第26話 ご挨拶をしなくては
甲高い音の合図を受けた竜が1匹ずつ降りて、影が小さくなったと思ったら、庭に人が立っていた。同じように数回繰り返され、ようやく竜が人に変化していると気づく。
「凄いですわね」
感嘆の声を上げると、耳を塞いでいた手を優しく掴んで外された。そのまま指を絡めて握られてしまう。人前なのにと恥ずかしく思うより、興奮ではしゃいでいた。
頬が紅潮した私の手をしっかり握り、テュフォンが柔らかく微笑んだ。オレンジに近い金の瞳が細められ、優しく指先に唇を当てられる。
「人はこのようなことに感動するのか」
竜にとって当たり前でも、人は初めて見る光景に見入るもの。テラスに身を乗り出す貴族や、庭先に立つ侍女達も驚いて固まった。
竜は伝承されてきたが、複数いるとは知らなかった。民や他の貴族が伝えた話も、竜は単体で描かれている。しかし敵を退け、大地を豊かにし、天候を操る能力が、1匹の竜によってすべて齎される説より現実味があった。きっと多くの竜が集まって、この国を守ってくれたのだろう。
「これは魔法ですか?」
「我々がもつ能力のひとつだ。人と同じ形を取らねば、日常が不便で仕方ない」
確かに竜の大きさでは小さな仕事は出来ないし、生活に必要な物や場所の確保も大変だろう。竜の住処が伝承されない理由が不思議だったが、人型で暮らしていたなら残っていないのも納得できた。
「ステファニー、こちらへ」
テュフォンの声が少し遠い。赤い竜が舞い降りて、真っ赤な髪の青年になる。水色の竜が同色のドレスを纏った女性に変わった。小さな黄色い竜が少年姿を取ったところで、一段落した。
私の手を引いたテュフォンが、テラスの縁に手を置いて身を乗り出す。12名の老若男女に、彼は声を張り上げた。
「皆、ご苦労であった」
「「「我らが帝に忠誠を」」」
ざっと足を引いて膝をつき、貴族の挨拶に似た優雅な仕草で返答があった。顔をあげた彼らは、じっと私に視線を集める。どうしましょう、もしかして竜帝陛下の隣に人間如きが立っているなんて! と不快に思われたのかしら。
困惑して顔を向けた先で、テュフォンが耳元に唇を寄せた。小声で囁かれる。息がかかって擽ったいので首を竦めながら聞いた。
「そなたの挨拶を待っておるのだ。何か声をかけてくれ」
「え、あ、その……竜の皆様、ようこそお越しくださいました」
「「「竜妃様にご多幸を」」」
「あ、ありがとうございます?」
揃ってのご挨拶に、どうしたらいいのか。お礼が疑問形になるくらい混乱した。竜の皆様は庭に膝をついておいでですけど、これは拙いと思いますわ。国を守護してくださった方を中に招くのは当然ですわよね?




