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第3話 私が恥ずかしいわ

 考えるまでもなく、兄エミリオは私の名誉のために王太子に苦言を呈しに行ったのだ。そんなことどうでもいいのに……愛しているわけでもなく、ただ決められた通りに子を成せばあとは実家に戻って、大好きな兄と親友のフランシスカと暮らしたいと考えてきた。


 このアイディアは兄も義姉になるフランシスカも大歓迎なので、結婚したらすぐにクラウディオにそう告げる予定だったのだ。彼が誰を好きだろうと、義務である子を産んだ後なら自由にしてくれていい。愛人でも側妃であっても、一緒に暮らせばよかったのだ。私の様に……着々と準備をすればいいだけ。


 セブリオ国は豊かな土壌と恵まれた地形の国だった。北に大きな山脈があり、冷たい風を防いでくれる。高い山に降った雪は春に川を作り、秋まで田畑を潤した。山から与えられる恵みは木の実や森の動物だけでなく、腐葉土や川に流れ出た栄養も含まれる。


 毎年連作障害もなく作物を作ることが出来る肥沃な大地、枯れることのない山からの水資源、冷たい風が遮られた温暖な気候……そのすべてを与えたのは、初代国王が契約した竜だと言われてきた。今では誰も姿を見たことがない竜だが、恩恵は今も子孫であるセブリオ国の民に与えられ続けている。


 他国からの侵略がないわけではないが、なぜか季節外れの雪が降ったり台風が敵を弱らせた。これも竜の加護のおかげと感謝し、竜の乙女が20年に1度舞いを献上するのも、この国の特徴のひとつだ。


 この国の次期王妃となり国母となるのは、常にメレンデス公爵家の娘だった。メレンデス公爵家は常に2人しか子供が生まれない。跡取りとなる嫡男、その姉妹であり王家に嫁ぐ娘だ。先代は姉弟だった。すでに兄がいる私は生まれる前、懐妊当初から王太子の婚約者に決まっていたのだ。


 特殊な事情があるが故の措置で、王族ならばその重要性は理解しているはず。しかし彼は突然婚約破棄を申し渡した。この騒動のツケは伯父様が払うのかしら。




「わ、私はクロード様だけですわ」


 皆が見惚れるという王太子の言葉を真に受けて照れるカルメンだが、彼女がくねくねと腰を揺らしてクラウディオの腕に足りない胸を押し付ける仕草に、貴族は失笑した。あれでは場末の商売女ではないか。国王の玉座がある広間の壇上に上がるには、不相応だった。


「そうか?」


 でれでれと鼻の下を伸ばす元婚約者……ではなく、一応まだ婚約者の王子に肩を落とす。恥ずかしくて、明日から人前に出られなくなりそうよ。隣に歩み寄ったフランシスカも口元を扇で覆うが、こちらは溜め息ではなく苦笑を隠していた。


「本当に最低な男ね。ある意味よかったわ、あなたが彼の子を産む羽目にならなくて」


 周囲に聞こえない小声だが、辛辣な内容にこちらも口元が歪んだ。苦笑を堪えようとした私の表情に、フランシスカはウィンクして寄越す。本当に愛嬌があって可愛らしい女性だと感心した。こういった場面で、当事者の私に近づく勇気はもちろんのこと、和ませる言葉の選び方も好ましい。得難い親友の存在が心強くて、口元は弧を描いた。

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