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続・暗闇の記憶 「海の手」他  作者: MITT


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第四話「東海道の闇」③

 須磨さんと顔を見合わせると、どっちも振り向かずに猛然と姉さんに追いつくと、もう三人して競歩みたいな感じで脇目もふらずに、早足で歩みを進める。


 気がつくと、いつのまにか俺が一番後ろ……。


 そのはずなのに……後ろから気配を感じる。

 砂利を踏む音もさっきよりはっきりと聞こえた。


 後ろに……何かが……いるっ!

 ため息みたいな息遣いすら、聞こえたような気がした。

 

 でも、振り返らない。

 そう言われてるし、むしろ振り返る勇気がない。


 やがて、一号線へと繋がる道の前。

 

 もう迷わず、道をそれると全速力で一号線へ脱出っ!


 幸い車も居なかったので、一気にドタドタと走り抜けて道路を横断すると、反対側の歩道に飛び込み、ようやっと一息つく。

 

 ちょうど照明が頭上にあって、とても明るい……。

 

 気のせいじゃなく、空気が全然違う!


 先程までの圧迫感が嘘みたいに普通になってる。

 ここに来て、ようやっと懐中電灯も消したところで、正面から走ってきたダンプカーがすぐ近くを駆け抜けていった。


 ……灰峰姉さんも旧東海道の方をじっと見つめていたんだけど、ほっとため息をつくと苦笑い一つ。


「……もう、大丈夫かな? さぁ、早く車まで戻ろう……解ってると思うけど、長居は無用だよ」


「ちょっとぉっ! なんでいきなり競歩みたいにちょっぱやで行っちゃってるのよ! それに後ろからなんか聞こえた! なんか聞こえたーっ! は、灰峰ちゃん、ちゃんと説明してよねーっ!」


 須磨さんもすっかりテンパってるらしい。

 まぁ、そりゃそうだ。


 あそこまで、強烈なのは久しぶりだった……。


 確実に何かいた。


 ノー感の須磨さんですら、何かが居たって解ったくらいなんだから、相当強烈なヤツだった。

 

「そうだな……。と言うか、あそこで何が起きてたんだ……説明を要求するっ!」


「うん、解った……説明するよ。歩きながら話す。まず今通った旧東海道……あそこ、何気に巣窟みたいになってたんだよ……敢えて、何のとは言わない」


 ……巣窟と来たか。

 なんとも、異様な雰囲気だったけど、そう言うことだったのか。


「思ったより、ヤバいところだったのか……。けど、いくら歴史あると言っても、観光名所じゃないのか? ……そんな話、全然聞かないんだけど……」


 少なくとも、旧東海道が心霊スポットなんて噂なんて聞いたこともなかった。


 箱根で有名なのは、お玉ヶ池とか……九頭龍神社とか……くらい?

 お玉が池は相応の謂れのあるところで、九頭龍神社はむしろ神様に会ったとか、そんな話だったと思った。


 なお、九頭龍神社は結構ハイパーなパワースポットらしい。


 ちなみに、俺らがよく行く津久井湖の道志橋とか、三井大橋なんかも心霊スポットらしいんだが……。


 どっちも俺ら、しょっちゅうその辺で釣りやってるし、深夜の夜釣りだって経験してる……。

 まぁ、どっちも何も無かった……むしろ、釣れたって印象しかないんで、恐怖もへったくれもなかった。

 

 むしろ、懐中電灯持って橋の下をウロウロしてたら、上で何やら騒がれた事があったくらいだな……。

 多分、ああやって怪談ってのは作られていくんだろう。


「そうだね……。まぁ、歴史ある所ってのはどこもそんなもんなんだよ。古いお城とかも、そんな感じだよ。東海道の箱根といえば、かつては難所として知られていたからね。関所破りを試みて殺された人も居ただろうし、江戸を目前に行き倒れたような人だっていただろうからね。要するに……霊道って言えば解るかな?」


 ……霊道ってのは、納得だ。

 思ったとおりだった。


「……そ、それまじ?」


「……マジで。居たのは……なんて言うかな。時代劇に出てくる人達みたいなのが大勢って感じだったかな。武士っぽい人とか農民や旅人みたいな人とか。そんな感じの人っぽかった……まぁ、ほとんどがシルエットだけみたいな感じではあったんだけどね。それにああ言う所ってのは基本的に一方通行なんだけど、私らはその流れに逆らって歩いてたんだ」


「……な、なにそれ? え? そんな事になってたの? と言うか、どんな風に見えてたの? シルエットって……」


 須磨さんがあっけにとられた感じで聞き返してる。

 ……聞くだけでもトンデモねぇところだったってのは解る。

 

「見た目? 何ていうかな……プレデターって映画知ってる? あれに出て来た宇宙人の光学迷彩……あんな感じで、透明な影みたいな……そうとしか、表現出来ないな。それがたくさん前からぞろぞろと……多分、今日は当たり日だったんだろうね」


 ……なんとも解りやすい例えだった。

 実際、どこかでそんな話を聞いたこともあった。


 ネット掲示板だったかな?

 見える人が、どんな風に見えるのかって聞かれて、一言「プレデター」って答えてた。


 ただの影なのに、それがどんな人物かイメージが湧いてくるとか、そんなパターンもあるらしい。


「なるほど。なんとなく、イメージできるな」


 一言で言えば、透明な影……向こう側が透けてるんだけど、人の輪郭線だけが浮かび上がってるような感じ。

 どんなのか見たけれれば、プレデターの予告編でも見れば、解ると思う。


「おお、さすがだね。でも、ああ言うのって、どれも基本的に私達、生きてる人間には無関心って感じでね。ただそこにいるだけってのがほとんどなんだ……どうも、百年単位の年月が経ったモノってのは、総じてそんな感じになるみたいなんだよ。経年劣化とでも言うのかな? レコードやカセットテープが擦り切れて、ノイズだらけになるとか、あんな感じで存在自体が薄まってしまう……そんなものらしい。そして、霊道の流れに乗って、繰り返しループするように始点と終点を往復し続ける……。まぁ、よくあるっちゃよくあるパターンだよ」


「……そ、そんなもんなんだ。でも、そうなると基本的に、無害ってことなんだろ? なら、あんな慌てて逃げる必要なんてなかったんじゃないか?」


「いや、それがね……。ほら、途中で苔むした丸い石があったでしょ? そこに人影が座ってたのが見えてね……。二人にはあそこで、何か見えたりした?」


 須磨さん共々首を横に振る。

 俺には、苔むした石しか見えなかったし……。


 プレデター風の人影なんてのも、見えなかったなぁ。

 そもそも、姉さんも注視するなって言ってたし……。


「……そうか。けど、私には、その石に座ってた人影が急に普通の人間みたいに見えるようになって、めっちゃ驚いたんだよ。でも、カッコがどうみても時代劇に出てくるお百姓さんみたいな感じで、その時点でああ、これ普通じゃないって解ったんだ」


 これも灰峰姉さんがよく言ってること。

 向こう側の連中って、見える人にとっては、パッと見、区別が付かないことがままあるんだそうな。


 強力な存在ほど、その傾向が強くて、俺が住んでた旭興荘にいた赤いコートの女の子なんかはいい例……。

 

「な、なるほど。あそこで大きく端に寄れってやってたのは、そう言うことだったんだ。けど、向こうが関心持たないなら、避けて通れば、別に問題なかったんじゃ……」


「いや、やっぱりこう言うのって珍しいんだけど。私らが通り過ぎようとしたところで、それがいきなり立ち上がって、思いっきり目があっちゃったんだよ。さすがにコレはヤバいと思って、スタスタ先に行っちゃったんだけど……。振り返ったら、君等のんびり歩いてるし……駄目だよ……ああ言う時は一緒に走れって言ったでしょ?」


「せ、説明くらいしてよ……。こっちは何焦ってんだろくらいにしか思ってなかったよ……」


「俺も何となくヤバいって気がついてたけど……。足場も凍った雪とか残ってるし、コケでヌルヌルだしで、敢えてペース抑えてた……と言うか、ちゃんと説明してくれよ。俺らからすると、わけが分からなかったよ……」


「……ごめん。とにかく、コレ以上注意を引くのはヤバいって思ってさ。なんせ、明らかに私達を追ってきてたんだからね。足音くらい聞こえなかったかい? 私には後ろでずっと砂を踏む音が聞こえてたよ……。まったく、霊道の流れに逆らえるってのもだけど、百年以上昔のモノなのに、あれだけくっきり形を保ってるなんて……あれは尋常じゃなかったよ」


 ……言われて、思い当たる。

 微かに響いてた砂利を踏むような音。


 あれが……やっぱり、あれがそうだったんだ!

 思わず、ぞぞぞーっと鳥肌が立つ。


「お、追いつかれてたらどうなってたんだ? それにまだ追いかけてきてるって事は……」


 道路挟んで向こう側。

 大きな杉と灌木で区切られてるとは言え、道を挟んで、ほんのすぐ向こう側は俺達がさっきまで居た所だった。


 あの灌木をかき分けて、そのお百姓さんが出てくる光景を想像して……。


「……それは解らない。けど、ああ言うのは基本的に自分のテリトリーからは出て来れないんだ。あれはいわゆる地縛霊の一種だろうね……。だから、ここまでは来ないと思う。ああ言うのって、新しく出来た道とかって道として認識出来ないみたいでね。向こうからすると私達は、突然森の中へ消えていったと思われてるだろうね。まぁ、なんにせよ……早くここから立ち去るべきだと思うよ」


 もう言うが及ばずって感じだった。

 そっから先はお互い無言で早足で車に戻ると、もう全速力で撤収。

 

 幸いにして、帰り道で事故ることもなく、無事に帰り着くことが出来た。


 割ととばしたせいで、夜明け前に帰り着いてしまって、なんとなく、一人になるのが嫌で二人共、俺の部屋に泊まってもらった……なんてオチも付いたが、さすがにちょっとヤバ過ぎた。


 ……なんと言うか、久々に食らった暗闇の世界の住民との接近遭遇。


 結局、俺自身が知覚したのは、異様な雰囲気と真後ろ近くで響いた砂利を踏む音だけだったのだけど。

 ……それでも十分すぎた。

 

 そして、それっきり俺は、旧東海道に足を踏み入れることはなかった。

 

 ……そう、この話はこれで終わり。

 昼間訪れて再検証だの、別メンバーでリトライとかも無かった。

 

 苔むした石も何か曰くがありそうだったけど、敢えて調べようともしなかった。


 灰峰姉さんの話だと、おそらく無縁仏の墓石だったんじゃないかって言ってた。

 後日聞いた話だと、灰峰姉さんの知り合いがこの話を聞いて、東海道の深夜の散歩とかやったそうだけど。


 まぁ、何もなかったそうな。

 ああ言うのって、日によって化けるらしい。


 一時期、多摩川の夜釣りにハマってた時期があったんだが。


 多摩川もハズレ日に当たると、もう見るからにヤバい所に変貌する。

 仮にも東京の市街地のど真ん中にも関わらず、誰も居なくて、生き物の気配がしなくなる。


 ……そんな夜があるのだ。

 そんな夜に当たると……全然釣れない上に、そこら辺じゅうに薄っすらと人の気配がするとか、そんな調子になる。

 

 まぁ……俺が夜釣りに行かなくなった理由の一つだったりするんだがね。

  

 その後……。

 芦ノ湖自体には、それからも何度と無く訪れる事になるのだけど。

 

 どうしても旧東海道には近寄る気にならずに、いつしかそんな事があった事も忘れかけていた。


 やがて、5年10年と歳月が流れ……俺達も年を取っていって、灰峰姉さんと会う事も無くなっていった。


 ……けれど。


 ちょっとした出来事がきっかけで、俺はこの話を思い出すことになった。

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