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あの頃も、今日も  作者: 満月仔鳥
10/22

10、ちがでた

 会社のトイレで、私は鏡に映る自分の目を呆然と見つめていた。

 

 ええええ……

 えええええええええ……?

 

 ふと自分を俯瞰で見て、これってドラマとか映画で妊娠したかもってときの行動だよな、と思った。

もちろん、妊娠したかも、ではない。


 幼いころからお腹の弱い子だった。

親戚の集まりの食事会でお腹が痛くなり、夜に出かけた先でお腹が痛くなった。何かちょっと不安な要素があるとお腹が痛くなった。

今思えば、学校の授業中に痛くなることがなかったのは本当に幸いだった。ただ、登校前にお腹が痛くなり、よく遅刻をしていた。


 だから、ここ一か月ほどお腹を下しっぱなしで、私の命綱ビオフェルミン止瀉薬を飲んでも全然効かなくても、通勤電車で耐えられなくなり電車を降りてトイレに行くので一時間早めに家を出るようにしていても、昔からそう、お腹が弱いから、そういう体質だから、ただの下痢だし、と軽視していたのだ。

でも先ほど個室で見たあの血、あの結構な量の血に怯んだ。思わず恐れおののいてしまった。


 いや、あった、あったよ何日か前からちょっと血は。でももう痔として片づけていたんだ。

しかし、あのただ事ではなさそうな様子は、痔ではない。

痔ではない。

そう確信した。お腹の痛みもぎゅうぅっと絞られる感じで普通の下痢じゃないし。

嗚呼……東京一人暮らし非正規社員、彼氏貯金なし、たまに通勤途中や仕事中に動悸息切れめまい大汗祭を秘かに開催、「そのうえ痔」は嫌だ。

「そのうえ何かわからないが便の後大量にどろっとした血が出る大病」はもっと嫌だ。全然笑えないし。

自分ごめん。そこまでにならないと気づかなくて。半年で派遣先を辞めるなんて絶対に許されない、人道にもとる、とんでもない悪行だと思っていたからできなかったんだ。

 とりあえず気持ちを落ち着かせて派遣会社の営業担当に電話をかけ、「もう仕事を続けるのは無理です、絶対に辞めます」ときっぱり宣言した。

すると営業担当の人はあっさりと承諾した。「あーそこやっぱり無理ですよね~みんな続かないから蓬莱さんどうかなと思ってました~」と言っていた。

なんだ、こんな簡単なことだったのか。

というか、やっぱりここは無理な会社だったんじゃないか!さっさと辞めればよかったのだ!


 それから一か月後に無事その会社を辞め、非正規社員から無職になった。

それはそれでかなり不安な生活に突入するのだ。


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