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4,通学時間も本を読む

あのあと、楓と一緒に担任の先生のところに行って、係を代わる話をして。

「真琴は器用だから、版画彫りも上手そうだな。楓は背が高いから、暗幕張りのときに活躍できそうだ。いいんじゃないか?」

と思ったよりあっさりとOKが出た。

なんて説明したら……と緊張した自分がバカみたいだと思った。



 ☆ ☆ ☆



文化祭は散々だった。

……いや、準備が。

巨大版画の彫り手があんなに大変だったとは思わなかった。

巨大版画と言っても、各教室の黒板いっぱいに張れる程度の大きさ。だけど、その図柄を版画板30枚くらいに分けて写して、それを各自担当して彫りあげるから大変で。

てか、みんな適当すぎ! ふざけながら彫るもんだから、なかなか進まなくて……。つーか、話ばっかりしてないで手を動かせよ! そして彫刻刀持ってんだからふざけんな!!!

自分の分を集中して終わらせたら、2枚目を渡されて、更にソレが終わったら遅れてるコのとこに手伝いに入って。遅れてるのに話ばっかりしてるヤツってなんなの? 腹立つわ~。

いつ終わるのかってくらい毎日彫り続けて、ホント大変だった。

家帰って本を読もうって気になれないくらいグッタリしてたし。

でもアレだ、苦労しただけあって、巨大版画が完成した時は達成感が半端なかったね! 展示された版画を見て、感無量とはこのことだと思ったよ。


そんなこんなの文化祭も終わって、やっと思う存分本が読める……!

最近のお気に入りはドリトル先生。

小学校の時も少し読んだんだけど、最近、新しくシリーズが揃ったのが図書室に入ったので、最初から読みなおしてる。小学校の時は古くなって飛び飛びになったシリーズの中の2~3冊読んだくらいだったから、きっちり全部読むってのがいいと思うのよ。

そんで、ドリトル先生を読みながら将来、童話作家とかなってみたいよねーと思ったり。いやいや、そんな簡単じゃないだろうし、無理っぽいと考えてみたり。

かと思えば気分転換にルパンとか読んでみたり。

ただねー、絵とか題名が怖い本は読めないのよ。怖がりだから。っていうか、なんか怖い本って毒が染みこんでるような気がして、触れないし。


あと、楓は間山さんと何の進展もなかったらしく、文化祭が終わった現在、今も普通に昼休みに図書室で男子たちと戯れている。

私が彫り手になってあんなに苦労したのに、なんだかなぁ……。



 ☆ ☆ ☆



中3の2学期も後半となると、本気で進路の話が出てくる。

えー、私としては部活バドミントンの強いN高校に行きたいなぁ…と漠然と思っていた。

って三者面談で言ったら、

「お前は自転車でコケて帰ってくるような子だから、自転車で国道渡んなきゃ行けないようなトコはダメ」

とか母から言われた。

N高校は電車で3駅ほど先に行った隣の市にあって。大きな駅で降りたら、そこそこ交通量のある国道を横切ってしばらく行ったところにある。自転車じゃないとツラいくらいの距離がある。

あの国道を渡るって、そんなに難しく考えてなかった。確かに自転車こいでて、よそ見してコケたことが何度もありますけどね。しかも空想しててよそ見だからね。いや、空想ってより本の中の世界に浸ってただけだけれども。

N高校がダメなら、N高校と同じ駅で降りて歩いて通えるI高校か、うちの町内にあるH高校かなぁ……。

どっちかと言ったら、H高校よりI高校の方がバドミントンが強かったかも。

ただI高校って進学校だから、学力的な問題があるかなぁと不安になった。でも、ちょっとがんばれば届くかもって担任の先生からは言われたし、できれば部活の強いとこに行きたいし……。


そんな感じで志望校が決まった。

他の人に比べたら適当に選んでしまったような、なんだか申し訳ないような微妙な気持ちになる。

でも、うちには弟たちもいて私立は行けないし、公立一本で受験するから落ちないようにしないと!

ちょっと気合いを入れて勉強することにする。


家での読書タイムが勉強タイムに変わって、本はスクールバスの中と学校の休み時間にちょこっと読むくらい。

本が読み終わらないうちは昼休みも図書室に行けないから、昼休みも読書タイムになった。

最近はポアロの短編集とか読んでいる。短いとすぐに1話読み終わるし、続きが気になって仕方ないってことがないし、ちょこちょこ読むのに丁度良かった。


冬休みが明けて入試が近づくと、教室の中も勉強勉強って感じになってくる。

うちの地区のスクールバスは他より早めに着くから、朝の教室の人数もまだ少ない。早く学校に来てる小野くんが楓を捕まえて一問一答なんてやってる。私もそれを聞くともなしに聞いている。

楓は高専を志望してるようだ。小野くんも高専を狙ってるらしくて、それで楓を勉強仲間と思っているみたい。

楽しそうでいいなぁ。



 ☆ ☆ ☆



4月になって、それぞれの志望校にそれぞれおさまった。


楓は高専に行くのに電車に乗る。1時間に1本しかない電車だから、私も同じ電車に乗る。

同じ小学校出身の同級生で同じ電車に乗るのは私と楓だけだ。

毎日、楓を見かけるけれど、別に近くに行くわけでもないし、挨拶もしないし見かけるだけだ。

通勤・通学の人で電車はいっぱいになるけど、うちから最寄りの駅くらいだとまだ座れる。それでも空いてる席は限られるから、空席を狙えばだいたい同じあたりに乗り込むことになる。

私は座って本を読む。乗り物酔いはほとんどしたことがない。


帰りの電車でも本を読む。

時間帯が違うのか、帰りは楓と顔を合わすことが殆どなかった。


学校では部活の時間はいいけれど、クラスで話が合う人がいないから私は本を読んで過ごす。

本も好きだけど、本のことで会話できる人って昔からあまりいなかったからそこは諦めてた。でも好きなアニメとかマンガとか、進学校ってだけで気楽に話せる人がいないとは思ってなかった。

部活の時間は部活してればいいし、その時間は楽なんだけどね。


そんなある日、帰りの電車で楓と一緒になった。

席が空いていて、隣に座って来たのが楓だった。

「相変わらず読んでんな~。お前、今何読んでんの?」

「ん? SF小説。この前、アニメ映画になったヤツ」

「あー、アレね」

「アンタは最近どんなマンガ買ってんの?」

「俺もアニメになったヤツとか多いかな」

なんか話してて楽だ。ホッとする。

話が合うっていいな。

自分のクラスの人たちってアイドルとか好きなバンドとか、そういう話が多いから私にはついていけないんだよね。

楓との会話で思いのほか楽しい時間を過ごせて、萎縮していた心がふわ~っと解れた気がした。



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