表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

役者

 テューアの町の食糧保存をほぼ掌握している、冷蔵庫こと白熊の獣人は、いいガタイしているくせに人見知りだ。今では俺も「旅行者」仲間だと思ってくれているが、打ち解けるまでは大変だった。彼女は完全獣型・・・白熊が二足歩行してるタイプの獣人なので、最初は性別もわからなかった。

 そんな冷蔵庫を心配して来たのだろうオーブンは、モグラの獣人だ。こちらは、人型に獣の特徴が部分的に出ている部分獣型で、彼の場合は髭と耳鼻、両手足にモグラの特徴が濃い。あと、ものすごい糸目。熱を操ることに長けていて、彼が作るパンや焼き菓子は、とても美味いと評判だ。

 そして、俺たちを希人マレビトと呼んだ二人の人間。

 「希なる夢人」を略して「希人」と言っているらしい。その言葉を使うのは、カイと同じ、カイが見ている夢の中の存在だ。

 俺が「住人」を見るのは初めてだが、見たところ、まるっきり人間に見える。服装は、革で作ったちょっと丈夫そうな長袖長ズボンに、ブーツと、大きめの背負い袋。脇差くらいの小剣を佩いていて、手には2mくらいの真っ直ぐな棒。

 「住人」の中には、荒事を得意とする「傭兵」もいると聞いていたが、この二人はどう見ても、一般人のようだ。

 「旅行者」の町であるテューアには、基本的に「住人」を入れてはいけないことになっているため、ここで四人は止まっていたのだろう。冷蔵庫とオーブンの、すがるような目が、どうにかしてと言っていた。

「・・・見ての通り、俺は今、ここに来たばかりで、突然そんなこと言われても困る。それから、おれは魔法使いじゃあない」

 女の方が、あからさまに落胆した様子を見せる。

 というか、事情もわからんのに、迂闊なことが言えるか。

「オーブン、学者は来てるか? あと、魔法使いは?」

 おれの問いかけに、モグラ獣人は首を横に振る。

「どっちもいない」

 話を聞いてやれそうなのが、いなかったのか。仕方ない、な。

 俺は二人のほうを向く。

「お二人さん。俺たちの町には、基本的に、あなた方を入れるわけにはいかない。そして今、お探しの魔法使いは不在だ。だが、俺で良ければ、話を聞くくらいならできる。あなた方の用事は、魔法使いでないと解決できないものなのか?」

 男女は、顔を見合わせた。

 おずおずと、今度は男の方が口を開く。

希人マレビトには、特殊な力を持つ者が多いと聞いています。魔法使い殿をと願ったのは、以前にも、力をお借りしたことがあったからです。事情をお話しします。その上で、対処できる力をお持ちの方がいらっしゃるのなら、どうか、力を貸していただけませんか。お礼は、相談ということになりますが・・・」

 よし、とりあえず、話し合いにはなりそうだ。

「わかった。では、ちょっとだけ場所を移そう。ここは、この町の一つだけの門だから。右手側の芋畑の手前でいいかな? あそこの道幅は広めなんでね。いろいろと、用意しやすい」

 町を囲むように広がる畑の一角を指し示す。

 門の回りは、農地よりも道を広めにとっているのだ。学者曰く、魔獣対策の一環で。

「はい、あのあたりですね」

 二人の「住人」は、素直に俺が示した辺りに移動する。

 俺は冷蔵庫とオーブンを労ってから、町のどこかにいるだろう、役者を呼ぶようお願いし、二人の元へ向かった。


 テューアから一番近い「住人」の村でも、人間の足で三日はかかると学者が言っていた。ということは、この二人は、それだけの道を歩いてきたってことになる。疲れていないわけがない。

 俺は、目的地に着いて立ったままの二人の前に、ブルーシートを広げた。運動場や民家の雨除けにしたりする、ピクニックシートのごついやつだ。それがうまく日陰になるように、運動会で指揮台の両脇にたくさん張られていたテントを設置する。高校時代、体育委員で、毎年設置してたから、よく覚えてるのが幸いした。

 日除けと、座れる床と、あとはなんだ。座布団か?

 先輩が課長席で使ってる、丸くて真ん中に穴が開いた、座布団を4つ用意する。イメージしやすさが大事なんだ。許せ、先輩。

「こんなもんかな。お二人さん、長旅疲れたろう。町で休ますわけにはいかないが、太陽の下よりはマシなはずだ。その丸いのに座って、ちょっと休むといい。水で良ければ、森の泉の水なら出せる」

 さっさとテントに入り、ブルーシートの上で座布団に胡坐をかく。

 だが、テントの外で立ったままの二人は、動こうとしない。

 さっき話していた時より、両目がぱっちりしているな。・・・驚かせたか。

 ちょうどそこへ、門から一人の男が出てくるのが見えた。

 役者だ。人間の男で、自称、優男。整ってないとはいわないが、人の美醜の判断は、個人の自由だと思うんだな、俺は。

 だが、呼び名にするだけあって、あいつは間違いなく、役者なのだ。

「遠いところをお疲れさま。初めまして、僕のことは役者って呼んでね」

 わざと、足音を大きくたてながら近づき、やや高めの明るい声で二人に語りかけながら、男の方の肩に軽く触れてテントの中に誘導する。先に男を座らせ、釣られてきた女を男の隣に座らせる。それから役者は、男女と俺のちょうど中間くらいに陣取った。

「・・・助かる」

「どういたしまして」

 俺の一言に、奴はウインクを返して来た。

 座りはしたものの、未だおっかなびっくりとした二人に、役者は水筒か、コップを出すように言う。

 その間に、俺は森の泉の水を詰めた水差しを用意しておく。

「僕たちが変わっていることは、知っているよね? これは彼の力でね。彼がよく知っているものなら、作ったり消したりできるっていうものなんだ。魔法使いの派手な力とは違うけど、すごく便利だと思わないかい?」

 にこにこと、二人を交互に見ながら、言葉を重ねていく。

 目の前の現象がどういうものか、それなりに納得したのか、二人は頷いた。

「すごい、です」

「驚きました」

 二人が出したコップに、水差しから水を注いでやりながら、役者はやや非難めいた視線を俺に向けてよこす。

「彼、口下手でね、ごめんね? いきなりこんな大技見せられたら、びっくりするよね」

「・・・すまなかったな」

 少しは警戒心が解けたのか、それとも好奇心が勝ったのか、二人はそれぞれ手を伸ばし、ブルーシートに触っている。つるつるひんやりした感触が、面白いらしい。

 コップの水も飲み、一息ついたところで、頃合いを見て、役者が本題を振った。

「それで、君たちは、どうしてこんなところまで来たの?」

 聞いたのは役者なのに、二人の目が俺に集中する。・・・なんでだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ