第34話 誤魔化さなくてもいいのに
お茶が振る舞われる席で、竜達はさざめくように会話をする。互いの内心も地下で起きる事件も知りつつ、美しい指先でカップを引き寄せ、菓子を摘んで口に運んだ。
「フランカ、リオ兄様はどちらかしら」
「さあ」
曖昧に微笑んだ親友に、少しだけ違和を感じる。何か隠しているの? 首をかしげる私の頬をさらりと撫でたテュフォンの手が、少し顔の角度を自分の方へ引いた。強引な仕草に見えるが、指先は少し力を込めたら逃げられるほど優しい。
「婚約したばかりなのに、もうよそ見か?」
「私の兄の話ですのよ?」
呆れたと肩を竦めて見せる。その間に、先ほどの違和感は消えた。隣に座るテュフォンは甘い声で、拗ねたような口調を向ける。
「それでも男性だろう? 我を見て欲しい」
直球の口説き文句に顔が赤くなったのがわかる。逃げようとして顔を背け、両手で頬を包んだ。レースの手袋なので、あまり強く頬を押さえると跡がついてしまうわ。そんなことが気になるのは、隣にいる美形の青年に褒められる見た目を保ちたい女心だった。
「陛下は竜妃様がよほど大切なようですね」
「本当に仲睦まじいこと」
微笑ましいと見守る竜の声が耳に届き、恥ずかしさに顔を両手で覆った。口紅や化粧が手袋に付いてしまうかもしれない。そう思うのに、いつもよりしっかり押さえた。
「我が妃が照れてしまうであろう? そのくらいにしてもらおうか」
くすくす笑うテュフォンがさり気なく引き寄せ、顔を他の竜から見えないように隠してくれた。彼の気遣いに甘え、手を下ろして安堵の息をつく。頬に彼の唇がそっと触れ、続いてこめかみにも押し当てられた。
「テユ、様?!」
「なんだ? 我が愛しきステファニー」
甘い声に腰が抜けそうで、慌てて耳を塞いだ。あれこれと忙しい私の姿に、周囲が優しい視線を向ける。それすら刺激となった。どうしましょう、こんなの……淑女なら微笑みで本心を隠さなくてはいけないのに。
「……エミリオ殿は、そろそろ戻られますわ。同胞のアグニに城内を案内していただきましたの」
言われて、ひとまずこの城を彼らの宿に提供する話を思い出した。確かに案内は必要だろう。行き先がわかって安心した私に、フランシスカが声をかける。
「ねえ、ティファは今夜王宮に泊まるの?」
悪戯心満載の親友の発言に、テュフォンが期待の眼差しを向けてくる。だが、そんなふしだらな行為は無理だ。同じ部屋でなくとも、絶対にダメだわ。
「いえ、私は屋敷に戻りますわ」
言い切った途端、周囲の反応が2つに分かれた。竜とテュフォンはがっかりした様子、逆にほっとした顔で父が椅子に崩れ落ちる。あら、お父様ったらいつの間に立たれたのかしら?
誤魔化さなくてもいいのよ。私だって、青い血の貴族なんだから。隠し事の一つや二つで驚かないのにね。




