第39話 幸せは弧を描いて
「我、テュフォン・ラ・ソル・シエリスタ・ティーターンは、竜の乙女エステファニア・サラ・メレンデスを妻とし、我が命が尽きるまで愛し抜くことを、竜帝の名にかけて誓う」
「私、エステファニア・サラ・メレンデスは、竜帝陛下テュフォン・ラ・ソル・シエリスタ・ティーターンを夫とし、命尽きるまで愛し、共に国を栄えさせることを竜の乙女の名において誓います」
わっと沸き起こった「おめでとう」の祝福と同時に、人々が手にした花束から花片を千切る。それをシャワーのように上に向けて放り投げた。頭の上まで届かせたい思いを汲み取った風の精霊により、花片はひらりと舞ってアイルと新婚夫婦の上に降り注いだ。
ヴェールを上げるテュフォンの指に気付いて、少し膝を曲げて高さを調整する。顔を覆い隠していたヴェールがふわりと背に流れ、人々は竜妃の敬称を口々に叫んだ。
興奮と幸せに紅潮した頬にテュフォンの手が添えられ、優しく引き寄せられる。口付けられるのだわ。そうわかって、静かに目を閉じた。緑と金が混じった目を伏せると、柔らかな唇が額に、頬に、鼻に触れた。焦らすような彼のキスに何か言おうとした唇が、最後に塞がれる。
重ねてしっかり舌を絡める大人の口付けに、息を乱した私の膝が崩れた。抱き寄せて人目から隠してくれる彼の腕に甘える。口紅が薄く移ったテュフォンが嬉しそうに笑う。紅や化粧が崩れても、きっと彼は私を美しいと言ってくれるのだろう。彼の笑顔を見ていたら、そう確信できた。
――私は愛されている。
「竜妃様万歳! 陛下の御世が永遠に続きますように」
「お幸せに!」
「すごく素敵だわ、私もこういう結婚式がいい」
あちこちから聞こえる民の声に、少し落ち着いて振り返る。
「……ついにティファがお嫁に行っちゃうんだね」
残念そうに呟くが、兄エミリオも祝福の花弁を投げてくれる。最後の茎をテュフォンにぶつけたのは驚いたけど……。
「ティファ! ブーケを投げて!」
叫んで手を振るフランシスカは、未婚女性を集めた集団の前にいた。絶対に掴んで見せると本気で構えている。侯爵令嬢らしからぬ彼女の振る舞いに、なんだかおかしくなってブーケを上に掲げた。
「投げるわよ!」
「いつでもいいわ」
くるりと背を向ける私を、不思議そうな人々がフランシスカと私の間をきょろきょろと眺めている。
「えいっ!」
フランシスカに教わった作法通り、背中をそらせるようにして後ろへ放り投げた。すぐに振り返る私の腰に手を回したテュフォンが上を指差す。風の精霊によって青空へ高く舞い上げられたブーケは、美しい弧を描いて――。
―――END or ?―――
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短い間ですが、お付き合いいただきありがとうございました。短編は苦手で、説明や設定を書きながら付け加えてしまうため、いつも長編として書いてきました。
4万字以内を目指して挫折です_( _´ω`)_
少しだけ脇役の皆様のサイドストーリーを書きたいと思いますので、番外編をUP予定です。お付き合いいただけると幸いです。
追伸:番外編はある程度のリクエストをお受けできます。無茶振りでなければ、書かせていただきますね(´∀`*)




