帰宅、魔術、剣、出発
遅くなってすみません。
落ち着いたので更新速度も上げていきます。
リュックから水を取り出し、飲む。美味い。
安全とは言え、あの家の中で休憩するのは精神的に来るものがあるので、外に出た。
なんだかんだで、我が家を出発してから20分は経過しているし、一回様子を見に行くことにする。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。……血の臭いがしたのでマイナス効果だった。
「……はあ」
心配だし、いったん家に戻ろう。そのあとの事は後で考えれば良いンだよ。切り替えていこ。
気は沈んでいるけど、警戒は怠らず、足早に移動する。
周りには特に魔物はいない様で、遭遇することなく我が家に到着した。
襲われている感じはないが、一応確認したいので、インターホンを鳴らす。多分電池式だから動くと思うんだけど。
微かに物音がする。扉の覗き口から確認しに来たようだ。
確認も済んだのか、扉が開き、声を掛けられる。
「朱鷺!無事だったか!?怪我は!?」
父さんが出てきた。元気そうで良かった。
「大丈夫っす、怪我ないっす」
「そうか、良かった!まあ中で話そう」
20分くらいしか経っていないはずなのに、我が家をとても懐かしく感じた。
「ただいまー」
母さんと咲季が出迎えてくれた。二人とも安心した表情を浮かべている。
「おかえり。結構早かったね、なに?びびって帰ってきた?」
「帰って早々言ってくれンねぇ……」
咲季に挑発されるが、これは照れ隠しみたいなもんだろう。たぶん。きっと。
それからみんなでリビングに集まり、外で見てきたこと、近所の爺さん婆さん達やお姉さんとこの家は襲われ、亡くなっていたことを伝えた。
「そうか、古泉さんと田村さん達が……もう、か」
「まあそれで外に出て思ったのは、僕だけじゃなくて、早急に、全員のレベルを上げたいなって」
今起きているのは、地震とか津波とかの天災じゃない。
これは戦争なんだ。殺し合い、悪意と殺意が起こしているんだ。引き籠もっているだけじゃ、すぐに、死ぬだろう。
「だから、全員が強くなって、僕たちは殺される側じゃなく、殺す側にならないといけないと思う」
みんな暗い顔をしながら考えている。家に沈黙が流れる。そのせいか、外から微かに悲鳴が聞こえた気がした。
「……ああ。俺は賛成だ。けど、問題はどうするかだ」
父さんが賛成してくれた。それに続いて咲季と母さんも賛成してくれる。
「どうするかだけど、まずこれまで通り僕がレベルを上げる。それから多分、僕以外唯一の戦闘系の母さんのレベルを上げて、それから二人のレベルも、って感じかな?」
「わ、私?あ、そっか。私、魔術師なのよね」
こんなんで大丈夫かなぁ……心配になってきた。
「今のうちに、母さんの魔術のスキル決める?選べたんだよね?」
「えーと、火・水・土・風属性の中から一つ選べるけど……どうする?」
判断の材料が名前くらいしか無いからなぁ、ゲームとかと大体同じなら良いんだけど。
それに、レベルが上がったりすれば別の魔術も習得できると思う。そうであって欲しい。
「たぶんだけど、どの魔術が強いとかじゃないと思うんだよね。どの魔術も長所と短所があるみたいなね」
「確かにな。まあ母さんが好きに選んだ方が良いんじゃないか?」
「私も母さんが選べば良いと思う」
それから母さんは少し考えたあと、どの魔術にするか決めたらしい。
「よし、決めた。水の魔術にする」
そう言って母さんはステータスと呟いて、水魔術を選んだ。
「すごい!三つも魔術使えるみたい!」
なんでも、使えるようになった三つの魔術は、「発生:水」、「設置:水陥穽」、「射出:水球」の三つだったらしい。
名前から察するに、水を作る魔術、恐らく罠を仕掛ける魔術、最後に攻撃用の魔術だろう。
それにしても、嬉しいのは分かるが、四十代の母親がぴょんぴょん跳ねて喜んでいる様を見続けるのは、かなり精神にクるものがある。
まあこれで一安心だな。戦力が増えたから、さっきよりは気楽にレベル上げが出来るな、
「母さんが魔術を使えるようになったし、僕はまた外行ってくるわ」
母さんが跳ねるのをやめ、僕を驚いた顔で見つめてくる。父さんも咲季も同じような顔だ。
「え、お兄ちゃんまた行くの?」
「さっき話したじゃん。レベル上げるって」
「いや、確かに言ってはいたけど……もうちょっとゆっくりしてけば?」
「善は急げだよ。あ、それと父さん、魔石とってきたから武器作ってくれる?」
忘れるとこだった。せっかく七個も魔石があるんだからもう一つ武器を作ってもらおう。次は剣を使ってみたい。
「はぁーー。分かった。武器も作るし、外に行ってきても良い。けど、約束は続いてるからな。それを忘れんなよ」
「うん。絶対生きて帰ってくる。」
それからリュックから魔石を全部出して余った4つは家に残していく。父さんから作ってもらった剣を受け取る。
受け取った剣は、大きさは一メートルに届くか、というくらい。重さは二キログラムくらいかな?
見た目は、オーソドックスな剣と言えばいいんだろうか?ロングソード?みたいな感じだ。
使いこなせるか分からないが、斧に比べればリーチがあるのはかなり良いな。リーチだけ見れば槍が一番だろうけど、家の中に入ったりすることを考えたら、剣が良いかな。
それに何よりカッコいいよな。やっぱコレだよ。
勇者感出るわ、ヘルメットで台無しだけどな!
「じゃあ、準備したら行くわ」
ヘルメットを被り、手袋をして、リュックの中身を確認……大丈夫だな。
玄関に移動して、靴を履き、紐を固く結んだ所で父さんが話しかけてきた。
「そう言えばさ、暑くないか?その格好。今八月なの、に、って!なんで気づかなかったんだ!そうだよ!八月だぞ!」
あ、確かに、おかしいな。昨日まで普通に今日くらいの雲の多い日でも、30度はあったのに。今日は、とても過ごしやすい気温だった。
でもまあ……ねぇ?
「あんま気にしすぎてもサ、禿げが進行しちゃうーゾ」
「禿げてねぇよ!!!」
完全にさっきと同じ流れだ。でも今回の咲季の表情は不安よりも怒りって感じだな。
「お父さんうるさい!お兄ちゃんもさっさと行くなら行って!」
「はいはい行ってきまーす。それじゃ気をつけてね」
「お兄ちゃんがね……ホントに」
扉の覗き口から外を見る。ナニも居なさそうだ。一瞬で外に出て。すぐ扉を閉める。
手に持っている剣の柄を強く握る。腰に下げている斧を見る。
次に向かうのは、一番近くのスーパーに決めた。たぶん、沢山、敵がいるだろう。