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007

 翌朝、目が覚めたら三十九度の高熱が出ていた。

「学校は休みなさい。病院に行く必要はないと思うけど、しっかり寝て、しっかり治しなさい」

 母があきれ顔で私の胸に布団を引き上げた。

「………ごめん、なさい……」

「謝らないの、まったくもう………転校って結構ストレスよね。母さんも分かるけど、今回はずいぶんと派手に来たわねぇ」

 ………ずいぶんとありがたい勘違いをしてくれたらしい。さすがは楽天家の母だ。

 私は母の言葉に甘えてゆっくりと眠ることにしいた。今はこの辛い気持ちを、噛み砕いて、いやしたかった。


 何度も昨日の事を夢に見た。

 うなされて、何度も目を覚ました。


 とびきり恐ろしい夢を見て、私は飛び起きた。荒い息を整え、時計を見る。昼の十二時過ぎごろだった。

 熱のせいか、夢のせいか、パジャマは汗でびっしょりだった。

 体は朝よりもずいぶん楽だ。私は布団から足を引き抜き、立ち上がった。少しふらついたが……大丈夫だ、歩ける。

 リビングにいき、スマホを充電器から引き抜く。

 何の気なしに電源を入れ、スタートページを立ち上げ、私は眉をひそめた。

 ――――着信 176件?

 メールが異常なほど多く入っている。いぶかしいげに感じながらも、私はひとつ、メールを開き―――――


 私の手から、スマホが滑り落ちた。


『そのまま死ねよ』


 落ちた衝撃で、またもう一つメールが開いた。

『許可なく休んだから今度フルボッコなw』

 私はスマホを拾い上げようとして――――そのまましゃがみこんだ。吐きそうになり、口元を押さえる。

 何―――何これ。

 回らない頭がよせばいいのに必死に考える。私のメアドを知っている人は誰だ。そんなにはいなかったはずだ。たしか―――日和と若菜先輩と……

 日和?

 そういえば。

 何故彼らは私があの時間、教室に居ると知っていた? 何故彼らは私が神谷先輩を慕っていると知っていた?

 偶然? 出来すぎだ。

 突然、脳裏に、私に手を振りながら笑顔で廊下を横切る日和の姿がよみがえった。

 ―――――まさか。

 リビングでうずくまったまま、私はぎゅっ、と目をつむった。信じたくない。こんな――…ひどい……。

 震えながら私は部屋に戻った。まだほんのりと温かい布団にすっかり冷えた体を滑り込ませる。じんわりと体が芯から温まっていく。

 もう六月なのに凍えそうなくらい寒かった。

 日和は――――……

 最初から私を守る気なんてなかったのかもしれない。甘い顔して何も分からない私をもてあそんで―――そう、最初からこうする気だったのかも。

 信じてたのに。心の底から、日和のこと、信じてたのに。

 迷ったが、結局日和にメールを送った。

『なんかメールたくさん来るんだけど誰かに私のメアド教えた?』

 こんなときでさえ強く言えない自分が嫌で仕方なかった。

 震える指で電源を落とし、布団を頭からすっぽりとかぶって目を閉じた。眠れなかった。


 夜も深まった十二時半ごろ、布団の中でまどろんでいるとスマホがメールの着信を告げた。

 ―――日和、かな……

 重たいまぶたを持ち上げ、私はスマホに手を伸ばした。電源を入れ、スタート画面を立ち上げる。予想通り日和からだったメールを開く。

 私は文面に目を通し、スマホを握りしめたまま枕に顔を埋めた。


『件名:よくわかったね(笑)』

『本文:よくわかったね(笑) あまりにもたやすくだまされてたから馬鹿だと思ってた(笑)

 そうだよ。メアドばらまいたのは私。どう? 友達増えてうれしいでしょ?(笑) がっかりした? でももっとがっかりしてるのは私だから(笑) ちゃんと警告したし。声出すな、目立つことするなってさぁ。

 聞かなかったのはアンタだよ。諦めてとっとと学校来て。いじれないからつまんない(笑)』


 ………馬鹿だ。私、本当に馬鹿だ。

 分かってた。なのに余計なことするから、ほら見ろ。自分が傷ついただけじゃないか。

 握りしめた拳を布団にたたきけた。柔らかな布にその怒りは吸いきれないまま寒い部屋に虚しく響いた。

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