フランシスカ『天使と薔薇の庭』4――END
「君はっ! ……ごめんね、嘘で試したんだ。この手に傷は残さないよ。僕は信頼できる愛らしくて優しい婚約者を手に入れたみたいだね」
にっこり笑うと、天使と見間違えたエステファニアにそっくりだった。やはり兄妹だからか、本当に顔立ちがよく似ている。つまり、兄エミリオも美人枠なのだ。
「えっと……」
「リオ兄様! フランカは起きたの?! 私にもお礼を言わせて」
駆け込んだ少女によって、甘い雰囲気は霧散した。だけど、どこか擽ったくて嬉しい。フランシスカには先日生まれたばかりの弟しかいない。彼が跡取りとして生まれたから、彼女は婿を取らずに嫁に出ることが出来るのだ。弟が生まれた時は「今頃」と眉をひそめたが、今になれば感謝しかない。彼のおかげで、私は最高の婚約者と妹を手に入れるのだから。
「エステファニア様」
「いやよっ、ティファと呼んで」
「ですが……」
公爵令嬢を愛称で呼び捨てるなんて、失礼だ。礼儀作法の教師の言葉が、呼ぼうとした唇にストップを掛けた。
「平気だよ。ティファが許したと僕が証言しよう。それに、僕もリオと呼んで欲しい。代わりにフランカと呼ばせて」
「は、はい」
嬉しくて、頬が緩んだ。その頬に手が触れて「フランカは本当に可愛い」と囁かれる。薔薇の棘に絡まった黒髪は綺麗に整えられ、左側でひとつに結われていた。エステファニアの銀髪も元どおり、蝶々の髪飾りが揺れる。
ふわりとカーテンが風を孕んで膨らむ。その影で、婚約者から右頬に最初のキスをもらった。
あれから10年経って、大切な妹は今日結婚した。竜の乙女という鎖に近い束縛を、愛の力で幸福に塗り替えて。
夫となった竜帝陛下が支えるエステファニアの手から、ピンクのブーケが空に舞い上がる。風の精霊の悪戯か、青空を背景に弧を描いたブーケは、最前線で待ち受ける私の手に収まった。
「受け取ったわ! 今度は私よ!!」
そう叫んだ後で気付く。この世界にブーケトスってあったかしら? まあいいわ、広めて仕舞えばこちらのもの。いずれ前世界の記憶もこの世界と融合するでしょう。
ピンクの花を引き寄せて匂いを胸に満たし、本当の妹となる親友へ手を振る。見上げる空は青く澄み渡り、興奮した竜が数匹空を飛んでいた。
ああ、ゲームのタイトル通りね。『竜舞う空の下で』その後ろに続くサブタイトルは『幸せのブーケを掴む』でどうかしら。私ったら、文才はないのね。
「よかったね、フランカ」
穏やかに微笑む婚約者は私より美人だし、悪役令嬢と攻略対象だけれど、私たちも幸せになってみせるわ!
―――END――
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リクエストいただきました「フランシスカ編」が終了です。
あとは「腹黒エミリオ」と「過去の竜の乙女」「3〜4代目の国王」「結婚後に子供ができた頃のテュフォンとエステファニア」ですねΣd(ゝω・o)




