白妙久遠
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!!」
走る・・・走る・・・走る。
何に向かって走っていたのだろうか・・・今ではもう思い出せない。
真っ白な世界、何もない世界、永遠とも思える広大な世界。
どれくらい走っただろうか・・・あんなに軽やかに走っていたはずの足は
両足に重りをつけられたように言うことを聞かず、今にも止まってしまいそうだ。
でも、前に進むのをなぜか止めようとは思わない。
重くなった足を引きずり、しばらく歩いていると目の前に突然木が現れた。
それもただの木ではない、今までに見たこともないような大木である。
真っ白な世界の中でこの大木だけは色を持ってる。
どうしてこの大木だけが色を持ち、ここにたたずんでいるのかはさっぱり分からなかったが、
桜だろうか?
活き活きとした立派な様子で、枝にはそれはもう沢山の蕾が
開花の瞬間を今か今かと待ちわびている様子が見て取れる。
時がたつのも忘れて、その大きさに圧倒され目を奪われていた。
「ここまで来た奴は、いつ以来じゃろうな・・・。」
突然言葉をかけられ慌てて後ろを振り向くと、
いつの間にか純白の和服に身を包んだ小柄な少女が物珍しいそうな目でこちらを覗きこんでいる。
純白の和服には桜の模様が無数に描かれており、この色のない世界で鮮やかに咲き乱れる。
透き通るような白い肌と、雪景色のような長い銀髪に見惚れて中々声を出すことができなかった。
少女は一しきり眺め終わると合点のいったように
「お主じゃったか・・・なるほどな。」
そう呟きながらクスクスと笑った。
(何が少女の笑いを誘ったのだろうか・・・?)
首をかしげていると
少女は笑うのを止め、
とても少女のものとは思えない温かな笑みを浮かべながら
俺を上から下へと、更に後ろに回り込んで品定めするようにくまなく観察を始めた。
最後にしっかりと眼を見据えながら
「綺麗な眼をしているな・・・とても綺麗じゃ。」
とても満足そうにそしてにこやかにそう告げる。
「じゃが・・・まだ早い・・・・。」
その言葉を待っていたかのように永遠とも思われていた世界が
急速に遠のいていくのがわかる。
そこで俺はやっと
「君は一体・・・・?」
と少女に問いかける。
「お主とはまた会うことのなるじゃろう・・・いずれ分かる日もこよう。」
そこまで聞いて俺の意識は完全に途絶える。
ただ、最後の言葉を聞いた時の蒼い・・・どこまでの蒼い吸い込まれそうな瞳は
どこに行っても自分を見守ってくれている気がした・・・。