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第1話 女傭兵

一応は外伝とか言ってますけど、本編とはほぼ無関係に進んで行きます。


ある意味こちらが本編かもしれない。

 一人の女が、王城の通用門に続く細い道を歩いていた。


 若い女だ。装備している軽装の金属鎧は、くたびれて細かい傷だらけ。腰に備えたショートソードも、年期が入っているように見える。左腕にこれまた傷だらけの小さなバックラーを付け、背中には、ザックを背負っている。有り体に言えば、どこにでもいる傭兵の典型的な格好だ。


 ボサボサの深紅のショートヘアに、勝ち気そうな赤い瞳。くすんだ肌に、程良く均整の取れた体。そして、ぴっちりしたズボンから分かる、引き締まったカモシカのような脚。傭兵稼業には珍しい女、ローザは今、小さな城門の前に立っていた。


「何用ですかな」


 何も言わずに城門の前で突っ立っている女を目にし、しばらくは様子見していた門番と思しき老人が、詰め所から出てきてローザに声を掛けた。


「えっと、これを見たんだけど」


 ローザは、門番に一枚の紙を差し出した。彼は、その紙を一瞥すると、彼女に尋ねた。

「そうか、では何か武術でも?」

「いや、特に武術は修めてはいないけれど」


 門番は、ローザの目をじっと見た。彼女は、この老いた門番の前で、とても緊張していた。見た目は優しげな老人ではあるが、先程から威圧感が半端ではない。油断すると、後ずさりしてしまいそうだ。何か不味いことでもしただろうか、と彼女は少し不安になった。


「あの、何か不味いことでもしましたか?私」

「ん?何故にそのようなことを?」

「その、私の勘違いでなければ、先程から闘気を放っておいでかと」


 少し畏まった態度になっていたローザの言葉に、老いた門番は一瞬目を見開いた。そして、また柔和な老人の表情に戻った。


「うむ、君にはあれを渡すとしよう。さあ、ついておいで」


 老門番の後に続き、ローザが詰め所に入ると、一枚の紙を渡された。


「字は読めるな?この案内どおりに進めばよいぞ」


 そこには、近衛応募者の試験場所への道順が書かれていた。老門番に見送られ、ローザは城門を潜った。


◇◇◇


 ローザは書かれていた試験場所、周囲を建物に囲まれた、ちょっとした中庭のような場所だったが、そこに辿り着いたものの、誰も居なかった。

 まだ伝言が伝わっていないのか、それとも別の理由なのか、ローザには知る由も無かったが、迂闊に他の場所に行くわけにもいかないだろうと、彼女は待つことにした。


 待つこと暫し、賑やかな女の声が聞こえてきた。


「おお、おお、やっとマシなのが来たか!」


 侍女達と思しき制止も聞かずに、いきなりローザの前に『飛び降りてきた』その女は、いきなりローザの手を取ると、自己紹介を始めた。


「私は『試験官』のアエスタだ。赤髪か、私のフェニーチェ隊にぴったりだな!」

「は、はあ」

「では、早速試験と行こうか!得物はそれか?」


 アエスタと名乗った女は、ローザの腰にあるショートソードを指さして言った。


「は、はいそうです」


 ローザは勢いに押されて、また少々畏まってしまった。仮にも王城の中である。帯剣したまま通されたのもどうかと思ったが、仰々しく儀式めいたことも何もなく、いきなり試験とか、傭兵団の方がまだ格式張っていたくらいだ。

 アエスタは、返事もまともに聞かずにローザに背を向けると、少し距離を取り、振り返った。


「こんなものか、いいぞ!いつでもかかってこい!」


 そう言うと、アエスタは大股開きになり、両手を開いた。所謂大の字、というやつである。王が見たら、お前はシュウゾウか!と突っ込みそうであるが、今ここに王は居ない。

 ローザはと言えば、もう唖然としていた。意味が分からない。目の前の女は、ショートソードの相手を前に、素手、しかも構えも何も無く、両手両足を開いて、さあどうぞとばかりに誘っている。服装だってそうだ、鎧を着ている訳でもなく、シンプルではあるが上質そうなのが分かる、ボリューミーなワンピースドレスだ。靴に至ってはヒール付、どこかの舞踏会から抜け出てきたような、そんな格好に見えなくもない。


 はっきり言って、ここまで馬鹿にされたと感じたのは、初めてだった。ローザの中で、何かが切れた。彼女も傭兵稼業で生きてきた人間なのだ、ここまで侮られては商売的にも示しが付かない。


「本気で行きますよ」


 ローザはショートソードを抜き放った。純粋な戦闘経験は少ないとは言え、これでも修羅場は幾つも潜ってきたのだ。舐めてもらっては困る。


「いい目だ!」


 そう言うと、アエスタは獰猛な笑みを浮かべた。その瞬間、ローザは背中に悪寒が走るのを感じた。まるで、狼に追い込まれた兎のような、そんな感覚に突き落とされた。何故、という当然の疑問がローザの頭を過ぎるが、それを今考えても仕方ないと、恐怖感を押さえ込んだ。


 そう、どちらにせよ、この試験をパスしなければ、ローザにまともな明日は来ないのだ。恐怖など、終わった後に幾らでも感じれば良いこと。ローザは、改めて覚悟を決めた。


 ドレス姿の一見無防備な相手に、ショートソード片手に突っ込んでいく。滑稽極まりない光景だが、ローザは油断など微塵もしていなかった。目の前の女、アエスタからは、先程会った老門番のものなど比べものにならないほどの、濃密な闘気、いや殺気を感じていたからだ。

 軌道を読ませないように体を左右に振りつつ、ショートソードを突き入れた。実戦では横薙ぎよりも、突く方が多い。その方が隙も少ないし、速いのだ。相手は鎧も着ていないので、隙間を狙う必要もない。がら空きの胴目掛けて、思い切り突きを放った。


 ローザは、当たるとは思っていなかった。何か仕掛けてくるのは分かっていた。そりゃそうだ、がら空きの胴に突き刺されて終わりだったら、あまりにお粗末。必ず何か仕掛けてくる、彼女はそう思っていた。さあ、何を仕掛けてくる。暗器か?それとも体術か?


 果たして、ローザの予想通り、アエスタは動いた。が、起こったことはローザが予想だにしなかったことだった。

本編と外伝、どっち更新しようか、迷うなぁ、これ(おい)

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