表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

6,そんな感じでいいんだと思う

朝の時間。

電車から降りて気をつけてみれば、楓とあのコが一緒に歩いてた。

改札を連なって抜けていく。

そっか、朝も一緒なんだ。

そりゃそーか。あのコが着てたのは、高専の制服だ。同じトコに行くんだから、一緒に歩いてるのは当たり前か……。



 ☆ ☆ ☆



文化祭の合唱は、理系クラスには不利だと思う。

男子が多すぎて女子パートが消されてしまうから。


クラスの中では合唱は捨てて、クラス展示でどのくらい雰囲気を出せるかに命を懸けてる男子が多い。

ダンボールでF1のレースカーを作るのに凝っているのだ。

喫茶店なのにF1カー。

いやフュージョン系の音楽を流したいとか言う男子がいて、その選曲をしてたらF1のテーマ曲があったとかで、それでレースカーを展示しちゃおうぜって盛り上がったみたいなんだけど。

メニューの台紙にもレースカーの写真を切り貼りしたり、喫茶店のウェイターやウェイトレスは渋い感じのエプロンしたりとか、がんばってはいる。

ただ、喫茶店で出すメニューが行き詰まってるのよ。

進学校だけあって、料理したことない人が多くて。

私がクッキー作れるって言ったら、クッキーをレースカー型にしたらどうかとか、それなら普通の生地とココア生地でチェッカーフラグにした方が量産出来ていいんじゃないかとか、そんな話になった。

電気ポットでお湯を沸かして紅茶、コーヒーメーカーでコーヒーを作って、オーブントースターでトースト焼いて。トーストは具をのっけて焼くだけのピザトーストと簡単なチーズトースト、バターとはちみつを塗るハニートーストにして、あとはクッキーというシンプルで無難なメニューに決まった。

生地さえ作っておけば、オーブントースターでクッキーも焼けるしね。


文化祭の間は、そんなこんなで楽しかった。

私の作ったクッキーはまぁまぁ好評で。冷えた飲み物もあると良いなって要望も出たけど、喫茶店は車好きな一部男子に人気だったようで、そこそこ売上がでたようだ。

喫茶店の裏方だったけど、本当に楽しかった。クラスに馴染めなかったとかウソみたいに。

一緒に何かをつくり上げるって良いよね、なんて。


でも文化祭が終わったら、また話すことがなくなって。

本の世界に入ってやり過ごす毎日が、再び始まったのだった。



 ☆ ☆ ☆



土曜日、珍しく買い物をしに電車に乗った。

ノートがなくなりそうだったのに、文房具屋さんへ行くのを忘れていたのだ。

いつもなら平日の学校帰りに寄って買い物するのに。


この頃、俯いて過ごすことが増えた。

早く本の世界に逃げ込んでしまいたくて、文房具屋さんに寄るとか余裕がなかった。

ダメだな~と反省する。

少しは顔を上げて前を向かないと。


どうせなら高校近くの文房具屋さんで……と思って出かけた。

家の近くより品揃えが豊富なのだ。

無事に買い物を済ませた帰りの電車。

「久しぶり。今日は読んでないの?」

あっと思った時には、そいつは隣に座っていた。

「お前が本持ってないのって珍しいな」

なんて不思議そうな顔をする。

え? いや、それより彼女持ちが他の女子と一緒ってマズいっしょ!

慌てて距離をとれば、楓は怪訝そうな顔をする。

「今日は彼女と一緒じゃないの?」

と問えば

「へっ? あぁ、松本か? いや、一緒じゃないし」

と私が『彼女』と呼んだのを否定せずに言う。

あぁそうそう、弟の卒アルで見た名前も松本さんだった。

そうか、今日は一緒じゃないのか……。

でも、だからと言って、私と一緒にいたとか誰かに見られて彼女に報告が行くなんてダメだと思う。いくら楓と私にそんな気はないとしてもさ。

「この頃、なかなか帰りの電車で一緒にならないな」

「部活、引退したから……」

「そっか、帰りの時間が変わったんだ?」

「うん……」

なんか彼女の顔がチラついて話しづらい。

彼女に誤解されると申し訳ないから近寄らないでー! と、私が内申戦々恐々としていたら。

「つーか、松本は『彼女』じゃねえぞ」

は?

あんだけ毎日一緒に通学しといて???

ぽかーんと口を開けていると、楓が大きなため息をついた。

「だから、松本は俺と趣味が一緒で話してるだけだから。そんなんじゃないんだって」

やっぱり誤解されてたか……と困り顔の楓。

「どっちかってーと、お前と話してる方が楽だ。松本はテンション高すぎてついて行けん」

へ? 彼女っていうか、松本さんと楽しそうに話してたんじゃないの???

「お前、高校出たらどうすんの?」

なんでココでこの話題???

「えーっと、近場の国立狙い」

近場と言っても県境のこの地域だと、どっちかの県庁所在地まで行かないと国立大学ないし。

「ってことはM大かI大?」

「うん。M大なら電車で通えないこともないけど、I大だと一人暮らしになると思う」

「どっちにしても、電車で一緒になるなんてなくなるな」

「うん……」

うちの最寄り駅からM大は高校とは反対方向だから、高専に通う楓とは朝も会えなくなる。I大なら一人暮らしになっちゃうから、地元から離れちゃうわけだし。

何故か残念そうな声の楓。

「お前、ケータイ持ってないの?」

「うん。大学に入ったら買って貰えるかも……」

今までは家の中ですら圏外になったりするからって理由で買って貰えなかったけど、大学生ともなればケータイかスマホくらいないと不便だろうし。

「そっか。じゃ、ケータイ買って、メールできるようになったら連絡ちょうだい」

「へっ?」

「コレ、俺のアドレス書いとくから」

ササッとメモを書いて、私に手渡してくる楓。

え? え? え?

どういうこと!?

頭の整理が追いつかないんですけど!!!!!

吃驚(びっくり)している間に、うちの最寄駅に着いた。

「来週の土曜日も出かける?」

なんて電車を降りながら聞いてくる楓。

「よかったら、市立図書館で会おう。受験勉強つき合うし」

ええー!?

「あ、マンガかアニメの話でもいいけどな」

ニヤリと笑って、自転車に乗ってサッと行ってしまった。

まだ混乱している頭を振り、今日起きたことを整理する。

あのコが彼女ってのは誤解で、関係なくて。

だから誰に気兼ねすることもなく、また楓とゆっくり話せるんだと思ったら、なんだか泣けてきた。

ほんわりと心があったかくなるのを感じた。



 ☆ ☆ ☆



それから楓とはそれ以上何かがあったとかじゃないし、特別って感じでもなく、でも都合が合えば週1で、市立図書館で一緒に勉強したり、その帰りの電車の中でマンガやアニメの話をしたりした。


大学は両方受かったけど、M大に通うことにした。

片道1時間半はかかるから、教科書を読んだり、普通に読書したりしてる。

楓とはたまにメールのやり取りをしていて、たまに会ったりする。

楓は高専を出たら、M大の近くの国立大学に編入学するつもり……なんて言っている。

ウソだかホントだか分かんないけど。


そんな感じ。



以上で完結です。

お読みくださって、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ