予感
「あ~このペンケースちょ~カワイイ!!」
「ほんとだ!しかもこれ結構バリエーションあるよ!」
「ねぇこれ3人で買ってお揃いにしない?ほら!アスナもこっちきてー!」
「うん!いまいくね。」
お兄ちゃん達の次によく一緒に行動している友達の沙織ちゃんと香織ちゃん。
二人は双子で外見の区別は殆どつかないから知り合ったときはすごく苦労したっけ・・・。
高校1年の時のクラスメイトで私の外見にも物おじせずにすぐに打ち解けてくれた。
明るくて優しい私の自慢の友人。
でもちょっと悪戯好き。
私に初めて声をかけてくれた時から二人が逆の名前を名乗っていて、
しばらく付き合ってやっと微妙な違いからやっと見分けることができた!って思ったら
「実はね、私は沙織じゃなくて香織。」
「私は沙織。香織じゃないよ~。」
なんて言い出した時には頭がショートするかと思ったよ・・・。
今日は帰り道の途中にある大型ショッピングモールに
新しい雑貨屋さんがオープンする日だったので、前々から3人で行こうと予定を入れていたのだ。
「こっちにぬいぐるみがある!」
「本当だ!カワイイのあるかな?アスナもほら!」
香織に手をひかれながらぬいぐるみコーナにやってくると
アスナは出会ってしまった―。
それは柴犬のぬいぐるみ。
行儀よくお座りをして、しっぽはモフモフ。
少しだけ舌を出し、目は眠そう。
お座りの姿勢のよさとは裏腹に表情などはどこか力の抜ける・・・。
正統派のカワイイぬいぐるみとは違うギャップ萌え的なところを狙った商品、そんな感じだ。
アスナはしばらく目を離すことができなかった。
「・・・んだ・・・。」
「え?」
ボソッと漏らしたアスナの声に反応して、二人の声が重なった。
「お兄ちゃんだ~~!!」
今度ははっきりと力強い。
アスナはそのまま柴犬を抱き上げるとぎゅーーーっと抱きしめる。
「え?なに?お兄ちゃんってそれが隼人君なの?」
「どういうこと?」
二人は互いに顔を見合わせる
「私今日これ買う!!」
全身からハートを振りまいて、アスナはご機嫌だ。
「アスナには隼人君、ああ見えてるかな?」
「あんな美少年があんな間抜け犬に見えるんだから慣れって怖いよね・・・。」
そんなことを二人はつぶやいた。
そのあとも3人はかわいいものを見つけてはキャーキャーと盛り上がり、
そんな様子を見ていた店長さんとさっそく友達になってしまった。
一通り店内も見て回り、各々の買い物を済ませ満足した様子で3人は店外を目指す。
「なかなかいいお店だったよね?」
「うん!今日買ったペンケースのブランド、来週からラインナップ増やすって
店長さん言ってたからまた来ようね!」
「いいね~。このワンちゃんのシリーズも増えないかな~♪」
そんな話題で盛り上がっていると、
「さっきの事故現場あれやばいだろ・・・」
そんな話をしている二人組の男女の話が耳に入ってきた。
なぜだろう・・・普段なら聞き流しそうなそんな話題をなぜか耳がとらえて離さない。
そんなアスナの様子に二人も聞き耳を立てた。
「運ばれたの桜ケ峰の生徒だってね。」
「え?」
思わず3人の声がそろった。
「天神前の大通り、あそこ4車線あって車相当スピードだすもんな・・・。」
「なんでも女の子かばって・・・」
どうしてだろう・・・。
嫌な予感が頭から離れない・・・。
胸が潰されそな感覚がどんどんと強くなっていく。
端末を取り出し
”お兄ちゃんにメッセージ”
そう告げると通信開始の画面が表示される。
しかし、
”端末の電源がOFFになっております”
とシステム音声から返答されてしまった。
「ごめん・・・!二人とも私先に帰るね!!」
そう告げると二人の反応も待たずに駆け出していた。
天神前の大通りならここから走って5分ほどだ・・・。
不安で身体がうまく働かない。
過呼吸で頭がぼーっとしてくる。
何度も足がもつれそうになる。
でも、そんなことは関係ない。
必死に走る。
大通りに近づくにつれてかなりの人数の人だかりができているのがわかった。
「すみません!通して下さい!!」
アスナはあまりこういった野次馬というのは好きではないのだが、
必死で人をかき分けて事故現場と思われる最前列を目指す。
その最中にも
「ボールを追いかけてた女の子を助けたんだってよ・・・。」
「ほらさっき大声で泣いてた女の子の横に放心状態の女の人がいたろ?
あれが母親で、なんでも話に夢中で目を離した時には車道に出ちゃってたらしいんだよ。」
「トラックの助手席部分の凹み方みたか?
人にぶつかってあれだけ凹むってどんな衝撃だよ・・・。やっぱ即死かな?」
「なんでも女の子をかばった学生、はねられた位置から相当な距離まで転がってたらしいぜ・・・。」
「アスファルトが割れてる箇所とかあったじゃん?やっぱあれってはねられた衝撃で・・・?」
「うわ・・・悲惨・・・。」
次々に耳に飛び込んでくる話題が自分の兄を想像させる。
「大丈夫・・・お兄ちゃんじゃない!
お兄ちゃんは今頃お爺ちゃんと道場で何時もみたいに鍛錬をしているはず。
組み手の時は特に集中しないとダメだからっていつも端末OFFにしてるし。」
そんなことをあえて口に出すことでアスナはなんとか自分を奮い立たせている。
前に進んでは押し戻される・・・。
そんなことを繰り返しながらやっとのことで何とか最前列までやってきた・・・。
でも恐怖と不安で目を開けることができない・・・。
それでも意を決して目を開けた。
事故の大きさからだろうか。
片側の道路は完全に封鎖されていて
警察が事故の実況見分を行っている最中だった。
まず目に飛び込んできたのはトラックだ。
助手席側の方が大きく損傷している。
人とぶつかってあんなに壊れるのだろうか?
車同士の事故だったんじゃないか?そんな印象さえ受ける。
ドライバーと思われる人が警察と話をしている。
どうやら運転手の人は無事だったようだ。
次に目を引くのがアスファルトにできた割れだ。
それは一か所から放射線状に割れていて、
とてつもない衝撃があったことを容易に想像させられる。
こんな事故現場をまざまざと見せつけられて、ぶつかった相手が人だというのだから
誰もが死を想像してしまう。
そんな悲惨な光景を見渡していると、
鑑識が離れた位置で写真を撮っているのが目に入った。
嘘・・・。
全身の血の気が引く。
アスナはそちらに吸い寄せられ
足がもつれて転んだ。
過呼吸で息ができない。
必死だった。
嘘だ・・・。
嘘だ・・・。
お願い・・・。
綺麗な顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
野次馬で壁ができていたのだが、アスナのただならぬ雰囲気に自然と道が開け、
その道を立ち入り禁止のバリケード沿いに歩く。
嘘だ・・・。
でも、自分が見間違えるはずがない・・・。
鑑識が写真を撮っていたのはカバン。
嫌だ・・・。
カバンにはフェルトで作られたカワイイ犬のマスコットがぶら下がっていた。
アスナが隼人にあげたものだ。
嘘だ・・・。
たまたま同じようなものをつけている人だ・・・。
自分でもわかっている無理な言い訳を考える。
そしてその言い訳もすぐに打ち砕かれた。
周囲に散乱した教科書やノートに記入された名前を見て。
2年3組 源 隼人
アスナは崩れ落ちた。




