斧を作った。多数決取った。
家族とこれからのことを相談していたらもう7時を迎えていた。日曜日といえどこのくらいの時間になれば人の動きは活発になるだろう。
つまり、襲われる人が増えていくということだ。まあ、今は他人の心配をしている場合ではない。せめてタカシとまっちゃん、それともう一人の知り合いの安否だけでも確認したかったが、テレビもスマホも使えなくなってしまったのだ。かなりヤバイことになっていると家族全員が改めて認識した。
それと、僕は家族会議で何とか単独で行動する許可を得ようと頑張ったが、流石に認められなかった。これからは出来るだけ家族でまとまって行動することになった。出来れば一人でレベル上げしたり、スキルの確認をしたりしたかったけど、流石にダメだった。
食料は2週間持つかどうかくらい、家中の窓をガムテープなどで補強し、カーテンを閉めた。それと、家族全員のスキル、ステータスを確認しておいた。
まず、レベルは僕を除き、全員1レベだった。
僕はたぶん0スタートだった筈なんだけど、この差はなんなんだろう。
それと、アビリティについてだが、僕以外にはアビリティの欄すらなかったらしい。
でも、どっちも後回しだな。考えるだけ時間の無駄だ。
じゃあ次は職業とスキルについてまとめよう。
父さんは「鍛治職人」で、スキルは武器作製、防具作製、道具作製、の三つだった。武器作製は使えるらしいが、他の二つはレベルが足りないらしく、使うことが出来ない。
妹の咲季は「治癒師」。スキルは魔力強化、魔力操作、治癒魔術の三つだ。魔力も魔術も分からないことだらけだが、治癒師はゲームで言うところのヒーラーかな?かなり有難い職業だと思う。
母さんは「魔術師」。持っていたスキルは魔力強化、魔力操作、それともう一つは選択制になっていて、何種類かの魔術の中一つから選べるらしい。確か、火魔術、風魔術、水魔術、土魔術の四つだった。これは慎重に選びたい。
母さんと咲季が荷物をまとめたり、家の確認をしている間に、僕と父さんの二人は父さんのスキル、武器作製を試してみる。
「じゃ、父さん。武器作製って言ってみて」
「お、おう。よし、いくぞ!武器作製!」
父親がこんなこと言ってるのを見るの、ちょっと苦痛だな。恥ずかしい気分になるが、このまま続ける。
「どんな感じ?」
「うーん。何でも、剣か槍、斧に弓が作れるらしいんだが、魔石とやらが三つ必要らしい」
ちょうどいいな。たぶん魔石ってのは、あのゴブリンを殺した後に出てきた紫色の水晶のことだろう。それが三つだけで武器が作れるのか。意味不明だな。
「ああ、魔石っぽいの持ってるよ。ちょっと試してみて」
「え、持ってるの?何で?」
「さっき殺したゴブリンが落とした」
「…………そ、そうか。さらっと殺したとか言うようになっちゃったな……」
確かに、自分もビックリなくらい、さらっと出るようになってるんだよな。
多分頭に細工されたんだ。そうだ、そうに違いない。僕は純粋無垢な爽やか好青年だから。喧嘩とか野蛮だよね。マジ無い。
「まあ、気にせんで?それと、魔石っぽいのはそこのリュックの中に入ってるから持ってきてー。作るのは、そうだなぁ……」
どうしようか……どれも魅力的なんだよあ〜。
剣は安定してそうだし、槍はリーチがある。斧は一番使い易そうだし、弓は無理だな。使える自信が無い。
「よし、持ってきたぞ。これが魔石なんだな?」
「たぶんそうだと思うけど……」
「どうするんだ?武器使うの朱鷺くらいだと思うし、好きにすればいいと思うぞ」
迷う、迷うけど。剣も槍も扱う技術なんてないし、力だけでもそれなりに使えそうな斧にしよう。
「あ〜、じゃあ斧に決めた!」
「え、斧?ダサくね?」
「……いいから作って」
「……すまん」
そう言って父さんは、僕からは見えないが、ステータス画面を操作し始めた。
それから、父さんが言っていたが、武器作製には自動作製と手動作製の二種類があるらしい。
でも、武器なんてただのサラリーマンだった人間に作れるわけがないし、この魔石でどう作るのかも分からないので、今回は自動作製で作ることになった。
「よし、じゃあいくぞ。作製開始!」
そう父さんが言った途端、床に置かれた三つの魔石がぐねぐねと、粘土のように動き出し、ひとつにまとまった。
それから、徐々に形を変え、30秒後には、両刃で、片手で持てるくらいの大きさの斧になった。
材質は分からない。柄の部分は木材のようなゴムのような、よう分からない触り心地。刃は鉄のような見た目をしているが、コレ、よく分からない石をよく分からない方法で作ったもんだし。
持ち上げてみると、結構な重さだと感じる。
これは身体能力が上がっていない状態でそう感じるので、戦闘時に身体能力が上がっていると軽く感じるかもしれない。
「どうだ、なんか問題ありそうか?」
「いや、たぶん大丈夫だと思う。ちょっと試してきちゃダメ?」
「ダメに決まってんだろが!完全に狂戦士になってないか!?」
ダメかぁ……てか、職業が狂戦士なだけで、僕の心は一切そんなことないから。そこんとこ勘違いしてほしくないね。
「はいはい。でもいつまでも引き篭もってもられないって分かってるでしょ?」
「当たり前だろ。朱鷺こそ分かってんのか?いざとなったら俺と朱鷺で二人を守るんだからな。」
「分かってるよ。まあ、母さんは魔術師とか言うめちゃくちゃ強そうな職業だけどね。なんなら、父さんが守って貰うことになるかもね」
そうなるかもな。と父さんは苦笑いして言った。
それでも、漢は。夫は。妻と子供を守るんだよ。とも、言った。
「ふふ、お父さん。丸聞こえでしたよ?」
母さんと咲季が近くに来ていた。もともと同じ部屋にいた訳だし、どっちにしろ聞こえてたと思うけど。
父さんは流石に恥ずかしかったのか、顔を赤くして黙り込んでしまった。
それを見て、僕たちは笑った。
幸せだ。こうして家族と笑い合えて。話し合えて。
こんな異常な事態の中でも、我が家はいつも通りだった。これが平和ボケなのか、図太いのか、楽観的なのか、なんなのか分からないけど。
そんな、幸せで、楽しくて、甘い時間の終わりを告げるように、外から悲鳴が聞こえてきた。
街中に響き渡るような声だ。近くはないが遠くはない。そのくらいの距離だと感じた。
全員が目を合わせ、音を立てないよう、静かにしゃがみ、こそこそと、小声で相談を始める。
つまり、助けるか、助けないか、ということだ。
みんな緊張している。当然だ、他人だけじゃ無い、僕たち家族の命がかかってる。
我が家のルールとして、今回のような大事な判断は多数決をとることになっている。
咲季は助けるに。
僕と父さん、母さんは助けない、いや、見捨てるを選んだ。
決まりだ。悲鳴の主は見捨てることになる。だが、咲季は静かに、それでいて激しく異を訴えてくる。
それを父さんは悲しそうな表情で、母さんは泣きそうな表情で首を振って否定する。
「守らせてくれ、お前たちを」
「咲季、ごめんね。ごめん。ほんとに……」
初日から、コレか。
そして、コレだけじゃ終わらないだろう。きっと、いや必ず連鎖するだろう。あんだけでかい声出せば、人だけな訳がない。ゴブリンたちもやってくるだろう。
僕は一つ嫌なことを思い出してしまった。先程の戦闘でゴブリンの股間を蹴った時のことを。
あいつらに、雄としての機能が備わっていることを。




