002
腹を決める。ぐずぐずしていたってしょうがない。
この際だ、と思って、思い切って彼女の顔を覗き込んだ。少し前のめりになってしまっただろうか。
「あ、相川さんっ、だよね。私、山本佳奈ってい」
突然。彼女、相川さんがあわてたように本を閉じ、自らの唇に人差し指をあてた。気圧され、私は半ばのけぞりながら口を閉じた。
え、―――何?
相川さんはスマホを取り出し、慣れた手つきで何かを打ち込み、私に見せた。
≪うるさくしないで 狙われるよ≫
予期せず、びくっと肩が跳ね上がる。
≪目立たないように息潜めとけば大丈夫だから。佳奈ちゃん、だよね。私は日和。相川日和。よろしく≫
それだけ見せると、相川さん―――もとい、日和はスマホをしまい、何かを書いた小さな紙を私の方に滑らせた。
『hiyori.0809@×××.ne.jp』
メアドだ。私は日和に目配せしてからメールを打った。
≪さっきはありがとう。助かった。改めて山本佳奈です。呼び捨てでいいよ。よろしくね≫
ほどなくして、返信が来た。
≪どういたしまして。………びっくりしちゃうよね、いきなりあんなのじゃ、ね。あ、私も呼び捨てでいいよ≫
よかった。私はひそかに安堵のため息をついた。日和はやさしそうだ。
メールで会話をしているうちに、私にもこのクラスの現状がわかってきた。―――正直、せなかが冷えた。
今年、この二年四組には小学校以来のワルが集まったらしい。
気に入らない奴は掃除する―――というのが彼らの信条で、他のクラスメイトは目立たないように、気配を消し、周りと同化するのが鉄板だそうだ。
馬鹿馬鹿しい。
田舎の人たちは、ほのぼのしていて、こんな視線とは全く無縁だった。冷たい、人を貶めるような視線とは。クラスも十五人ちょいだったけど、思いやりがあって、もっと―――温かかった。
掃除されちゃ、たまんないからね。
そう日和は笑った。
私にはこの世界は似合わない。
そう思った。私には、田舎の空気の方が断然肌に合ってる。
でも、このとき私は、この問題が他人事のような気がしていた。
大丈夫だと、信じ込んでいた。




