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続・暗闇の記憶 「海の手」他  作者: MITT


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第三話「マヨヒガ」③

「……なんだい? 寝転がりながら、ビールとか行儀悪いかもだけど、それくらい見逃して欲しいな」


 そう言って、灰峰ねえさんがニッコリと笑う。

 

 風呂上がりは暑苦しいから、俺だって一人の時はトランクスとTシャツスタイルで、扇風機の前に陣取るのが定番だからな。


 やってる事は俺も一緒ではあるんだが。

 

 その割とムチムチな太ももや、襟ぐりからチラ見えてるのとかさぁ……。

 目のやり場に困るんだがな……。


 とりあえず、そばにあったタオルケットでもぶん投げとく。


「……随分な扱いだねぇ……。まぁ、いいけどさ」

 

 いずれにせよ、ここでエロエロな真似に走るようでは、紳士を名乗れぬのだ。

 

 そもそも、俺の趣味は自他ともに認める二次ロリなのだ……。

 この傾向は、未だに続いていて、自分の書いた小説作品でも、ヒロインは圧倒的ロリ率を誇っている……。


 なんせ、普通のヒロインとか出しても、なんかグッと来ないんだから、仕方がない。

 

 ああ……そうさ。 

 俺はそう言うやつなのだ。

 

 その上で、三次元に興味を持つようでは、人としてアウトだからな。

 だからこそ、三次元では紳士たれ……それをモットーとしていたのだった!


「はい、はいっ! そうさせていだきますよ! じゃあ、もう適当に寛いでて!」


 そう言って、なるべく姉さんの方を見ないようにしつつ、手早く着替えを用意して、風呂場へ逃走!


 ……かくして、今日も何事もないまま、夜も更けていくのであった!

 


 明けて翌朝。

 昨日言っていたように美しが丘の昼間訪問を実施することになった。


 季節は梅雨も明けつつある初夏の頃。

 ……今日も暑くなりそうだった。


 いや、なりそうではなく現在進行系で暑い。

 

 部屋のウィンドクーラーは全開ながらも、気持ち涼しい程度しか利かない。

 扇風機も仕事してるんだが、暑いことには変わりない。


 この時期、大抵暑くて昼前には強制的に目が覚めるのだけど。

 ……そこら辺はいつもどおりだった。


 今は、朝の8時位なのだけど、クマゼミが騒々しい。

 

 ちなみに、このクマゼミも90年代に入ってから、町田あたりでも割と良く聞くようになった。


 クマゼミは、元々西日本にしかいなかったセミで、岡山とかでは割とお馴染みのセミではあったのだが、80年代の頃は東京では見かけなかった。


 けれども、90年代に入ってから、東京でもクマゼミの鳴き声が聞こえるようになった。


 もっとも、岡山出身の俺にとって、クマゼミの鳴き声は別に珍しいものではなく、聞こえたところで別に不思議も思っていなかったのだけど。


 東京にクマゼミが出るというのは、その時点でもはや異常と言うことで、その大きさから、おばけゼミ呼ばわりされたり、通信ケーブルを破壊したりだの、ちょっとした騒ぎになっていたりもしていた。


 ……昼間の軽四の借り出し交渉は問題なかった。

 

 車を昼間使うことがあっても、事業ゴミ出しとか買い出しとかその程度なので、昼間は駐車場常駐ってのが定番だったからな。

 特に今の時期は、この車はもっぱら夜専門だった。


 エンジンをかけるなり、灰峰姉さんがファンの向きを変えたりしてるのだけど、あまり意味ないんだ……それ。

 

「ぬおおお、な、生ぬるい風しか出ないって……。そういえば、この軽四……エアコンレス仕様だって言ってたね……。いつも夜しか乗らないから気にしてなかったけど……。結構暑さ、エグいもんだね……。シャツもう一枚持ってくるべきだったなぁ……」


 そう、実を言うと、店の軽四には、エアコンなんて付いてないのだ。


 今どきの感覚からすると、車にエアコンとか夏場は必需品で、むしろ標準装備だと思われてるだろうが。


 80年代の頃は、エアコンなんて、一部のお金持ちの家やデパートくらいのもので、一般家庭や学校にもそんなものは無かった。


 夏場ともなれば、窓全開で扇風機をぶん回すのが基本。


 夜なんかでも、窓開けっ放しで寝るのが普通で、一軒家なんかでも網戸だけだったりと、大変不用心だった。

 

 高校なんかでも7月ともなれば、皆汗だくで、下敷きをうちわにしてぐったりしながら、授業を受けていたものだ。


 さらに、飲み物類の持ち込みも一切禁止。

 

 アホかと思われるだろうが、昭和の時代はそれが普通だった。


 ……さすがに高温多湿の日本の夏で、エアコンなしでは厳しいと言うことで、90年代に入る頃には、一般家庭はもちろん、車でも結構な割合でエアコンも普及していたのだけど。

 

 それでも、事業車などではエアコンレス仕様は、割と当たり前にあった。

 この商売用の軽四もそう言うことで、エアコンレスだった。


 なお、この軽ワゴン……男は黙って4速MT! 

 親父様の方針で我が家では自家用車は当然MTで、仕事専用車ですらもMT仕様だった。


 おまけに、シートはファブリックとかじゃなくて、ビニール張り。

 

 エンジンが座席の真下にあると言う、ある意味ミッドシップなレイアウトだったので、エンジンの熱がモロに上がって来て、夏場ともなれば、もはやボンネットの上に座ってるようなもので……。

 

 なんと言うか、素晴らしくも暑苦しい車ではあった。


 なのでまぁ、昼間乗るともなれば、もう窓は全開っ! 

 エンジン音も凄まじく騒々しいので、幹線道路を走るともなれば、助手席との会話もままならなかった。


「たまに昼間に動くと季節を実感するよ……。おまけに昼間はサングラス必須なんだよなぁ……」


 もはや身体が完全に夜間仕様になってるせいで、昼間動く時は、こんな風にサングラスでもないと頭痛がしたりと色々難儀する……。


 おまけに、夏場の昼間は夜と違って、灼熱地獄。

 車の便利さはもう思い知ってて、手放せないくらいの勢いではあるんだが。

 

 そろそろ、自分の車くらい持ちたいと思ってて、近所の中古車屋を巡ったり、中古車情報誌を読むのが趣味にみたいになってたりもするんだが、エアコンのオプションだけは絶対に妥協しないつもりだった。

 

 ……いくつもの裏道を駆使して、町田街道を抜けて、やがて246へと入る。

  

 90年代当時は、今よりも明らかに車の台数が多くて、その割に道は今よりも狭くて作りも悪かった。


 特に町田は16号の渋滞の余波で、幹線道路たる町田街道、鎌倉街道辺りに車が集中する傾向があって、この辺はもう年中渋滞。

 バスなんかでも駅まで出るのに、30分以上かかるとか……もはや、歩いていくのと、大差なかったりもした。

 

 そのおかげで、昼間……それも土日となると、裏道を如何に駆使できるかが、時間の節約に直結していた。

 

 なんせ、移動時間とか、選ぶルートによっては、軽く倍は違ったりしてたからな……そんなもんなんだ。


 今どきは、ワンタップで最適ルートをスマホが案内してくれるのだけど、この当時は、どれだけ裏道を覚えてるってのが、ドライバーとしての経験を知らしめるステイタスでもあったのだが。


 その裏道探しは基本、迷って覚えるとか、タクシーを追跡したりして覚える……そんなもんだった。


 姉さんのナビで、246をしばらく進んで「馬絹まぎぬ」と言う交差点を左にそれて、東名川崎IC前を通る回りくどいようなルートで美しが丘を目指す。


 なにせ、例の廃墟も、具体的に地図上でどの辺かはよく解っていない。

 今どきは、スマホのGPS履歴で自分がどこをどう通っていったのかとかは、ひと目でわかるのだけど。


 この時代、自分達がどこをどう通って、どこに居たのかを後から検証するとしても、記憶が頼りとかそんな調子だったからな。

 

 もっとも、この美しが丘自体は、何度も迷ってはいるものの、結構な回数訪れているし、廃墟の場所についてもおおよその場所は、見当ついているので、逆算方式で、一度尻手黒川道路に出てから、逆方向から入っていこうということになった。


「ストップ! いつもそこの道から出て来てたから、そこを左に曲がって、まっすぐ進めば、いつもの廃墟の所に着くと思うよ……」


 灰峰姉さんの声で車を止める。

 ……確かに見覚えのある風景だった。


「ああ、間違いなくこの先だな……。と言うか……なんで、普通にこの大通り沿いに行けば良かったのに、毎回住宅街に逸れてたんだろうな……。一応言っとくけど、別に美しが丘とか来たくて来てたわけじゃないよ?」


 毎度毎度、なんか見覚えある住宅街に入ってきたと思ったら、住所案内に美しが丘って書いてあるって感じ……。  


「確かにねぇ……。確かに、2車線道路走ってたのに、いつのまにか住宅街の裏道走ってたとか。昨夜もそんな調子だったんだよ……」


「やれやれ、車で深夜ドライブも考えものかな。普通に走ってて、わけの判らん現象に巻き込まれるとはね……」


「まぁ、そんなものだよ。私も普通に電車乗ってて、ホームでどう見ても人外見たりとか普通にあるからね……」


「普通にあるって、それはそれでどうかと思うよ?」


 灰峰姉さんとそんな事を言い合いながらも、住宅街に入り、緑地帯を左手に見ながら進んでいく。


 ……やがて、それっぽい場所にたどり着いたのだが……。


「……なぁ、灰峰姉さん。俺の勘違いじゃなきゃ、多分ここだったと思うんだが……」


 エンジンを切って車を降りるなり、思わずそう呟く。

 

 ……住宅街の外れの方。

 緑地帯の裏手に当たる造成予定の空き地だらけの住宅街の隅っこ。

 

 いつもたどり着く廃墟があった所は、どう見てもただの空き地だった。


 厳密には門柱とか庭壁の一部は残ってて、そこに建物があったという痕跡はあるのだけど。

 

 その空き地は他の空き地同様に背の高い草が派手に茂っていて、昨日今日で建物を取り壊したとかそんな風にはとても見えなかった。


「やっぱりね……。こんな事だろうとは思ってたけど、やっぱりこう言うオチだったか」


 灰峰姉さんがやけに納得した感じで頷いている。

 どうやら、これは彼女にとっては予想通りの結果らしかった。

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