20、ピンクジンジャーのコーディアル
「わあ、いい香り。これはハーブティ?」
卜田信吾が運んできた飲み物に、参加者の誰かが聞いた。
「ハーブコーディアルといって、ハーブを煮詰めたシロップをお湯で割っています。イギリスで昔から飲まれていたものだそうです。今日はピンクジンジャーのコーディアルをご用意しました。」
信吾はそう言いながら、薄いピンクの液体が入ったガラスの茶器を作業の邪魔にならない場所に置いていった。
「昔はアルコールに漬けていたそうですが、大丈夫です、これはアルコール入っていませんからね」
[ピンクジンジャーのコーディアル]から、かすかに甘い香りが立っていた。
「オーナーさん、今日、日美さんなんかぼーっとしてますよ。珍しく」
先ほど、私のハーバリウムを褒めていた人が、コーディアルをすすりながら信吾に向かって言った。
―え、信ちゃんオーナーなの!?
「どうしたの?ミルならいま裏で昼寝してるよ」
と信吾が言うと
「あらあ、ミルちゃんねんねしてるんですかあ。帰りに一目見たいわあ」
と最年長らしき参加者が言った。
「み・・・る・・・?」
思わず尋ねると、信吾と参加者全員が不思議そうに私を眺めていた。
「うん、じゃあ日美ちゃんは裏に行きい。あとオイル入れるとこですよね」
信吾が参加者に尋ね、「続き俺がするから」と裏と呼ばれている方向に押し出されてしまった。
どうしよう。
この扉を開けた向うの「裏」には、卜田信吾と別れずに結婚した世界で私が産んだと思われる子どもがいるらしい。怖い…けど見たい…。
恐る恐るレバーハンドル型のドアノブがついた木製の扉を開けた。




