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【完結】私と結婚しない王太子に存在価値はありませんのよ?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
外伝

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アグニ『やがて花開く牡丹』5――END

「今はアグニだ」


 肩を竦める俺の態度と、婚約者の呟いた単語に察しのいいエミリオは「飲み物を取ってくる」と場を離れた。久しぶりの兄妹の再会だ。


「アオイ兄に最後に買ってもらったゲームの世界だって気づいて、自分だけと思ってたけど……アオイ兄が先に来てたなんてね。道理で話のあらすじがおかしいと思った」


 口調がすっかり妹のカリンだった。見た目は侯爵令嬢で、あと2ヶ月で公爵夫人となるのに懐かしい。美しく生まれ変わった妹と、過去に仕掛けたあれこれを語り合うには時間が足りなくて。


 ゆっくりとシャンパンを運んでくれたエミリオからグラスを受け取り、半分ほど飲み干す。そこで気づいた。思ったより緊張していたらしい。フランシスカに、近々会いに行く約束を取り付けた。もちろん、エミリオ同席でなければ会わないという条件付きだ。


 ここまで婚約者に執着され、愛されれば、カリンが不幸になることはない。ああ、フランシスカだったか。名前が少し長いが、ここで愛称呼びをしたらエミリオに殺されそうだった。


「では幸せなカップルの邪魔をしないよう、失礼するとしようか」


「アグニ様、ここでは『カップル』なんて表現は使いませんの。『婚約者』や『恋人』ではありますけれど」


 この世界で身に着けた淑女の仕草で、おしとやかな口ぶりの彼女は――俺が知る妹のカリンじゃない。ロエラ侯爵令嬢のフランシスカに一礼し、仲間のいる一角へ向かった。事情を共有した兄や他の竜から揶揄われながら。







 数日後――竜帝と竜の乙女の結婚式の余韻漂う屋敷の庭で、3人は噴水を眺めていた。フランシスカを真ん中に、左右を俺とエミリオが挟む形だ。噴水が見えるよう設置されたベンチは、後ろに茂みがあるものの人が近づくと見つけやすい。


 内緒話をすると知り、竜達が人払いをしてくれた。おかげで遠慮なく過去の話を口にできる。そこで知ったのは自分の死因だった。


「え? じゃあ事故?」


「そうなのよ。信じられない事故だったわ。誕生日のプレゼントで一緒に遊園地に行った帰り道、私が押されて電車に飛び込んでしまって、助けようとしたお兄ちゃんも一緒にどかん!」


 手のひらを上に向けて「どかん」と示された。全く覚えてないが、カリンが言うならそうだろう。誕生日プレゼントを強請られた記憶はあるから、そのあとが曖昧なのだ。


 こちらに存在しない単語が山ほどあるが、フランシスカはエミリオに説明するつもりのようだ。概念すらない物をどう理解させるのか。それでも言葉を駆使して、カリンは必死に婚約者に説明するのだろう。


 前世の記憶がある事実はエミリオも知っていたので、仲睦まじい2人の心配は不要だ。兄妹だったと知り、エミリオの俺に対する牽制も和らいだ。今後も仲良くやっていきたいものだ。夫婦になる2人を見守り、その子供を守護してやるのも悪くない。


「リオにはもう一度詳しく説明しますわ」


 ご令嬢の振る舞いが板についた妹の口調、逆にそれがおかしくて笑ってしまった。


「もうっ! 失礼よ、お兄ちゃん」


 お転婆だった妹の魂を持つ侯爵令嬢に遠慮なく扇で叩かれながら、この世界でもう少し生きてみるのも悪くないと俺は青空を見上げる。澄んだ空に浮かぶ雲を突き破って、ようやく目覚めた寝坊助が数匹――これから忙しくなる予感を孕んだ景色に目を細めた。


 エステファニアのような薔薇じゃなく、妹のフランシスカは牡丹だ。過去に蒔いた種が芽吹いて花開くように、いつか彼女は大きく美しい花弁を潔く散らすだろう。彼女が繋ぐ未来を最後まで守ってやれるように、この世界を楽しむのはこれからだ。





 ―――END――









******************************************************


アグニ編に、少し「呪われた3人のその後」を混ぜました。

「3~4代目の国王」は「過去の竜の乙女」と一緒に書けそうかな。

「腹黒エミリオ」、「結婚後、出産後」だと、あと3本。

リクエスト漏れがあればご指摘ください(o´-ω-)o)ペコッ

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