるなあ」
「確かに。まあゲームと違って命懸けですけどね」
人との会話は、気を楽にしてくれる。ちょうどいい息抜きになった。
「それじゃ、お気をつけて」
「ああ、君の方こそ、気をつけてね!」
「助けてくれてありがとう!」
人助けして正解だったな。一人よりも安全に経験値も稼げるし、気分もいいしで、一石二鳥だ。
そうだ、出発する前にステータス見ておこうかな。
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水柳 朱鷺 職業ジョブ:狂戦士 レベル:4(↑2)
身体状態:通常
精神状態:通常
生命力:130(↑20)
持久力:90(↑20)
魔力:40(↑10)
筋力:25(↑10)
技量:14(↑6)
敏捷:14(↑6)
耐久力:25(↑10)
精神力:14(↑6)
知力:14(↑6)
――――――――――スキル―――――――――――
狂戦精神 バーサーク 生命力強化 身体能力強化
英雄 斧術(new)
――――――――――アビリティ―――――――――
生存本能 闘争本能
――――――――――――――――――――――――
おお、良いね。かなりステータス上がってるし、スキルも増えてる。
これは、名前の通り、斧を使うのに関係するすきるかな?どんな効果があるか分からないけど、あって困るもんじゃないだろ!
僕は良い気分で走り出した。