21、ミル~美龍~
広い窓に向かって木の横長のテーブルが置いてあり、窓際に多肉植物の可愛らしい鉢植えが並べてある。
窓のほうに近づくと、すだれがかかっており、その向うの緑がすだれの目の間から少しのぞいている。
テーブルの横にはボックス型の木枠を並べた棚があり、花瓶に活けられた花や本、写真立てなどが置かれていた。
気配を感じて振り返ると、そこに、あった。白木のベビーベッド。洗濯バサミの付いた物干しのような、赤ちゃんをあやすおもちゃが取り付けられている。布製のお花や星や月がたくさん吊るされていて、ゆらゆらとゆっくり回っている。
―ああ、そこにいるのかあ…。
私は、意を決してベビーベッドの方へ近づいた。
全然寝てない。目を開いて回っているおもちゃを見ている。神のメスで美しい切り込みの入った瞼。そこに納まる瞳はうるんでいて、白目は透明すぎて青みがかってさえいる。
なんとなく、はいはいをしそうなくらいの感じだろうか。少し茶色の柔らかそうな髪。なにもかもができたてのつやつやで、間違いなくオーラが出ている。光っている。美しい。
あまりの美しさに見惚れていると、上のおもちゃの回転が少し速くなった気がした。電動…ではない。ただベッドの枠に取り付けられているだけで、コードなどどこにもない。風も吹いていないし、そもそも風で回るようなもんじゃない。
―え?この子が回してる?
そう思った途端、ミルは私に目線を合わせた。私の両目とミルと両目がばちんっと合った。
【美龍】
私の頭の中にその二文字の漢字が送られてきた。
「え?」
【美龍】
完全にこの子ども、ミルが送ってきている。
【ミル】
「ああああっ!美龍と書いてミルなの?そんな…キラキラなのつけちゃったの私?」
瞬きもせず私の目をひたすら見つめ続けるミル。
その瞳の中に、頭上で回転するおもちゃが映っている。小さな花や星が、輝きながら回っている。
こんなに美しいものを、この次元の私は産んだというのか。
あまりに神聖なひとときに涙が出てくる。
ミルの瞳の中でキラキラと回る花や星を吸い込まれるように見ていると、ミルは赤ちゃんだけれど、すべてを包み込んでくれるような大きな存在のように感じた。
思わずやわらかですべすべの頬を撫でたそのとき、頬にあてた右手人差し指から光の玉のようなものが私の中に入ってきた。その光の玉は、私の腕を通って頭の中、喉、胸を下り、おへその下あたりで大きくなり、あたたかな光が私のすべてを満たした。
心と身体の充実感をすべての自分で味わい、私は覚醒し全身に力がみなぎってきて、思った。
―私は、元の場所に戻らなければいけない。




