だって狂戦士だもん
BOXイベが悪いのよ…遅かったのは…きっと
別に、見知らぬ誰かの為に、自分を、家族を危険に晒そうとしてまで、人を助けようとはこれっぽっちも思わない。
だけど、気に食わない。
僕の住む街が、国が、知り合いが、日常が、破壊されることが、辱められることが。
理性は働いている。頭は今までにないほど冷たく、加速している。
だからこそ、この結論が出た。
「ちょっと、トイレ行ってきていっすか?」
「その斧を持ってか?」
これからするのは、ただの殺し合い、レベル上げだ。自分の為に、家族の為に、殺して殺して、強くなる。
リスクを冒してでも、強くならなければならないと、理性も本能も、そう結論を出した。
全員から止められる。父さんと母さんはともかく、咲季は止めんなよ。と思わないでもないケド。
「……助けに行くのか」
「いや、違うけど」
「じゃあ何しに行くつもりだ?」
父さんの疑問にはこう答えるしかねぇよな。これが100%の本心なんだから。
「レベル上げしてくる。ついでに武器も試してくる」
「……は?」
「え?兄ちゃん?」
「朱鷺?」
驚くのも無理はない。意味がわからないだろう。息子が、襲われている人を助けに行こうとしていると思っていたら、レベル上げとか言い出すんだからな!
「別に人を助けるつもりも、そんな余裕もないでしょ。取り敢えず5レベ目標に、ちょっと殺してくるわ!」
「朱鷺。ふざけてる場合じゃねえってお前も分かってんだろ?ダメだ、親としてそんなことは許可しない」
「分かってないのは父さんの方だと思うけど?」
別にふざけてなんかいない。僕は自分の判断がベストとまでは行かないけど、グッドくらいの選択だと思ってる。
「意味が無い、いや、先がない。引きこもってるだけじゃ。確かにまだ早いかも知れないけど、言い換えればスタートダッシュを切れる」
「分かってる。食糧だって無限じゃないし、七日も経てば精神的にも辛いだろうさ。けど、早すぎる。せめて今日一日は様子見だろ」
確かに、そんなに急ぐ必要はない。今日一日は現状の把握と、能力の確認に当てるのがベストな選択かも知れない。
けど、僕は!レベル上げてぇんだわ!ステータスも上げたい!スキルも増やしたい!もっと強くなりたい!戦いたい!殺したい!殺し合いたいんだよ!
欲求が抑えられなくなって来てる。けど、これは異常じゃない。
いや、周りから見れば異常でしかないと感じるかも知れないけど、僕は狂戦士なんだ。
おかしくて、狂って見えて当たり前なんだよ。だって狂戦士なんだもん!
「うん。それがベストの選択だと思う」
「なら!」
「でも、僕はレベルを上げたい。正直に言えば、戦いたい」
「わ、我が儘言うな!てか、こんなに可愛くない我が儘は人生で初めてだわ!」
「ちょ、お父さん。声大きいって。私たちも襲われちゃう……」
咲季が泣きそうになりながら、お父さんを宥めた。ちょっとヒートアップしてしまった。母さんもアワアワして慌てている。
「す、すまん。気をつける……」
「じゃ、行ってきて良い?」
「良い訳ないだろうが……」
父さんが頭を抱えた。目頭を揉んでから深呼吸して、考え込み始めた。
家が静寂に包まれる。
最近の父さんはツッコミ担当みたいな風潮があったが、なんだかんだいって、家の大黒柱、まとめ役なのだ。
父さんが口を開く。
「はぁーーー。分かった。行ってこい。どうせ何言っても聞かんだろ」
長いため息の後、父さんからの許可を頂いた。
「あざっす!」
「軽いなオイ。だ、が、勿論条件はある」
父さんの出した条件は、怪我するな。無茶するな。死ぬな。危なくなったらすぐに帰ってこい。てか、1時間以内に帰ってこい。自分を最優先しろ。死ぬな。化け物は連れて帰ってくるな。それから、死んだら許さん!の以上であった。
本当に、素晴らしい父親を持ったと、自分でも思う。
息子の馬鹿な提案を真剣に聴いて、考えてくれて。馬鹿な僕を見捨てず、心配してくれて。感謝しかない。
「了解。準備したら行くわ」
まずは服、いや防具だな。何か良さげなのあるかな?それから武器は斧と出刃包丁で良いか。他には……
「お兄ちゃん……ホントに行くの?」
「おう。レベル上げて来るわ。5レベになると何かあるらしいし」
「わ、私も、行くっ!私が言い出したんだもん!私が行かなきゃ……それじゃ」
「いや、いいよ。馬鹿なことすんのは兄ちゃんの仕事だろ?頭の良いお前はみんなでスキルの研究とか荷物の整理とかしててくんね?適材適所的な?」
それっきり、咲季は黙り込んでしまった。どうやら、咲季に僕の頭の悪さが感染したらしい。申し訳ねぇな。
ま、咲季のことは置いといて、さっさと準備しましょうね。
僕はレベル上げの準備を始めた。まず、防具と言えるほどの物は持ってないし、変に厚着して動きが悪くなるのもダメだよなあ。
頭と心臓、あと手足を最低限守れればいいか。ステータスには耐久力とかいうのがあったし、不思議パワーで防御力上がってねぇかな。それに、攻撃を喰らわなければ良いだけだし。
色々考えた結果、僕の見た目はかなりおかしくなったけど、仕方ないね、性能重視だからね。
まず頭に中学生の時に使っていた自転車の時に被る青色のヘルメット。手には工事の時に使うようなゴム手袋。服はちょっと厚めのパーカーに、ズボンは部活で使っていたシャカパンの組み合わせ。
うーん、ダサい。
ダサいけど、見た目など命の前では唯のゴミなんだ。そう、ゴミなんだ。ゴミのはずなのに、くそっ。恥ずかしいっ。でも、行くしかねぇ!
リュックに水やカロリー◯イト、消毒液に包帯と絆創膏など、万が一の時のための物を詰める。
それから腕時計をつけて、右手に斧を持ち、出刃包丁は鞘をしたままリュックの脇のペットボトル入れに。
「じゃあ、行ってくる」
玄関まで移動し、運動靴を履いたら扉の前に立つ。みんなが見送りに来た。これが最後の別れになるかも知れないしね。
「絶対、生きて帰ってこい」
「怪我したら怒るからね」
「……」
咲季が何も喋らないので僕から話しかける。
「あ、咲季。何か飲みたいジュースとかねぇの?取ってきてやろうか?」
「バカっ!さっさと行ってきてよ!」
「ごめごめ。じゃあ、僕が出たらすぐに鍵閉めてな」
咲季は泣きそうな顔をしていた。いや、母さんも、父さんも。つられて僕も泣きそうになってしまうので、やめて欲しい。これから殺し合いするんだから。視界が悪くなってしまう。
「っ!お兄ちゃん!絶対死んじゃダメだからね!」
「当たり前だろ。あと、みんなも、気をつけて」
扉の覗き穴から、家の前にナニもいない事を確認すると、一瞬で外に出る。
扉が閉まり、鍵が掛かった音を聞き届けたら、すぐに周りを見渡した。
外は、街は、一変していた。
何故気付けなかったのか。
いや、気付こうとしなかっただけなのか。
この悲鳴に、この地獄に。
魔物たちが家を壊し、人を襲い、殺している。悲鳴を上げ、助けを願い、逃げて、殺される。
人を引き摺り、仲間と喰い、犯している。猫や犬は殴り、蹴られ、血塗れだ。
だけど、この惨劇を見て、僕は、良かったと、安堵した。
この人たちが襲われているお陰で、僕たち家族は襲われていなかったのだから。けど、同じ末路を辿るまで、時間の問題だっただろう。閉じこもっているだけだったなら!
けど、今、僕はこうして外に出て、こいつら魔物を殺すに充分な力も持っている!
なら、あとは今まで通り、狂気に身を委ねろ
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《スキル「狂戦精神」「バーサーク」が自動発動しました》
《精神状態が狂気に固定されます》
《アビリティ「闘争本能」が発動しました》
《スキル「英雄」が発動しました》
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「――■■■■ッ■ァァ!!」
咆哮を上げろ!敵を呼べ!狂気に委ねろ!本能に従え!殲滅しろ!何も考えるな!武器を振るえ!目の前の奴らに!
殺せ、壊せ、斬れ、裂け、殴り、蹴り殺せ!
「ッ■■――■■ッァ!!」