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【完結】私と結婚しない王太子に存在価値はありませんのよ?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
本編

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第23話 やり直すお呪いを

 広間側の扉を叩いて、入室許可を求めたのは愛らしい王女様方でした。


「お母様、私たちもお連れください」


 伯母様のガラスの鈴を揺らしたような、心地よい声に、穏やかな声が重なった。国王の血を強く引いた赤毛の王女だ。泣きそうな顔で懇願する彼女に、伯母様は静かに返した。


「あなたは()()()()でしょう? 連れ帰ることはできません」


 己が産んだ娘に対するには冷たい言葉だった。がくりと崩れ落ちた王女へ、もう一人の王女が駆け寄る。


「無理よ、お姉様。お母様はメレンデス公爵家の姫ですもの」


「カサンドラ様、リアンドラ様。よいお(まじな)いを教えますわ」


 従姉妹たちの置かれた状況に、同情が先に立った。これから没落の一途を辿る王家の姫が、生き残るための最後の呪文だ。今まで仲良く過ごしてきた。義妹になるはずだった彼女らが不幸になればいいとは思えない。クラウディオは別だが、王女たちはいつも私を「お姉さま」と呼び慕ってくれた。


「エステファニア姫様、兄の非礼をお詫びします」


「遅くなり申し訳ございません。兄はあの女に狂わされたのでしょう。代わってお詫びいたします」


 可愛い妹のような2人を招いて、扇の陰でこそりと短い言葉を教えた。驚いた顔をして「それだけで?」と尋ねる。笑顔で頷くと、淑女の礼をしていそいそと玉座のある広間へ向かった。


 2つ下のカサンドラ王女、さらに3つ下のリアンドラ王女は素直に育っている。伯母様に似た美しい外見もさることながら、他者を(おとし)めることのない内面も素晴らしかった。同じ親から生まれ、どうして婚約者のクラウディオだけがおかしいのか。


「あの子たちを連れて行くの?」


 伯母様に国王陛下への愛情は感じられなかった。長く一緒に暮らした家族の情はあれど、恋愛の感情は生まれなかったらしい。さっぱりした様子で、縛りつける鎖から解放されたと微笑む姿は、彼女にとって王宮が鳥籠でしかなかった証拠だ。一歩間違えば、私も同じ立場だったけれど。


 そんな夫との間に生まれた我が子も、さほど大切に思えなかったのだろう。毎月必ず招待されるお茶会は、いつも私とフランシスカのみで、王女たちも呼ばれなかった。それが伯母様の心境を表している。


「さすがにお気の毒ですわ」


「ティファらしいけれど、その優しさにつけ込まれないようにしなくてはね」


 人の思惑と利害が絡む王宮で暮らした美女の忠告に「はい」と素直に同意した。そこへ肩書を捨てた少女たちが大急ぎで戻ってくる。はしたなく裾を散らすことなく、できるだけ早足で、けれど優雅さを損なわないぎりぎりの速さだった。


 一礼する彼女らの後を追うように、拍手が広間に響いている。どうやら従姉妹たちは上手に振舞えたらしい。ほっとして表情が和らいだ。


「宣言してまいりました。お姉さまの侍女として、おそばに置いてくださいませ」


「王太子の妹だった過去は恥です。婚約者であった方にもお詫びしました。どうかお連れください」


 言われた通り、玉座の前で「セブリオンの家名を捨てる宣言」を行ったのだろう。これで縁が切れた。実際は血縁関係があり、多少の情が残る。それでも彼女らは選んだのだ。貴族としての家名も捨て、やり直す未来を……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 妹達が助かるほのぼの話もいいけど、毒杯を呷って潔く死ぬのも元王族の最後の意地みたいなお話でも良かったかも。せっかく竜が主題ならもう少し残酷な展開でもいい気がする。 ifでも別作品でも構わな…
2021/07/26 09:41 退会済み
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