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桜花-OUKA-  作者: zinto
6/13

日常3

「いってきます!」


三人の声が綺麗に重なる。


「はい!いってらっしゃい。」


その声に負けず劣らず、はきはきとした綺麗な声が返ってきた。


「和輝君はまたいつでもご飯食べにいらっしゃい。」


「ありがとう御座います。その時はお言葉に甘えさせていただきます。」


和輝は礼儀正しく深々と頭を下げた。


俺も爺ちゃんから礼節なんかは叩き込まれてるけど、ここまで自然に行うことはできないと思う。


俺のは礼節を知ってはいるが、まだまだ身体にしみついていないので不格好な場合が多い。


和輝のそれは自然にそれこそ流れるように美しい。


更にはその容姿もあいまってどこか現実離れしたような雰囲気さえ感じるときもある。


いつかは自分もそんな風に振舞うことができるだろうか・・・。


隼人は秘かに和輝に憧れている。



この様な立ち居振る舞いが出来るのは和輝の家もまた特殊な環境にある為だろう。


父親は警察のエリート中のエリート街道を駆け上がり、


今では警察庁長官まで登り詰めた 雑賀 健一郎という人だ。


その為、幼い頃から家には政界などの来客が多く失礼に当たらないように父親から叩き込まれている。


正直、隼人の場合の叩き込むとは言葉は同じでも内容は全く異なってた。


和輝の父親はあくまでも自分のキャリアを積み上げるために子供もしっかりと教育していますと


周囲に印象を与えるため。


清十郎は将来、要人などと面談した際に隼人が恥をかかないため。


背景にある想いから、二人の叩き込まれるに差が出ているのは仕方のないことだろう・・・。


この事からも判るように和輝の父親はあまり子供に関心がない。


それをある時に決定的に気づいてしまって以来、


両親・・・特に父親に対して冷たいものを胸の奥底にしまい込んでいるのだった・・・。




通学路の脇に規則正しく並んだ街路樹の葉がサワサワと揺れ、


木漏れ日がキラキラと降り注ぐ。葉を揺らした風が新芽のさわやかな香りを届けてくれた。


そんな中を3人がワイワイと雑談しながら歩いていた。


幼馴染である3人は基本的にいつも一緒に登校している。


しかし、学園に通いだして2年が経過しているにもかかわらず、


3人がそろって歩くとその周囲が騒めく。


目立つのである・・・。



隼人の母、さくらも言っていたが和輝はまさしく


”知的系イケメン”という言葉がぴったり当てはまる。


すらっと高い身長に小さい顔、整った顔立ちに眼鏡。


服の下には、線が細そうに見えるがボクサーのように絞りあげられた筋肉が隠されている。


更に隼人が憧れるような立ち居振る舞いも合わせ持つという・・・超人だ。



隼人に関してはこれもまたさくらが言っていたが


俗にいう”男の娘”と言われても仕方ないのではなかろうか・・・そんな感じだ。


隼人ももちろん筋肉などは和輝などと同等ほどにあるのだが、


その強さの発端は一族に受け継がれる不思議な力からくる所が大きいため


外見が筋骨隆々とはなっていない。


清十郎の若いころや、剛久も同じように年齢より若く見られることが多かった。


この外見もまた一族の遺伝なのだろう。


しかし隼人は一族始まって以来と言われるほどにその力に愛されて生まれてきたため、


中性的、あえて言えば女性寄りの外見になってしまっている。


さくらもかなり整った顔立ちのために、まさしく”美少年”という言葉しか出てこない。


本人はそのことをかなり気にしているらしく、女性と間違われるたびに心が砕けて


過去に一度、間違われたくないからと勝手に丸坊主にしたら、


さくらに号泣された後に、3日間晩御飯抜きという極刑をくらったのでそれ以来やってはいない。


さくらをはじめとする周囲の人たちには隼人のこの容姿は好評なようだ。



最後にこの2人よりもさらに目を引くのがアスナだ。


光を集めた様な美しい金髪が腰の辺りまで伸び、歩くたびにサラサラと揺れて見る人の目を奪う。


整った顔立ちの中にはめ込まれた、


透き通った海のように青い眼はガラス細工のようにキラキラと輝いていた。


更に、清十郎に礼儀の一環として叩き込まれたため、頭から背中に棒でも入っているのではないかと


思われるほどピンッ!って伸びた背筋や、モデルのような体系のために、


悪く言えばマネキンが歩いているような印象さえ受ける・・・。


そんな三人が毎朝並んで登校してくるのだ、騒ぐなというほうが難しい。



「あ~、今日も朝から目が幸せだわ・・・。」

「私も一緒に登校できたらなぁ・・・。」

「やめてよ!あんたがあの空間に入ったら台無しよ。」


など


「おのれ・・・源はまぁ兄だからいいとして・・・雑賀め~!俺だって幼馴染なら・・・。」

「やめとけよ・・・言ってって虚しすぎるぞ。俺たちが雑賀に勝てる要素が無さすぎる・・・。」

「く~・・・でもあいつでも一緒に登校できるなら俺にだってチャンスあるだろうが!」

「ああ・・・そういや今日はいないな」


なんて声があちらこちらから聞こえる。



話してる内容までは聞き取れないが、


そのざわめきに対して、隼人とアスナは和輝の人気からだろう、


和輝はモテるなぁ~と言う認識である。


和輝はある程度意識して今のポジションなので意識なしで


この人気、更には鈍感という二人にいつもヤレヤレといった感じだった。


学園に近くなるにつれて周囲に見知った顔も増え、


軽い挨拶を交わし合いながら歩いていると、近代的な巨大な建造物が視界に入ってきた。

 


隼人達の住む桜ケ峰町は小高い丘に一本の大木の桜が見下ろす穏やかな町だ。

 

隼人が幼い頃から再開発がはじまり、新しい建物や新しい人々が増えてきた。

 

その一番の売りだったのが 中学、高校の一貫教育、大学、大学院まで完備の


私立桜ケ峰【さくらがみね】学園である。


その自由な校風は生徒たちの自主性を尊重し、


各々がこれといった目標を定め


それを実現するために邁進すること。


という独特なものであった。

 

そのため広く浅くというよりは、狭く深くといったプロフェッショナルと言われる


人材が多く排出され、


現在、各分野(政界、財界、スポーツ界などなど)に数々の優秀な人材を送り出しており

 

注目されている学園である。


ただ特に専門分野ごとにクラス分けをされているのではなく、


基本的な普通科の時間割の中で、各々が多種多様な専門分野の授業を選択して受けることができる


時間が多く組み込まれている、


といった感じなので、クラスの中では様々な分野を目指す生徒たちが一つの教室に収まっていた。


これもまた理事長の狙いで、生徒をあえて分けないことで、


様々な刺激が必ずや生徒達によい影響を与えるという考えからこのような形式をとっている。



大学と大学院は離れた場所にあるのだが、


人気のある学園のため生徒数も多く、


中学と高校は同じ建屋に入っているために、かなり横長で巨大な建物である。



正面玄関ホールを抜けると隼人のカバンから電子音が鳴った。


カバンから二つ折りの紙のよう物を取り出し、それを広げると、


A4サイズほどの薄いパネルが現れた。


画面の隅に表示された”通知”という文字をタップする。


「あ、和輝。今日の選択先生が急な用事で出席できないから、各々自習してくださいって。」


「そっか・・・。となると昼前の授業の時間がぽっかり空くな・・・隼人、なにする?」


「いいなー二人とも、私もお昼前からのんびりしたいな~。」


選択している授業が違うためアスナはぶーぶーと不満をあらわす。



数年前にとある小国で発掘されていた画期的なレアメタルが流通して以来、


電子機器は爆発的な進化をとげ、現在では紙のように薄く折りたたむことができる携帯端末が標準になっていた。


そのレアメアルの利用方法はまだ発展途中らしく、その有効性を更に引き出すことができれば


もう一段階、画期的な変化をもたらせると最近では騒がれている。


私立桜ケ峰学園では生徒1人1人にこれが支給されており、


学園側からの全体への連絡事項や各個人の連絡事項や、各選択科目への申請


学園への出席確認、レポートなどの提出など、その用途は多岐にわたり、


授業中もこの端末を活用し、生徒たちにわかりやすい授業になるように工夫されていた。


もちろん家族や生徒間での連絡にも用いられているため、


今では生活を送るうえでこの携帯端末がないことなど考えられないだろう。



そんなアスナの冗談半分の抗議を隼人と和輝は受け流しながら3人は教室に向かった。


2年3組ここが3人の教室である。


教室に入るとクラスメートのみんなが


「おはよう」


と挨拶をしてくれる。


それに答えながら3人は自分の席目指してバラバラに分かれた。


隼人の席は校庭側窓際の一番先頭の席だ。


この席は隼人のお気に入りだ。


なぜならあまり勉強は好きなほうではなく、


テスト前になると和輝やアスナにつきっきりでお尻を叩かれることで中の上を維持してはいるが、


基本的には窓の外を眺めるほうがおもしろいタイプだ。


何も考えずに雲の動きを観察するなんて最高である。


こういうタイプの人間は本来一番後ろの席が好きそうだが、


想像してほしい。


教壇に立った場合人は無意識にどこを見るだろうか?


おそらく最後尾の生徒や、中ほどに座っている生徒に視線を合わすのではないだろうか?


隼人は先頭の端が一番教師から死角になりやすいため、ここが最高なのだ。



和輝は廊下側の中ほどで化もなく不可もなく。


勉強をするにあたってどこに座ろうが問題ないといった様子である。



アスナは教室の中心辺りに座っているのだが、アスナはアスナでこの席がお気に入りだ。


理由は趣味の一つである【兄観察】ができる絶好のポイントなのだ。


一緒に育ってきているのに、ずっと見ていても飽きない。


嬉しそう時、落ち込んだ時、眠い時、お腹がすいている時、


などコロコロと表情が素直に表に出るし、


頼りになるのにどこか抜けている・・・兄を動物に例えるなら間違いなく犬だ!


そんな気持ちを秘め、アスナは日々兄を観察していた。



人がまばらだった教室にも活気があふれだした頃、


学園に予鈴がなり響き、


隼人達の学園生活が今日もスタートしたのだった。


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