第18話 自滅したのは君だよ
そう、教えたはずだ。この国の貴族や前国王も繰り返し口にした。
『竜の乙女を大切にせよ。彼女は国の要である』とね。それを聞かずに、こんな低レベルの女をどこかから拾って来て、僕の妹を人前で辱めた罪は、一生かけて償ってもらうよ。簡単にその命を絶つような親切な方法じゃなく、そうだね。生きることを嫌悪するような人生を用意してあげる。
口元の笑みを深めた。
「知らないなんて、おかしいじゃないか。君達セブリオン家の者は、代々我がメレンデス公爵家の令嬢を無理やり妻にして来た」
伯母は義務だと割り切ったようだけど、昔は抵抗した御令嬢の記録も残っている。王家が都合よく改竄した記録ではなく、メレンデス公爵家の側から見た真実は、大量の手記となって我が屋敷の地下に眠っていた。
メレンデス公爵家の娘に課せられた役目は、王家を存続させることではない。竜帝であるテュフォンの眠りを護ることだった。力を使い果たしたテュフォンが、自ら目覚めるまで起こしてはならない。そのため、自らの一族の存在をかけて封印してきた。
竜の乙女が産む男児は王となり、国を平穏に保つ役割を与えられた駒だ。2人の王女達は他国との軋轢を解消し、貴族を繋ぎ留める鎖だった。平和を保ち、竜を眠らせるためにメレンデスの竜の乙女は王に相応しい夫を選ぶ。本来はそれが正しい伝承だった。
ねじ曲げたのは3代目の王、彼は己の子孫に偉大なる王家という考え方を植え付けた。王であるために、竜の乙女を娶るよう義務付けたのだ。本来、夫となる王を選ぶ権利を持つ竜の乙女から、選択の権利を奪った。
臣下であるメレンデス公爵家を下に置き、娘を身篭ると強引に婚約者として縛り付ける。伝承を逆手にとり、竜が回復しても目覚めることができぬよう、己の血筋の治世が続くよう呪いをかけた。
竜の乙女が生まれた瞬間から、王家の子を婚約者と定められるため、回復した竜帝は目覚めることなく眠り続ける。己の愛した女性の血筋が利用される事実を知らず、惰眠を貪る結果となった。危機が迫り、乙女の祈りが届けば国を助ける。しかし意識の大半は眠ったまま……都合よく利用された。
「違うっ!」
「いいや、違わないよ。だってティファの時は生まれる前、まだお腹にいる頃から婚約者として縛りつけたじゃないか。君は1歳だったね。僕が先に生まれたから、次は絶対に女児である妹だ。君の父君はティファの自由と選択権を奪った」
言い聞かせながら、エミリオは最愛の妹の冷めた言葉を思い出す。
『王家との結婚が義務なら仕方ないけれど、私は子供を産んだらすぐに実家に戻りたい。フランカとリオ兄様と一緒に暮らしたいもの』
王太子が嫌いなのかと問うたエミリオに、彼女は「当然よ、出来るなら触れたくもないわ」と言い切った。それは当時からクラウディオが様々な貴族令嬢に言い寄り、婚約者であるエステファニアを蔑ろにしてきた結果だった。
女好きのだらしない男。それでも王太子であり、王家からの命令だから仕方なく嫁ぐ。子を産むのは竜の乙女の義務だと嘆いた妹の姿に、エミリオは決意した。
彼女が結婚する18歳になる前に、王太子クラウディオを失脚させると――そのために裏で画策し、メレンデス公爵派の貴族に根回ししてきた。まさか自滅してくれるとは思わなかったけど。




