18、ダブルレインボー二虹(ニコ)
「おかえりなさい」
マンションに戻ると、先ほど面接を受けていた人が出迎えてくれた。
「常務さんは用事があるって出ていかれましたよ。すぐ戻るって」
「…あなたはさっき…」
「ニコです。二つの虹でニコ。ダブルレインボーです」
ニコは顔の横で二つのピースマークを作ってみせた。
「ニコ…さん。私は…」
「日美さんですよね?私も試験的にやってみることにしたんです、出張オイルマッサージ」
えぇー、さっきはあんなにうなだれていたのに?
「実は私、ずっと出張SMのほうやってたんですよね」
ニコはポットのお湯と急須ででティーバッグのほうじ茶を湯のみ二杯淹れ、一つを私の前に「どうぞ」と置いた。
「…ありがとう。出張SMなんてあるんですか…」
「あっ、って言ってもここより全然厳しい条件の会員制度で、客が少しでも変なことしたら社会的に抹殺されるから安全だよ。その中でも私はソフトなのしかやってない。裸で縛られて四時間放置とかね、ってこれもすごいか」
ニコはむふふと笑った。
「四時間放置してどうするんだろう…」
「それをずっと見てるんですよ、その人は。それがいいらしくて」
ニコは両手で湯のみを持ちほうじ茶をすすった。
私も「ほぅ」と妙に納得して、ほうじ茶を一口飲んだ。
「あ、だから、こういうシステムわかってるから、それで常務さんの説明がちょっとかったるいなあと思ってたんですよ、さっきは」
はぁ~、だからうなだれてたのか。すごいな、そんな態度で示せて。
「でも、ここゆるいですね。いこいは近いから送り迎えなしで、お金もあとで常務さんに渡すの?」
そういえばそうだな。
実は私もここで働くのは今日が初日だということをどう説明すればいいのだろうか……。
「別に説明しなくていいですよ。それだけ信用されているってことですよ、ここでの日美さんが」
え、なんで考えていたことがわかったの?
驚く私をよそに、ニコは横に置いていた布のショルダーバッグに手を入れ探り出した。紫の生地に色とりどりのビーズで装飾されたその布バッグを、可愛いなと思ったところだった。大きな円形を描いている刺繍は手縫いに違いない。
そこから出てきたのは大きな筒状の懐中電灯のようなものだ。側面は虹の絵が描かれている。
「日美さん、これ覗いてみて」
ニコがその筒の端を私に向けながら言った。
受け取って覗いて見ると……鮮やかな幾何学模様の円が、色と形をゆっくりと変化させていた。
「うわあ、これ万華鏡?すっごく綺麗」
「そう、オイルスコープ。ゆっくり回してみて」
うわあ、綺麗、癒されるう、を繰り返しながら見ているうちに、なんかこれ見覚えある、なにかに似てる…あ、花曼荼羅?と思い当たった。
「あのさあ、虹って龍が作るって知ってる?」
ゆったりと優雅に変化する美しい円を見ることをやめられない私に、ニコが言った。
「え?虹を?何が作るって?」オイルスコープを覗いたまま答えると、
「ああ、また反時計回りに回しちゃってるよ」
と残念そうに言うニコの声が聞こえた。
―反時計回り?……また?




