第35話 誓いは玉座の前で
約束通り、翌朝の早朝から貴族達が王宮に集まった。事前に手筈を整えていた父が名を読み上げると、テュフォン陛下が玉座に腰掛ける。この国を守護してきた竜帝陛下の着座に、誰も異論は唱えなかった。
竜達がそれぞれに役職につき、人間の貴族がそれを補佐する。国としての形を保つことで話し合いがなされたらしい。女の知らない場所で男達は政を決め、男の知らない話で女は互いに競い合うのが貴族社会だ。
「竜帝陛下と我が娘である竜の乙女エステファニアの婚姻は、最短の祝い月の初日とする」
祝い月と呼ばれる季節は、花が咲き乱れ国が最も豊かになる時期だ。あと半年ほどなので忙しいが、テュフォンがどうしても早くと望んだらしい。ドレスやヴェールは急いで手配すれば間に合うけれど……。
ちらりと顔を見ると、蕩けるような甘い視線が向けられて首や耳まで赤くなった。
この場では竜の権威や地位の確認、王宮の処理、王族の処断、国民への説明内容に至るまで、詳しく語られる。読み上げる父ベクトルは、どうやら宰相に近い地位を与えられたようだ。
絢爛豪華と言えば聞こえはいいが、派手好みな王宮の建物は竜達により解体して建て直されることに決まった。テュフォンまで入れても13人なのに平気かと首を傾げれば、竜は精霊を使役するため問題ないという。
数百年前にセブリオン家が変えた国名セブリオは、元の名称である『竜国ティタン』に戻すことが満場一致で決まった。民には本日、周辺諸国へも近日報せを出して国名は統一される。人間の国王は廃止され、竜帝であるテュフォンを頂点とした竜による政が始まるのだ。
急激に進む国の改革と変貌ぶりに、貴族達も期待を滲ませる。閉塞した過去の王政と違う、新しい竜の治世が始まるのだから当然だった。考え方も斬新で、新しい知識や手法を取り入れることに前向きな竜達は、若い貴族の才能を伸ばすことに意欲的だ。家柄ですべて判断された過去ではなく、実力を認めて取り立てる竜が作る未来に人々は希望を見出していた。
玉座から立ったテュフォンが手を差し出す。どうしたらいいか迷う私の背を、フランシスカが押した。素直に玉座への段を上がる私の手を受け、彼は玉座の前で膝をつく。竜帝として国の頂点に立ったばかりの君主の行動に、貴族は驚いて顔を見合わせた。
「ステファニー、我は民の前で改めてそなたに問う――我が手をとり、竜国ティタンの妃として共に国を守ってくれぬか? 我はそなたに永遠の愛を誓おう」
そっと手袋の甲に唇を押し当てる。くるりと返して手のひらにも口付けられた。そこまでされたら、受けないわけに行かないわね。人の赤い血(感情)がないと揶揄される『青い血の貴族』でも、すべての愛情を捨てたわけじゃないわ。
「エステファニア・サラ・メレンデスは、国の守護たる竜帝テュフォン陛下の妃となり、愛を捧げます」
婚姻で竜に誓う文言を少しだけ変更して、私は微笑んで言い切った。沸き起こる拍手の中、彼の手をしっかり掴んで引っ張る。
――早く立って、私を抱きしめてくださいませ。




