エミリオ『白く可憐な花の約束』5――END
メレンデス公爵の実姉である王妃殿下の誕生祝いの宴は、最悪の始まりだった。いや、始まりすらしなかったと表現するべきか。
婚約者でありながら、我が妹エステファニアを王太子はエスコートしなかった。僕がエスコートするには、一度婚約者のフランシスカと入場した後で、改めて入場し直す必要がある。いくら婚約者と妹であっても、両側に女性を侍らせるような非礼は許されなかった。これは女性に対する最低限の礼儀だ。
フランシスカをエスコートした後、すぐに戻って妹エステファニアの腕をとる。申し訳なさそうな顔をするエステファニアに、可愛いよと囁いた。今日の彼女は銀髪を真珠の髪飾りで留めている。その身を包むパールピンクのドレスは、白い肌を際立たせた。
メレンデス公爵家特有の緑に金を混ぜた不思議な色の瞳に合わせ、ミントグリーンのドレスと迷ったが、やはりピンクを贈って正解だったようだ。本来なら夜会のドレスは婚約者が贈るのが習わしだが、王太子クラウディオが用意したことはない。用意されたとしても、エステファニアは何か理由をつけて身につけようとしないだろうが。
王宮で顔を合わせても、挨拶もない。婚約者の肩や腰を突然抱き寄せようとする節操のない男が贈る服など、淑女の鑑である妹に纏わせる僕ではなかった。
エスコートした後、フランシスカにエステファニアを頼んで離れる。あの馬鹿王子が最近入れ込んでいる女がいるのは、情報に聡い貴族の間では有名だった。婚約者がいながら、他の女と同衾する乱れた男に対する反発も、煽れるだけ煽っておいた。今夜、僕がそばにいなければ、あの馬鹿は暴走するだろう。
エステファニアに嫌な思いをさせてしまうことが、少し気がかりだ。しかし僕がそばに居て守れば、あの馬鹿は馬脚を現すまで時間がかかる。はしたないドレスの注文から、女をベッドに引き摺り込んだ回数まで、僕に入ってきた情報は呆れ返る内容ばかりだった。
こんなスキャンダル塗れの男が、可愛いエステファニアの婚約者という肩書を持つのは、今夜限りにしてもらおうか。地獄へ突き落とすプランを知っているのは、僕とフランシスカだけ。
あと僅かの我慢だ。そうしたら僕達は可愛い妹をあの馬鹿から取り戻すことが叶う。お膳立ては済んでいる。早く動け。
僕の願いが届いたのか。国王や王妃が不在の玉座の前で、馬鹿王子が声を張り上げた。はしたなく足や胸元を見せつける娼婦のような女の腰を抱き寄せ、いやらしい笑みを貼り付けた男。傲慢にも竜の乙女を見下ろす、道化師の舞台の幕が上がった。
「エステファニア・サラ・メレンデス――お前との婚約を破棄する」
破滅の鐘が鳴る―――さあ、お前の人生の幕を引こうか。我が一族と竜を侮ったセブリオン家滅亡の始まりだ。
―――END――
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思ったより腹黒感が薄い_:(´ཀ`」 ∠):_変ね。もっと黒い人だと思ったんだけど……本編と重なる部分は省いています。このエミリオが本編の裏で何を考えていたか、お好きに想像してください♪
あと「子供編」がクリエストで残ってますね(´∀`*)




