第38話 ここに来ての暴露?
別室で花婿となる竜帝テュフォンを囲んでいた竜達が、ぴくっと固まった。
「いま……」
「あの子は確か、エミリオの婚約者だよね?」
「やだ、そんなに転生組がいるの?!」
「……強制力とやらは、無効だろうな」
意識や視界を共有する竜達は一斉に青ざめた。アグニ以外も事情は知っている。ちなみに最初に目覚めた13匹の竜以降、他の竜は目覚めなかった。彼らの長い人生を考えれば、多少の寝過ごしは数十年単位でのズレに繋がる。三桁になるまでに起きればセーフと、意味不明のルールを適用したのんびり種族だった。
そんな彼ら竜でも、今のフランシスカから放たれた発言は衝撃を受けた。共有した視界を通じて、白青の竜から送られた花嫁の映像で、彼らは花婿を揶揄っていたが、転生者らしき女性の発言にアグニが反応した。
……ブーケトスって、この世界になかったよな?
アグニの疑問に、竜は心の中で一斉に頷く。つまり異世界の知識を持つ女性の存在が確定した。
「ゲームに第二弾があるとか?」
「続編情報はなかったぞ」
少なくとも俺が死ぬまではなかった。断言するアグニだが、少しして肩を竦めた。
「考えてみりゃ、彼女は竜妃殿下の親友で義理の姉になるわけだから、こっち側の人間じゃん。焦る必要ないさ」
敵でなければ構わない。言われて他の竜も少しばかり考えてみたが、敵でなければ異世界の記憶もちだろうが問題ない。それどころか、味方にすれば心強い存在のような気がした。
「よし! ブーケトスでフランシスカ嬢が受け取るよう、風を操れ」
お祝いだし、花嫁も楽しみにしてる。そう提案した竜帝に、全員が了承の頷きを返した。
人前式となるため、アイルは存在しない世界だが、アグニの提案で取り入れた。赤く柔らかな絨毯を芝の上に敷き、その上を花嫁が父ベクトルに手を引かれて歩く。
一歩進んで足を揃え、また一歩進んで足を揃える。ゆっくり近づく花嫁を一目見ようと多くの民と貴族が集まっていた。
「緊張するわ」
小声で呟き深呼吸する。右腕を父に絡め、ブーケを持つ左手が震えた。ゆっくり進む先に、軍服に似た白い衣装を纏った美丈夫が待つ。純白のドレスとヴェールが、そよ風に揺れた。
「絶対に幸せにしてください、陛下」
人前にもかかわらず涙を流す父から、テュフォンの手に右手が預けられる。そっと受け取ったテュフォンが、父に微笑んだ。
「ステファニーは素敵な女性だ。彼女を幸せにすることが、我の使命である。この尾の先が尽きるまで愛し抜くと誓う」
尻尾の先に誓う意味がよくわかりませんが、竜にとっては当たり前の表現なのでしょう。アグニや他の竜も頬を緩めて頷いています。どうやら最上級の愛の発言をされたようですわ。
「とても綺麗だ、ステファニー。我が愛しの……妻よ。さあ、人々に愛を誓おう」
この半年の間にかなり慣れましたが、やはり蕩けるような声は耳が赤くなってしまいます。愛する人の手を取って、民の前で愛を誓う――当たり前のようで、去年の私には想像できなかった未来でした。
「はい、テユ様」
2人で並んで向きを変え、民に向き直った。赤い絨毯の道アイルの両側に並んだ貴族や民に、ヴェール越しに微笑む。こんなにたくさんの方が祝ってくれて、笑顔で嫁ぐことが出来るなんて、今までの人生で最高の日ね。




