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続・暗闇の記憶 「海の手」他  作者: MITT


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第三話「マヨヒガ」②

「……いやぁ、毎度毎度ありがたいっす。さすがに朝帰りなんて、何度もやってたら、寄り道禁止とかなりますからな。そんじゃ、見延さんまたっ! おいすーっ!」


 山久の住むマンション前。


「……はいよ。気持ちは解るけど、人を当てにしての終電ぶっちは程々にしろよなー」


 いつもどおりのやり取り。

 山久はまだ高校生……終電ブッちぎっての朝帰りが許されるような身分ではなかった。


 なんでまぁ、車持ってるやつが送っていく事も多くて、最近では、山久自身始めから、送ってもらうことを当てにしてるってのが見え見えではあった。


 まぁ、俺らもドライブがてらに送っていくようなものなので、別にケチを付ける気も無かったが。


 うっかり終電に間に合わなかったのと、そもそも、送っていってもらう前提で終電、無視してたのでは、結果は同じでもやってる事は全く別物だからな。


 なんと言うか、心構えが違うだろ。

 要は気分の問題なんだが、送っていってもらう以上、そのくらいの配慮はすべきだと思うな。


 と言うか、素直に最初から送っていってくれって、言えばいいのに、わざわざ、うっかり乗りそびれたとか演出する辺り、セコい。


 コヤツのそう言うのが、好かんのだよ。


 山久を見送って、車に戻ると灰峰姉さんと二人っきりになる。

 もっとも、タイムリミットは結構押してる……今から戻ってギリギリ……そんな感じではあった。


「すまん……姉さん、この時間だともう家まで送っていく時間の余裕はなさそうだわ。……うち泊まってく?」


「ああ、そこは気にしてないし、今日は元々そのつもりだったんだ。けど、おかしな話だよね……。行くと必ず迷子になって、決まって同じ場所に出て、そこからは嘘みたいにすんなり出れるとかさ。あの廃墟の……あの自転車に見覚えあるとかそんな感じだったよね?」


「ああ、あの自転車、俺が子供の頃に乗ってたヤツにそっくりでさ。すげぇ、偶然っ! でも……なんなんだ、あの美しが丘って所は……なんか、あちこっちワープしてんじゃないって気がしてくるよ!」


 それ位には、迷い方は理不尽そのもの。


 自転車は……単なる偶然って気がするんだが。

 そもそも、なんでアレなんだか。


 俺自身、別にあのキャラクターは好きでもなんでも無いのに、子供向け自転車だったからって、それだけで選ばれたのが子鹿の自転車だった。


 確かそんな感じの経緯でうちにあった……そんな気がする。


「確かにね……。けど……気になったのは、いくら夜中だからってあそこ通ってる間、人影を一切見かけないって事だったんだよね……。私は毎回気楽な助手席だったから、周りも色々見れてたし、今日だって、地図見て頑張って現在位置も把握して、ちゃんとナビしてたつもりなんだけど……。何故か、いつの間にか見当違いのところを走ってたんだよ。……すまないね。今日こそ、確実に道案内するなんて豪語したクセに、この体たらくだったよ……」


「そうなんだよなぁ……。いや、俺もいつも、そんな感じだから責める気はないよ……。なんか毎回来る度に街自体がシャッフルされてるような感じで、見覚えのある道を曲がったら、見当違いの所に出るとかそんなんばっかり。でもまぁ、今日は比較的すんなり抜けれた方かな」


「……そうだね。でもまぁ、こうも毎度毎度迷走するとなると、もう素直に津久井道ルート使えって感じだよ。それかいっそ、一度246で二子玉まで行って、多摩川沿いに登戸へ行くってルートはどうだい? 若干遠回りだけど、多分、時間的に大差ないと思うよ」


「確かにね……。けど、なんか負けたって感じがしてなぁ。次こそは、ストレートに抜けてやろうって思わない?」


「まぁ、気持ちは解るんだけどね。けど、何て言うんだろ……あの廃墟、今日は、いつもと違ってちょっと長居してたじゃない。だから、色々観察できたし、実を言うと、今の君の話で仮定が確定に変わったんだよ」


「え? どう言う事?」


「君にだから言うけど、あの廃墟……ちょっとヤバい。と言うか、あの街自体がおかしい。つまり、美しが丘で迷うのは偶然じゃなくて、必然だったんじゃないかって……」


 灰峰姉さんがそう言うと、思わずブワッと鳥肌が立った。

 

「……ヤ、ヤバい……と来たか。そうなると、も、もう行かない方がいいのかな?」


 うん、灰峰姉さんのヤバいは色んな意味でヤバいって事。

 彼女のアドバイスには従うに限る。


 そう言う事なら、ここはもう近づかないの一択だと思う。


「うーん、そうだね。無難に済ませるなら、このまま、もう二度と近寄らないってのがベストだと思うんだけど。実は私もちょっと気になったから、前々から色々調べてみたりしてたんだ。そして、さっきので何となく答えが出た……そう言うことさ」


「……前々から調べてみた? え? どう言う事……それ! もしかして、俺、いつの間にか超常現象に巻き込まれてたの? 姉さんは、かなり前からそれに気づいて……?」


「何を今更言ってんだかね……。けどまぁ、巻き込まれる側の認識ってのは得てしてそんなものか。後から思い起こして、自分がどれほど、異常な状況だったか解る……。そんな訳で、最後にもう一度、明るいうちに美しが丘に行ってみないかい? check the answer……要するに答え合わせに付き合ってくれないかな?」 


 訳が解らないなりに、頷いてみせる。


 俺もこのまま、アンタッチャブル指定して近づかないってのも面白くないとは思ってた。


 なんと言うか、この手のなんだか良く解らない怪現象ってのは、いつも曖昧なまま訳が判らんで終わるんだけど……。

 

 今回は、珍しく答えが用意されているらしかった。


 ……たまには、ちょっとした結論くらい出してみたいとは思ってたからな。


「……解った。じゃあ、一度町田に戻って車返して、一眠りして朝になったらもう一度車借りて、二人で美しが丘に行ってみるか」


「そうだね。となると、今夜は君の部屋にお泊りかな。ふふっ、またシャワーでも借りようかなぁ……。今日は図書館はしごしたりで、一日外を出歩いてたから、汗でベタベタして気持ち悪かったんだ……。ああ、すまないけど、途中でコンビニ寄ってくれると助かる」


「ああ、好きにしてくれよ……。まったく……」


 ……午前二時。

 

 世間では丑三つ時とか言ってるけど、新聞屋ともなると、朝刊が店に届いて、気の早い連中がすでにスタンバってるはずだった。


 店に顔を出すと、ちょうど朝刊の受け取りやってる最中で、軽く手伝って軽四の鍵をボックスに放り込んで、そそくさと立ち去る。

 

 ……この頃、俺はまだ例の旭興荘に住んでいた。

 

 車の鍵を返して、アパート前に戻ると階段の前で佇んでいた灰峰姉さんが学生の一人と何やら話し込んでいた。


 学生も俺に気付くと、ペコリと頭を下げて離れていった。


「やぁ、遅かったね。でも、こんな時間でもどの部屋の人達も普通に起きてるんだね。ちなみに、今の少年は私が驚かしてしまったみたいでね……。君の友人だと言ったら、納得してくれたけど。そんな毎日のように通い詰めたりはしてないのに、よく見かけるんで彼女かと思ってた……とか言われてねぇ……。案外、アレと混同されてるのかもしれないね。確かに髪型とか似てるんだけど……」


 そう言って、一階の102号室の方にちらりと視線を向けると、苦笑しつつ俺の方へ向き直る。


 そういや、引っ越して早々に姉さんはここに居るという赤いコート娘の幽霊に出くわして、俺の目の前で挨拶なんぞやらかしてくれたんだよな。


 なお、俺は相変わらず一度もその姿は見ていない。


「……いつものヤツ……いるのかい? そこに」


「さすがに誤魔化せないか……。さっきまでそこの階段の前にいて、また挨拶されちゃって、思わずお辞儀返したところで、さっきの少年が部屋から出て来ちゃったんだよね……。なんで、すっかり驚かせちゃってね」


「まぁ、気にしなくていいさ。しっかし、そうも当たり前にそこにいるとか言われると、さすがにゾッとしないな」


「安心したまえ、どうも君の存在に気付いたみたいで、今しがた、スッと居なくなった……。でも、同じアパートの住民として、なにか思う所はないのかい?」


 そう言われても、なんともリアクションに困る。

 姉さんからすると、そこにいるのは当たり前と言う認識なんだが、俺からは何も見えてない……見えていない、存在を感じない以上は、それは居ないも同然なのだ。

 

 まぁ、見える側の認識ってのはそんなもんなんだが。

 思うところがないかと言われても……ないな、別に。

 

「……そろそろ次のアパートに引っ越しする準備しとけって言われてるからなぁ。幽霊アパートの暮らしもあと残り数ヶ月ってところだよ。今更どうでもいい……かな。結局、見えない以上、居ないのと変わりないからねぇ……」


「そっか……。まぁ、結局……アレが何なのか、何も解らないままってところか。自殺者との関連についても、アレは不思議と悪意というものを感じさせないんだ。一体何なんだろう?」


「俺に聞かれても知らんよ。俺が知ってることはもう全部話した。今更、追加情報はない……何なら、調べてみちゃどうだい?」


「ははっ、私とてそこまで暇人じゃないよ。要らないことに首を突っ込む気はない。ただ、なんとなく、向こうも譲歩してるって感じだから、君は102号室には近づかない方がいいだろうし、このアパートを立ち去る前に、線香の一つでも焚いて、手でも合わせていっても、バチは当たらないと思うよ」


「……やれやれ、人ならざるものへの同情か。よくやるよ……俺は正直、どうでもいいな……」


「どうでもいい……か。まぁ、毎日こんな所にいれば、そうなるか。けど、やっぱり案の定、ここもすっかり雰囲気変わったね。ここ、彼女以外にも色々居た感じで魔界みたいな空気だったのに、そこら辺、まとめて一掃されたみたいで……少なくともこのアパートの左半分は至って、まともな状態だよ」


 確かに、このところ。

 怪現象はすっかり鳴りを潜めてる。


 まぁ、チャイムが勝手に鳴ってたのを電池抜いて鳴らなくしたとか、色々力技で対策したってのもあるだろうけど。

 

 ちなみに、階段から俺の部屋にかけて、バッサバッサと塩撒いたりもした。

 階段のサビが悪化したような気もするし、庭の雑草が一気に枯れたりもしたんだが、どうせ、一年先にはここらは更地になってるだろうからな。


 俺が引っ越すまで、持ってくれればそれで構わん。


「……俺の仕業だって言いたいのかい? ……そこまでは知らんよ」


「そんなものか……まぁ、そうなんだろうね。すまない……もう忘れてくれ。では、今夜もよろしく! ああ、着替えは持ってきたし、食べ物もコンビニで買ったから、お構いなく」


 そう言って、今度は並んで階段を登っていく。

 こんな事をやってるから、従業員連中の間で、女たらしとか変な噂が立つんだよなぁ……。


 かくして、姉さんもすっかりお泊りモードで部屋に来るなり、いつものデニムジャケットも放り出して、早速、シャワー浴びるって言って、絶賛ご利用中。


 まぁ、女性陣がうちの風呂使うとか初めてでもないしな。

 シャンプーやらリンスまでちゃっかり置かれてるくらいなんで、ホント気楽にお泊りしていってくれてる。


  都営住宅住まいの須磨さんあたりは、自宅の風呂より広くて快適とか言って、泊まりに来ると必ず風呂入っていく。


 なんでも、都営住宅のお風呂って基本膝抱えないと入れないくらいにはくっそ狭い代物で、ちょっと前までは都営=風呂なしだった位には、風呂については雑な扱いなんだとか。


 そんな訳で、長身の須磨さんにとっては、お風呂で膝を抱えずに済むってのは意外と重要なんだとかで、我が家のお風呂をすっかり気に入ってしまわれたのだ。


 一時期、本気で旭興荘に引っ越すとか言ってたけど、もうすぐ取り壊すから入居者お断りだって話をしたら、凄くがっかりしてた。


 まぁ、そんな訳で、置きシャンプー&リンスについては、主に須磨さん用。


 なお、ご丁寧にお徳用のデカいボトル……。

 女子、それも髪が長い子ってのは、シャンプーやリンスの消費量も半端じゃないので、お徳用でもないとあっという間に無くなってしまうらしい。


 もっとも、女子同士で、どのブランドのを買い置きするかドラッグストアで白熱した議論をやってたのだけど、最終的にパンテーンとか言うのに落ち着いたらしい。


 女子的には割とオススメのブランドらしくて、俺が使っても構わないとは言われてるんだが……。


 さすがに、女子用シャンプーやらを自分で使うと、自分の体臭が女子ライクなフローラルな感じになってしまって、落ち着かなくなるので、使うつもりも無かった……。


 かくして、俺用のリンスインシャンプーとボディソープと、女子用の巨大ボトルが置かれて、我が家の風呂場はボトル林立状態だったりもする……なんでこうなった?

 

 なお、ご利用中は部屋と台所を区切る障子を閉めて、見ざる聞かざる。

 トイレ使いたい時はひと声かけて……と言うのが一応、ルール?


 ……今はちょうど初夏の頃。

 一日、着たきりスズメでは相応に臭ったりもするから、このところ女子お泊りの際はいつもこんな調子だったりもする。


 ただまぁ、素朴な疑問。

 

 君等、俺のこと……棒きれか何かだと思ってね?

 とか思わなくもない。

 

 女子二人で入ったりとかしてると、会話とか筒抜けだし……。

 

 小角ちゃん辺りは、家感覚が抜けないのか、脱いだ服とかポイポイ台所にそのままにしていくから、トイレ行こうと思ったら、脱ぎたてパンツが視界に入ったり……だの。


 姉妹でもいれば、そう言うのは日常茶飯事なんだろうが、男兄弟の家育ちではなかなか刺激的ではある。


 さすがに、灰峰姉さんが注意してくれて、最近はそう言うのは少なくなったけどな。


「いやぁ、さっぱりしたよ。さすがに今日は暑かったから、自分でもちょっと臭うとか思っててさ。下着も取り替えたからもうスッキリ……やっぱ、これでなくちゃ。君もひとっ風呂浴びてくれば? 私は一杯やりながら、テレコンワールドでも見てるとするさ」


 なお、灰峰姉さんはショートパンツ&Tシャツオンリーの無防備スタイルで、早速ビールなんか開けてる。


 だからさぁ……なんで、アンタはそうも毎度毎度ガードゆるゆるなのよっ!


 ……思わず頭を抱えたくなる。

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