009
若菜先輩は破れてしまった要項を求めて、奔走してくれている。
私は、先に帰宅することにした。微妙な時間だったから、校内には人気がなく、私ひとりの足音が響いた。
私は無防備なまま、下駄箱を開けた。
ローファーが片方なかった。
「……はぁ、………どこよ…」
一日中こんな感じだった。机の上の落書き、椅子の上にボンド、ロッカーの中は荒らし、上履きの中には画びょうを入れる。これでもか、と言うくらいべたな“いじめ”。
これが掃除か。笑ってしまう。
そして極めつけはこれ? ………本当に馬鹿馬鹿しい。
探し疲れて、ひざに手をつきながら、私は自虐的に笑った。馬鹿は私も同じか。だんだんと傾いていく夕日が、夜をいざなってくる。
もう、いいか。
片方くらい靴がなくても、歩けはするだろう。
そう思ってふと見上げ、私は探していたものを見つけた。
…………―――木の上に、だけど。
「は……はは」
乾いた笑い声が辺りに響いて、私はびくっと驚き、肩をすくめた。
はたから見ると、こっけいだった事だろう。
笑っているのは、私だったんだから。
調子外れの笑い声が唇から零れる。壊れたぜんまい仕掛けの人形のように、機械的な、無機質な声で。
ああ―――――そういえば。
十年前にもこんなこと、あったな。帽子が風で飛ばされて木の枝に引っかかって。………そう、あの時は。
私だけの救世主が、助けに来てくれた。
でも、今は?
虚しさで胸がいっぱいになった。
いつの間にか笑い声は号哭に変わっていた。
小さい子供のように声を上げて泣きながら私は膝を抱えた。
どのくらい時間がたったのだろう。
「どうしたの?」
不意に肩をたたかれ、私は声のした方を振り仰いだ。逆光で、顔が見えない。
「大丈夫? 具合でも悪い?」
そう言ったその人は、私の泣きぬれた顔を見て、ちょっと息を飲んだ後、「まさかだけど、あれ、君の?」と木の方を指さした。
声の感じからすると、男の人みたいだ。彼はそうかーと腕を組むと、
「よし」
と。
いたずらっぽい、楽しそうな声で、小さく言った。




