次世代『竜舞う空の下で』6――END
―――数年後。
薔薇と青と白の小花が彩る庭を、愛らしい幼女が駆けていく。追いかける青年は鮮やかな赤毛だった。転びそうな彼女を捕まえて抱き上げると、歓声を上げた幼女が頬をすり寄せる。
「ミラ、大伯母様がお待ちだ」
ガゼボから溢れるように整えられたお茶会の場は、色とりどりの薔薇に囲まれていた。メレディアス公爵家の庭は、竜国ティタンの重鎮と最強の騎士が集う。公爵家当主エミリオと妻のフランシスカ、彼女の隣に座る嫡男のクルスがホスト役だった。
10歳になったクルスの誕生日は、彼の希望で昼間の庭で行われている。前公爵で祖父のベクトルが、ぎこちない手つきでお茶を淹れた。宰相となったため忙しかった彼だが、ようやく隠居したばかり。後釜は息子に断られたため、黄色い竜に頼んで最終的に押し付けてきた。
「アデライダ大伯母様にご挨拶して」
フランシスカの促しに、アグニは抱き上げた彼のお姫様をレンガのサークルに下ろす。品の良い老婦人へ、ミレーラはスカートの端を摘んで足を片方後ろへ引いた。少し膝を沈ませて頭を下げる。ふらつく淑女の礼に、アデライダ元王妃は頬を緩ませた。
「可愛い淑女だこと、ミレーラは上手ね」
「ありがとうございます。ミラ、ちゃんと出来てた?」
「もちろんだよ、俺のお姫様」
褒めてもらえて嬉しいミレーラは、すぐに斜め後ろの婚約者を振り返った。にっこり笑って銀髪を撫でてもらい、擽ったそうに笑う。
「仲が良くてよかったわ」
お腹が大きいエステファニアが、用意された長椅子でクッションに寄りかかりながらアグニに微笑む。身重で臨月の妻が心配なテュフォンは、長椅子の端に腰掛けて手を握り、目を離さない。
こちらも仲が良い。竜の乙女の伝承が呪いから解き放たれた彼らの子供は、お腹の子を入れて4人目だった。王家に嫁いだ乙女が産むとされる1王子2王女を超える4人目の懐妊は、国民にとって大きなニュースとなった。
「臨月でしょう? そろそろかしら」
アデライダが首をかしげて尋ねると、エステファニアはくすくす笑って「数日中ですわ」と返した。大きなお腹で出歩くのは危険だと、テュフォンが大騒ぎした朝を思い出したのだ。しかし竜の祝福がある乙女なんだから、大丈夫と笑って外出した。医者も多少の運動は必要と言っていたの、そう告げてもテュフォンは心配なのだろう。
大きな腹の上に手を当てて、ずっと撫でていた。仲睦まじい竜帝夫婦に、エミリオが肩を竦めた。
「うちもそろそろ、もう1人欲しいかな」
「そ、そういうことは……後になさいませ」
照れて真っ赤になったフランシスカの頬へ、エミリオがキスを落とす。それを隣で見上げた息子クルスは、無邪気に問うた。
「お父様、ミラに弟か妹ができるのですか?」
「妹欲しい!」
即座に反応したミレーラの希望に、フランシスカは真っ赤な顔で俯いた。既婚なら結い上げる習わしが消え、今はふわふわと巻いて背に流した黒髪が彼女の表情を隠した。
「そうだね。妹かわからないけど……お母様にお願いしてみようか」
「っ、もう!」
エミリオに言い返せず、フランシスカはかつて淑女の必須アイテムだった扇を広げた。顔を隠しているが、赤くなった目元が覗いている。
「カランドラもリアンドラも遅いわよ」
声を上げたアデライダの視線の先に、2人の娘がプレゼントを抱えて近づく姿が見えた。夫と仲睦まじく腕を組み、今日の主役クルスの再従弟妹に当たる子の手を引いて。
「一緒に遊ぼう」
駆け出す子供達は無邪気に駆け回り、泥だらけになって遊び始めた。かつての貴族の子なら禁止されただろう遊びも、今では当たり前の光景だ。誰も禁止せず、咎めない。平民と遊ぶ貴族の子も珍しくなかった。
「明日は街のお友達を呼んで、誕生日会をするんですって。ケーキを焼くから手伝って頂戴ね」
母アデライダの誘いに、カサンドラとリアンドラは嬉しそうに頷いた。穏やかに人々は歩み寄り、やがて身分や種族の壁を乗り越えていくのだろう。竜が舞う、この美しい空の下で―――次世代の子供達は育っていく。
かつて皆が望んだ理想の景色を、現実としながら。
―――END――
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お読みいただきありがとうございました。
外伝もリクエスト消化しましたので、最終話となります。1ヶ月にわたり、お付き合いくださいましたこと、深く感謝申し上げます。
次は聖女かな( ̄ー ̄)ニヤ...




