エミリオ『白く可憐な花の約束』2
可愛い妹に加え、婚約者が出来た。彼女は僕より2歳年下で、本当に愛らしい。美しい黒髪は我が家にない色で、母の金髪とも違う艶やかで目を奪われた。健康的な肌を縁取る黒髪の少女は、駆け寄ってきた妹エステファニアにも優しい。
理想的な婚約者に僕は頬を緩めた。愛らしく素直な妹と外見も心も美しい婚約者――彼女達を不幸な目に合わせたくない。僕の未来は決まった。
貴族派と国王派に分かれていた国内の貴族へ、徐々にメレンデス公爵家の存在を広げていく。有名な家名を利用し、夜会やガーデンパーティーに入り込んでは貴族を取り込んだ。
この国の貴族派は、近くメレンデス公爵派に改名されるだろう。自然と呼び名が変わるほど、多くの貴族を取り込むことが出来た。メレンデス公爵家は竜の血筋、王族より格上の我が一族は外見が整った者が多い。
初代の竜の乙女が婚姻を結んだ竜帝から始まり、代々の伴侶は才色兼備な貴族女性が選ばれてきた。年齢が釣り合うこと、実家が大きな力をもつ貴族であること、そして何より美しい外見をもつこと。美形同士が結婚して子を成すことで、次代も美しい外見をもつ。王侯貴族に外見の整った者が多いのは、遺伝による作用だった。
どの貴族も美しい姿を誇る。その花に似た外見に、蜂や蝶が群がるのだ。繰り返される婚姻により、どの貴族も一定以上の水準を保っていた。メレンデス公爵家は一歩抜きん出る美貌と穏やかな話し言葉、絶やさない笑顔の裏で策略を巡らすことが得意な一族だ。
祖父の代から竜の乙女となる娘を助けたいと、改革を行ってきた。その成果が、ようやく僕の代で結実しそうなのだ。出来たら、エステファニアの婚約を解消出来たらいいけど。
そう願う僕の気持ちを知った婚約者フランシスカが、真剣な顔で「話がある」と詰め寄ったのは僕が15歳になった頃だ。思い詰めた様子で、彼女が話してくれたのは……異世界の知識と生まれ変わりの記憶だった。
彼女ではない誰かが話したなら、荒唐無稽だと笑い飛ばしたかもしれない。しかしフランシスカの為人を知る僕は、驚きに目を瞠りながらも最後まで聞いた。
「私が話したことを信じてください。16歳になったティファは王太子クラウディオに婚約破棄されるの」
フランシスカは王太子を「クラウディオ」と敬称なしで呼んだ。不敬罪に問われる呼び方を使ったのは、彼女にとって王太子は尊敬するに値しないと示したのだ。
「僕は君を信じる」
疑う要素はない。婚約破棄は願ったりだ。こちらから婚約解消する手間が不要になるなら、多少の不名誉は僕が晴らせばいい。
「ねえ、フランカ。僕達は良い協力関係を築けると思う。ティファのため、僕達の幸せな未来のため、王家を潰さないか?」
頷いて口元を緩めたフランシスカの、どこか黒い感情を滲ませた微笑が美しくて、彼女の婚約者になれた幸運に感謝した。




