最新ゲームのテストプレイ
「おい! あぶねーだろうが!!」
ガードレールもない細い山道
少し目を離した隙に
遠隔操作の靴を履いた
男の片足が崖向こうの宙を舞う
わずかの隙を逃さず
執拗に瞳を狙ってくるのは
大型の鴉が一羽
「くそっ。舐めんなよ!」
ジュ……ッ
焦げる音
落ちる羽根
力の失せた鴉の骸が
地面に当たる前に
霧散した
「返ったか……」
男は立てていた
右手の人差し指と中指から
緊張を解いて
その場に座り込んだ
おもむろに靴を脱ぐ
進化型VRのテストプレイ
ゲーム空間に潜り込む者と
それに外側から指示を与えて
操作する者とに分かれて
クエストの達成を目指す
今回コントローラーと
繋がっているのは靴だ
舞台は現代だが
セレクトしたキャラクターは
昔懐かしの陰陽師だった
敵キャラが放ってくる
式神を倒せば
相手に攻撃が返るので
敵を退治できる
「へっ。人を呪わば……てか?」
そういう意味の言葉だったかどうか
不明だが男はすっきりした顔をしていた
……が、すぐに表情をくもらせる
「意味が分からん
危うく崖から落ちかけたぞ?
前回はいとも簡単に落としやがって
トラウマを克服するのに
かなりの時間を要したんだが
あいつ何考えてんだ
反省してないのか
それとも実は俺を殺す気か?」
ごろりと寝転がって
コントロールの
下手な奴に任せたら
ゲームが先に進まないとぼやく
本来なら役割を交換すべきところだが
まだプログラムを組んだ本人にしか
操作ができない状態だった
それにしても
上手い下手という次元を
超えているというのが
男から見た印象だ
「同じ景色を見てないんじゃねえのか
案外、あいつのモニタカメラ
俺と違う山に置いてあったりしてな
ははは……意味が分からねえ」
百歩譲って
標高が同じ山なら
同じ景色も見れるだろう
だが砂の山なら
そのうち蟻地獄だぜ?
つかれた
言って
やっぱり
げんなりした