010
二分後、私は例のローファーを手に持っていた。
「あ、ありがとう、ございま………」
顔を上げて彼の顔を見て、私は思わず小さく声をもらし、息をのんだ。
「かっ、神谷先輩っ…………!」
口許に手をあてて、目を丸くする私にはお構いなしに、神谷先輩はに、っと笑った。
「ありがとう、お兄ちゃん! でしょ」
「は……、はい………?」
「ウソ。気にしないで、こっちの話」
先輩は少しおどけて見せてから、私の隣に腰を下ろした。
「山本………だっけ? 若菜がいっつも言ってるよ。それに一回会ったこと、あるだろ? なんか若菜がいっつもごめんな」
「あ、いえそんな………っ! 若菜先輩には私の方が迷惑ばっかりかけててっ……」
「それで………えっと……」
「山本佳奈です」
「山本。なんか、あったの?」
ぐりん、と首を回して、神谷先輩の真剣な顔が私を見た。「それとも……」
形のいい唇が、にいっ、とつりあがる。
「君のお靴は空を飛ぶ、とか?」
静寂。
先輩それ冗談きついです………。
「んな訳あるか―――――いっ!」
結局先輩は自分で突っ込みを入れてひっくり返った。
………面白い人だ。
こういう性格だから人望もあつく、校内の人気の的にもなるのだろう。
頭の下で手を組み、当の神谷先輩は草の上であおむけになっている。ずっと憧れてきた先輩。この人のせいでいじめられ、いじめのおかげでこうして離す事が出来ている。
可笑しくなって、私は口許を緩めた。
「あ、笑ったなぁ?」
先輩が上目遣いで私を見上げ、頬に手を伸ばし、触れた。
「笑った方がかわいいよ」
神谷先輩のあったかい掌。体温ががん、と上がる。
―――――どうしたの?
―――――ああ、あの帽子、君のか。
―――――よし。
―――――はい。どうーぞ。
―――――笑った方がかわいいよ。
なんで今、思い出す?
あの時の、私だけのヒーロー。なんで今………
パズルのピースがぴったりとはまった時のように、合点が行った。
私は目を見開いた。




