竜帝『光り輝く黄金の宝』2 ――END
「ぴぎゃぁああああ!」
大きな鳴き声だ。母を呼ぶ竜の声と同じ響きで、必死にエステファニアにしがみつく。ぎゅっと胸に指を食い込ませる竜の姿に、エステファニアの口元が緩んだ。
「可愛い……普通にお乳飲ませていいのかしら?」
「構いませんわ」
夫であるため、オレの臨席は許されるらしい。シーツが吸収しきれず流れた羊水に膝を濡らしながら、オレは神秘的な光景に目を奪われた。銀髪の天使が、金竜の子を抱く――神々しい光景に目を細めたところで、後ろに気配を感じた。
「生まれましたか? ティファ、僕にも赤ちゃんを見せて欲しい……っ」
鳴き声に誘われた義兄エミリオと義父ベクトルが部屋に入ろうとしたため、オレは素早く立ち上がって彼らを外へ追い出した。後ろ手にドアを閉め、言い聞かせる。
「ステファニーは授乳中だ」
それ以上の説明は必要なかった。察しのいい2人は顔を見合わせて、肩を竦める。
「わかりました。少しして出直します」
「今日中には孫の顔を見たいものですな」
いくら妻の兄と父であっても、彼女の裸体を見せるわけにいかない。追い払って扉の前でうろうろと歩き回る。少しして、入室の許可を出す白青の竜の声が聞こえた。ノックをして礼儀正しく入室する。
お腹いっぱいになったのか。子竜クラリーサは満足そうに目を閉じていた。そのまま眠りそうなので、抱っこは諦めて見守ることにする。ベッドサイドの椅子に腰掛けると、エステファニアが小さな声で呟いた。
「私、卵を産むなんて想像もしておりませんでしたわ」
「すまない、嫌だったか?」
人間は人の形をした赤子を産むものだ。もしかしたら嫌な体験だったと思ったのでは? 心配から眉をひそめる。もう子供を産むのは嫌だと拒否されたら、どうしよう。
孤立無援で、数十匹の竜に囲まれ攻撃されるより怖い。ぎゅっと拳を握ると、くすくす笑いながらエステファニアが否定してくれた。
「違いますわ。出産って話に聞くと逆子だったり大変でしょう? なのに、つるんと卵を産んでしまって……ズルをした気分です」
大きな卵を産んだせいで痛みに青ざめていた頬も、今は血の気が戻ってきた。産む時に力を込めて白かった指先もピンクに染まっている。向かい側でベッドの端に腰掛けたフランシスカが、羨ましいと口にした。
「私も卵で産みたいですわ」
「まだ半年先の話でしょう」
笑うエステファニアが指摘したとおり、フランシスカのお腹には、クラリーサのいとこになる子が宿る。人間同士の子なので、当然赤子の形で産むことになるだろう。
「フランカのお産は私が手伝うわね」
「お願いするわ。手を握っててもらうと安心するもの」
「リオ兄様が手を握るのではなくて?」
エステファニアの指摘通り、フランシスカを溺愛する義兄は出産に立ち会う。手を握って励まし、下手すれば産婆の仕事を覚えて手伝うと言い出しかねない。全員が同じところまで想像したらしく、大きく溜め息をついた。
「そういえば、ベクトルとエミリオが我らの宝を見たいと言っていたな。呼んでこよう」
頷いたエステファニアの腕の中で猫のように丸まって、クラリーサは眠っていた。その愛らしさに頬を緩めながら、オレは少し離れた部屋に向かう。帰り道に多くの竜がついてきてしまい、部屋に入れないほど大所帯になるのは……少し後のことだ。
―――END――
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まさかの卵出産でした_( _´ω`)_産むの、つるんと出たら楽かな?って思います。
「腹黒エミリオ」、「子供編」がクリエストで残ってますので、明日以降頑張ります!!




