5,本の世界に入れれば
高2になるとき、理系か文系かの選択を迫られ、私は理系を選んだ。
あれだけ本を読みまくってるのに、自分は文系ではなかったようだ。
歴史が特に弱いんだよね。歴史的なエピソードを聞くのは楽しいけど、それがあったのは何年か? なんて言われても、覚えられないんだから仕方ない。
クラスのメンバーが変わっても、相変わらず話が合いそうなコがいなくて、休憩時間は本を読むかトイレなどの用事を済ませて過ごしていた。理系は女子が少ないから、話が合わないコが揃ってると会話も必要最低限だ。もちろん、昼休みは図書室に行く。
部活と読書がメインの高校生活。
部活の時は話が合うとか合わないとか、あまり気にしなくていいし。体を動かせば気分もスッキリした。
☆ ☆ ☆
高3のクラス替えでも話が合いそうなコとは一緒にならなくて。
てか、アニメとマンガの話がしたい女子って、いてもそういう趣味は隠してる気がする。
男子の中にはそういうのが好きそうな人もいたけど、もっとディープでマニアックな雰囲気があって、私なんかじゃとても話についていけそうになかった。
部活を引退したら、なんか学校に行くのが億劫な気持ちになるほどクラスから浮いている気がする。
朝、教室に入るとき、一歩を踏み出すのにかなりの勇気と気合いが要った。
教室に入って挨拶をする。あとは自分の席で読書三昧。
テレビで見る番組のジャンルが違うからか、クラスの人が話してるドラマの俳優さんとかアイドルとか、私には「うっすらそんな人がいたかもなぁ」って認識レベルだったし。会話に入れるわけがなかった。
担任の先生が進路相談のついでにクラスに馴染めてるか……と口にして心配するほど。
「クラスの人とは話が合わなくて……」
といえば
「なんだ、もっと高尚な話がしたいのか?」
なんて言われる。
いえいえ、そんな微分積分とか加速度とかベクトルとか中和滴定とか、なんかそんな学問的な高尚な話じゃなく、私がしたいのはマンガとアニメの話ですって。……子どもっぽすぎて先生には言えないけど。
あ、でも、できれば好きな本の話をしたいから、高尚といえば高尚なのか?
「文学について語り合いたい」とか言えば「高尚」って気がしないでもない。まぁ読んでる本が世間一般様が思う「文学」とちょっと毛色が違うかもだけど。
「そんな感じではないです……」
と先生には曖昧に笑って返事して、希望の大学は近くの国立って話で進路相談は終わった。
まぁ、クラスに馴染めないのは誰が悪いわけでもない。
悪口を言われるわけでもないし、いじめでもないし、ただ話が合わなくて、うまくやれないだけだ。
あと部活を引退して下校時間が変わったら、楓とはさっぱり会えなくなった。
前は、週1くらいは帰りの電車で一緒になったんだけどな……。
朝の電車で顔は見かけるから楓の存在は確認してるけど、朝は挨拶するほど近くへ乗ったことないし。朝の電車は空いてる席の残りが少なくて、だいたい空いてる席って毎朝似たような場所になるから、今さら乗る場所を変える程じゃないしなぁ、と思って。
なんかホッとする時間がなくなったけど、とりあえず本の世界に逃げ込んでれば人間関係に悩んでるなんて感じなくて済むかなと思った。
☆ ☆ ☆
2学期が始まって少しした頃に文化祭の準備があって、下校するのが部活があった頃と同じくらいの時間帯になったときのこと。
クラスに馴染めないとはいえ、仲違いをしているってわけでもないし、係分担があれば黙々と作業くらいはするから、普通に作業をして時間が遅くなった。
久しぶりの時間帯だなぁ……なんて思って駅のホームに出たら、楓がいた。
女の子と一緒だった。
その女の子の顔はどこかで見たことある気がする。
あぁ、中学校の後輩だ。2つ下のコだから、今は1年生か。弟の卒アルで見た顔だよ。
生徒会役員とかやってて、目立つコだったようだ。
私たちと小学校は違うから途中の駅で降りるんだろうけど、楓と一緒に帰るんだなぁ……とぼんやり思った。
あぁ、私の週1くらいのホッとする時間は、もうないんだなって、私の中のどこかがそう感じていた。