第27話 平和なお茶会の地下は物騒
ちらっと視線を向けると、伯母様もさすがに固まっている。この建物はセブリオン家の王宮ですが、王族が離縁して絶縁して、残った方も投獄されたので持ち主不在だった。
ここはひとまず、中でお茶を振る舞うのが竜の乙女としての役割でしょう。よしっと気合を入れてテュフォンの袖を引いた。
「どうした? 我が愛しのステファニーよ」
さらりと「愛しの」と足したテュフォンの表現に頬を染める。「我が」と独占欲丸出しの部分はあまり気にならなかった。
「皆様に中でお休みいただきましょう。お茶を振る舞いますわ」
「それは彼らも喜ぶであろう。聞こえたな? 中に参れ」
口々に了承を告げた彼らを迎えるべく、足早にテラスから室内へ戻る。シャンデリアが照らす豪華な場で、フランシスカが指揮を取っていた。
「そのテーブルは片付けて。そうよ、大きな円卓をこちらへ。椅子を用意してくださる? ああ、こちらのデザインで揃えてちょうだい。誰か、テーブルクロスを!」
メレンデス公爵家に嫁ぐため、淑女教育以外にもあれこれ学んだ親友の心強い応援に、自然と肩から力が抜けた。
「ああ、ティファ。ちょうどよかったわ。皆様のお茶の好みを伺って欲しいのよ」
フランシスカが侍女を指揮してお茶の支度をする。それぞれに自己紹介や挨拶を交わしながら席に着いた竜を前に、私は笑顔でお茶と菓子を振舞う。
集まった貴族達に帰宅を促した父ベクトルが、王宮内を案内するという目的で竜達を連れ出した。入れ代わり立ち代わり、自由を謳歌する竜の楽しそうな様子に惑わされ、私は裏で起きている出来事に気づけない。腰を抱き寄せるテュフォンの微笑みに、まんまと騙されたのだった。
「我らが守護たる竜の方々のご尊顔を拝し……」
「挨拶はよい。竜妃様の兄君であろう」
真っ赤な髪の青年が目を眇める。テュフォンは上手に隠しているが、獣と同じ瞳孔が縦に裂けた瞳は人外の証拠だった。エミリオは正面から視線を受け止め、にっこり笑う。そこに虚勢や恐怖といった暗い感情はなかった。
「ほう、人にしてはよい度胸だ。さすがは竜妃様の血族だな」
「これでも初代竜の乙女の血脈ですので」
臆することなく一礼したエミリオの後ろをついてくる赤毛の青年が、地下牢特有の臭いにぺろりと舌で唇を湿らせた。牢に隔離された罪人ならば、どのような扱いをしても構わない。そう考える竜の前に、3人の罪人が示された。
「竜の乙女である我が妹ティファとの婚約破棄した浮気男、この下種を身体で誑かした痴女、竜の目覚めを妨げたセブリオン家の当主です」
王太子、カルメン、国王を別の表現で紹介する。エミリオの端的な説明には、彼らの罪状がしっかり盛り込まれていた。騒ぎすぎて煩いと口に猿轡を嵌められた元王太子は、手足を縛られた芋虫状態でのたうって暴れる。カルメンはいまだ目覚めず、国王は呆然自失だった。
「なるほど……殺しても構わぬか?」
「殺せば、心優しい我が妹が気にします。それに彼らの無礼や非礼の罰に、殺して終わりは軽すぎますね」
言い切った人間を「ほぅ?」と感心しながら眺めた竜は、にやりと口角を持ち上げた。




