ああ、雌豚になるとは情けない
あらすじの注意事項は是非ともよんでくださいませ。
当作品は、異世界転生っぽいですが、後味の悪い純文学風です。
トラウマ製造になる恐れがあります……そこまでグロくはないはずですが……
6000字程度でございます。
俺は気が付くと、靄がかかったような部屋の中にいた。
幻想的とか神秘的とか言えばいいんだろうか。
よく、宗教なんかではドライアイスをたくことがあるとかいうけど、そんな感じの演出に近い。
おちついて見てみると、そこは体育館の舞台の下だった。
広いそこで、ステージを前に一人パイプ椅子に座る俺。
そして、壇上を見るとそこには一人の女性の姿があった。
「よく来ましたね、人間。不幸にも若くして死んでしまったあなたなので、私自らが相手をさせてもらいましょう」
死んだ? その女性の柔らかな声に聞き惚れながらも、その内容はいまいちピンとこないものだった。
確か、悪友に合コンの返事をして、寝たところまでしか覚えていない。
そして気がつけばこれだ。
「混乱するのも解ります。死を理解した上で亡くなる場合は別ですが、あなたのように突然死亡した場合は記憶が混乱するものです。死んだ実感がない、とでも言えばいいでしょうか」
「あの、俺、どうして死んだんすか?」
死んだ、と言われても今だってこうして呼吸はしているし、体の感覚だって変わらない。
ああ、あのなんだか女神様みたいなのも、いけてるなと思うし、もうちょっとワンピの丈が短ければ見えるのに、と邪な思いだってある。
「ちょっとした事故というものですね。良くあることです」
「なっ、神様の事故!? それってまさか」
以前、ちらっと見たことがあるネット小説でそんな設定があるのは知っている。
神様が失敗したお詫びに、超絶チートを与えられて、一から人生をやり直す、というやつだ。
ちなみに、俺はあんまりはまらなかった。リアルの方が大切だったからな。
しかも、そいつらはたいていこっちの世界でぱっとしないさえないやつで、それでもなんか俺ツエーという状態になっていた。
リアルでも充実していた俺だったら、きっともっと上手くやれるだろう。
「はい。神様の、ではないですよー。ただの事故です。我々は人間みたいにそう頻繁にミスは犯しません。だから、あなたの死亡動機も我々には明白です」
圧迫面接じゃあありませんよーと、緩やかに笑う女性は、だいじょぶだいじょぶと緩い反応を示してくれた。
神様のミスがあるから、ここに呼ばれたわけではないのか。
「はい? ってなると俺がここにいるのって?」
「お話を聞いてみたいと思っただけのことです。人の魂は審問をうけて、その後どうなるのかが決まります。異世界への転生というのも候補の一つとしてはありますね」
「まじで!? 魔法がある世界とかもあんの?」
「えぇ、ありますとも。そしてチーレムなんてのもありますねぇ。徳を積んだお坊さんかなんかが嫌がらせに行かせられる世界として有名です」
「嫌がらせなのかよ……」
たしかに、本場の修行僧というのは異性に触れられると徳が落ちるとかそんな話もあるというしな。
俺にとっては、なんて美味しい場面を逃してるんだとしか思えないが。
にしても、チーレムか。異世界で女の子ときゃっきゃうふふな生活というのは、とてもいいものじゃないだろうか。
しかも、こっちの女に比べれば純粋無垢で、簡単に落ちるときたら、もうやりたい放題だ。
ぶっちゃけ元の世界は、一夫一妻制で誰か一人を選ばなければならないだなんて不便だと思っていたのだ。
おっと。俺は滅茶苦茶モテたし、女に不自由したことはないリア充だぜ。それこそ十人の妻がいる、という状態くらいがふさわしい。
あいつらにとって、俺は飼い主のようなものだからな。
「さて。ではちょっとした質問をさせてもらいますね。これを人々は審問といいます。あー嘘ついてもいいですけど、なるべく本音でお願いしますねー」
ゆるーっとした声の後に、彼女はちらちら宙に視線を向けながら、話し始めた。
お天気の話から始まり、好きなアニメの話になったときには、は? と思ってしまったほどだ。
ちなみに、俺はそこまでアニメに詳しくはない。ああいうオタクが好むものとかは俺には関係のないものだ。
「さて、審問はこれでおしまいです。いやぁ、久しぶりにやるとこれ、大変ですねぇ。あとで部下を褒めてあげないといけません」
にこりと笑顔を浮かべた彼女は、満足そうに頷いた。
百に渡る質問は、どれも平凡なもので、素直に答えても特別どうということのないものだった。
「これで、行き先は決まった感じなんすか?」
「ええ……いえ、失礼しました、最後の質問を忘れてましたね」
おいおい、さっき、神様はミスをしないとか言ったばかりじゃなかっただろうか。
てへっと可愛らしく舌を出す彼女に思い切りつっこみたくなる。
「そうですね。最後の質問です。あなたが最も軽蔑するものはなんでしょうか?」
「あん? いきなり変な質問になったな」
「ああ、気楽に、本音で言ってくれていいですよ。百一個目の質問なんて、おまけみたいなものですから」
にこにこ微笑む女神の前で、俺はため息交じりにいったのだ。
この人の良さそうな女神相手なら、別段嘘はつかなくてもいいだろう、といった心持ちで。
「もちろん、雌豚だな。軽薄で浅ましくて、自分のことしか考えない、あいつらが一番おろかだと思う」
そして、同時にもっとも愛すべき相手だとも思う。だからこそ軽蔑しながらも手を出してしまうのだ。
「そうですか。それはそれは。なるほど、だからこういう死因なわけですか、なるほど」
たまには審問をやってみるのも、ためになるものですねぇ、と彼女はほのぼの言い放った。
少し引かれるかと思ったのに、あっさりしすぎていて少し拍子抜けするくらいだ。
「では、お話の時間はここまでです。では、審問を通りし魂よ。お行きなさい」
「いい転生先をお願いしますよ」
そう言い終えたとたん、意識が白くなっていった。
だから、聞こえはしなかったのだ。
これが貴女の望んだ結果になるといいのですが、という声など。
そして。
気がついたら、なぜか豚のおっぱいをくわえていた。
豚である。あの乳首がいっぱいくっついている豚だ。
残念ながらオークですらない。オークであるなら、女騎士にはぁはぁ言い寄れたというのに。どうしてそんな知識があるかって? ネットでぶひぶひいってるやつらが、オークと女騎士は鉄板だろと言っていたからだ。
それに、有名映画にもでてくるしな。
にしても、おっぱいうめー。
まさか、再び母乳なんてものを味わう日が来るとは思わなかった。
だって、いままで付き合ってきた相手は、母乳なんてでなかったしな。
あ? 当然幼い頃の記憶なんてもんもないぞ。
さて。豚である。
最初は、なんだこれと思った。
思ったけど、おっぱい美味しすぎて思考がとろけた。
とにかくついばむように、吸う。
そして腹が満ちるとそのままこてんと横になる。
それがいくらか続いて体が大きくなってきたら、今度はしこたま飼料を食べた。
ほのかなとうもろこしの風味がやたらと美味く感じられてガツガツ食った。
ああ。最初は思うところもあったけれど、食う、寝るの生活は満ち足りていて、ひたすらそれを繰り返す日々だった。
食欲と睡眠欲。その二つが満ち足りるだけで、どんどんと思考力が落ちていく。
脳が豚だから、というのもあるのかもしれないが。煩わしさのようなものは感じずに済んでいる。
そしてさらに時は経って。
俺がいる建物の前に、一匹の豚が通り過ぎた。
ざわっ。周りの空気の半分が変わった。
残りはのほほんと、餌を食べている。あいつらなんで、反応しないのだろう。
あんな立派な雄が歩いているというのに。
なんだろう。教えられていないのに体が疼くというか。
あ、これが……
数秒でその雄豚は厩舎からはなれてしまった。
それこそ、顔見せくらいな時間だ
ああ。食欲は満ちている。ならば次は。
その豚はふんと、鼻息をならせて、いつかくる繁殖期に備えるのだった。
その姿は他の雌豚と同じ姿だった。
「さて、いかがです? 満足のいくお仕置きでしたか?」
例の女神は、薄暗い体育館の中で、スクリーンに映された末路を、女と一緒に鑑賞していた。
場所は、例の体育館のようなところだ。壇上におろされたスクリーンには、豚の厩舎と思われるところの風景が永遠と流れている。
そして、パイプ椅子が二つ。
さきほどの女神と、その隣には一人の女性が座っていた。
眼の前に映るのは、ぶひぶひいった光景だ。
それがリアルタイム。
そう。あの豚が、お肉になるまで。ノーカット特別版だ。
「少し退屈でした」
「だから言ったじゃないですか。血の池地獄でワインでも呑みながらゆーっくり鑑賞しましょうよって」
「さすがにそこでそれってのは……」
となりに座っていた女性は、野放図な女神の発言に、少しばかり言葉を濁す。
精肉になるまでの半年。
彼女はその姿をみていて、若干冷めている部分があった。
最初こそ、末路www 哀れwww 思い知れゲスがぁあーと思っていたのだが。
人間の感情はそうは長続きしない。
なんというか、ぶひぶひ餌を食ってる豚をみていたら、なんかどうでもよくなってしまったのだ。
ざまぁ、という思いは当然ある。
でも、「あんなものに固執していたのか?」という思いもでるのだ。
あんなものはただの畜生だ。
本能に従うだけの雌豚。そこにはかつての彼の面影などどこにもない。
「いやだなぁ、神の血、般若湯と、いろいろよばれるアレを、血の池で飲む。乙ってもんですよ! ああ。血の池の方はほら、神の血飲めばなんとかなるんじゃね?」
「雑……すっごい雑ですね女神様ったら。温泉で日本酒を呑もうみたいなのりで、そう言うのやめてくれません?」
はぁ、と呆れたような声を女神様に向けると、だってーと、女友達に向けるような気楽な返事がきた。
「ほら、地獄送りになる人なんて、その前の審問でしっかりやってますからね。私は適当で。感覚でやって間違えたことはないですよ」
それが、あたりまえという感じで、その女神はにこりと笑顔を浮かべた。そう。有無を言わせぬほどの迫力とともに。
それにこちらがびびっていると、彼女はさらに続けた。
「いちおうチートもつけたのですよ? ステータスウィンドウオープンとかいえば解ったはずです。ただ彼はそれをしなかった」
ああ、なんでそういうのちらっと見たことあるのに気付かないんですかねーと、女神さまはがっかりした声をもらした。
せっかくの転生なんだから、神様のチートを是非使って欲しかったのに、と少しご不満な様子だ。
「まじで? チートつきなの?」
豚に転生。そして成り上がる姿があまり想像できなくて女性は疑問の声を上げた。
「ええ、魅了、繁殖、多産をつけてあります。雌豚として最高級の地位に昇りつめることもできるだけのものです」
「でも、そうはならなかったけど」
画面に出ていたのは、がつがつ乳を食らう姿と、がつがつ餌を食らう姿と、らんらんとオスを求める「いわゆる雌豚のそれ」だけだった。
「ええ、だってアクティブスキルです。スキルを使うという意思を見せなければ発動しませんから。発情期になると綺麗に見えるとかそういうのに近いですかね。え、使い方ですか? やだなぁ、それを伝える神がどこにいます? 彼は別に、神の悪戯で死んだわけではないのに」
ねぇ、それは貴女が十分知ってるはずでしょう? と言われて、まあ、そうですが、とため息交じりに彼女は答えた。
「ええ、私が彼を殺しましたから。因果応報。でも、いくら祈っても神はあいつを罰しなかった。だから私が自分でカタキをとっただけのことです」
彼女はお腹をさすりながら、暗い瞳を輝かせる。
そう。あのとき。子供ができたと報告したときの彼の反応は、あんまりだった。
嬉しくて、伝えたくてたまらなかったのに。下ろせと言われて。
イヤだと言ったら、腹を蹴られて。そして、そのまま。
「まあ、そんなもんですよ。神罰なんてもんは、よほどのことをしないとなされません。というか、今までおこされた神罰なんて、享楽に落ちて神を敬わなくなった都市……はて、東京もそうなると候補地ですかねぇ」
ああそういえば、と女神さまはおっとりいいつつ、ま、私の管轄ではないんですけどねぇと緩く笑った。
「でも、本当に雌豚転生でよかったんですか?」
雄豚だったらほぼ九割方で虚勢されるっていう末路があったのに、と女神様は問いかける。
自分が雌豚だと勘違いしながら、お肉になっていく姿を眺めるというのもアリではないかと思ったのだ。
「それじゃあ、雌豚の感覚がわからないじゃないですか。三大欲のうちの性欲ってやつを噛みしめながら、惨めに朽ちるところを見る、これが私がここにきて得たかったものです」
「地獄に落ちてまで、見たいもの、ですかねぇ。お腹の子と一緒に天国プランもありだと思ったんですが」
「それだけ、悔しかったんですって」
さすがにそれが半年にもわたると、段々感情が落ち着いてきてしまうところが、難ではあったのだが。
それでも、発情期を迎えた彼の、あの動物的な雌豚っぷりと、なりふり構わないアピールっぷりといったら。
あいつがさげすんでいた雌豚そのものというほかなかった。
どんなにアピールしても、そこは繁殖用の厩舎ではないというのに。
「んー、私にはいまいちわからない感覚、というやつですかね。繁殖によって子をなさないので」
「一応人類を審問する側なんですから、共感とかはちょーっとしてもらいたいところなんですけどね」
ははは、と女性のほうからは苦笑が浮かべられた。
半年ともにした時間もこれでおしまい。
女神さまは優しいけれど、そこまで人に優しいわけでもなかった。
「さてと。半年間お付き合いいただきましたが、そろそろ貴女の審問にはいらさせていただきましょうか」
「ええ。覚悟はしています。むしろお願いを聞いてくれてありがとう」
ぺこりと隣にたたずむ女神さまに頭を下ろしながら、その女性は曖昧な笑顔を漏らした。
とりあえず女神さまは立ち上がると、非常口のほうへと歩き出す。
そう。彼女の頬に流れる一筋の涙が落ち着くまで、ゆっくりと。
異世界転生ってなんか聞いたことあるよなぁ、って思ったら「そうか、輪廻転生かぁ」と。
そんなわけで、やらかしてみました。
人間不信もりもりだなー、なんかもーなろーふーじゃないなー。
でも、書いちゃったのだから、アップしないとね! ってなわけで。
い、いちおう、あらすじでも、前書きでも警告は書いたから、これで「うそつきー!」って突っ込まないでくださいませなー。
しかし、恋愛のもつれってこわいもんですねー。