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1,印刷物の虜です

中学校に入って3年生ともなると、男子の成長は著しいと思う。


地方の小さな町では小学校も小さくて、1学年1クラスが当たり前でクラス替えなんてありえない。

小学校に入る前の保育園だって、同じメンバーで過ごしてきた。

中学校では、他の大きめの小学校やら小さい小学校幾つかとも一緒になるから、流石に4クラスにはなったけど。今現在、隣に座ってるヤツは腐れ縁なのか、クラス替えさえものともせず、なんでかずーっと同じクラスだ。……ということは、保育園から一緒ってわけで。

そこまでくると、私の方が背が高いってのはヤツには刷り込みのようなものなんだろう。小学校の時には、背の順で並べばずっと私が一番後ろで、ヤツがその前ってのが定番だったから。

最近、身長が追い越されたなーと私は思ってたのに、ヤツは気づいてなかったらしい。

中学生になってから男女別で並ぶことが増えたせいで気づくのが遅れたってのもあるかも。とにかく中3の春、隣の席からヤツが首を伸ばして私の身体測定カードを盗み見た。それで驚いたような顔をしたあと、密かにガッツポーズをかましてくれやがった。

そんなに嬉しいか? ……というか体重だって胸囲だって胴囲だって書いてあるのに、女子のカードを盗み見るってどうなのよ? まぁ、ボンキュッボンなんて夢のまた夢な針金体型なのは自覚してるし、ガサツな性格で女子認定されてなさそうだから、全然気にしてないけどさ……(泣)



 ☆ ☆ ☆



昼休み、いつものように図書室で何か本を借りようと、ピンとくるタイトルがないか探して歩きまわる。

推理小説かファンタジーか、星座のもとになった神話とか恋愛小説でもいい。面白そうだって思った本ならなんでもござれだ。

マンガも好きだけど、小説のほうが読み終わるまで時間がかかって長く楽しめるから、そんなことでお得な感じがするのは私だけだろうか。ただ単に貧乏性なだけかもしれないが。

とにかく今日は、ポアロとホームズなんか借りてみる。洋物の推理小説な気持ちだったのだ。


本を持って教室に戻ると、私の席には女子2人が陣取っていた。1つの椅子に2人で座り込んでヤツと話をしているようだ。

仕方ない、借りてきた本はロッカーに1冊おいて、もう1冊を持って教室を出る。中庭のベンチで昼休みの終わりまで時間を潰そう。

クリスマスプディングってどんなんだろうなーと想像しながら本を読んでいると昼休み終了のチャイムが鳴った。

教室へ戻れば、さっきの女子が自分の席へ戻っていくところだった。

ポアロを机の中にしまって、5時間目の教科書やノートを準備する。

「また本借りたの?」

「うん」

「お前、本を読みだすと自分の世界に入っちゃうよな」

「なかなか入れない本もあるけどね」

そのときの気分とかあるんだから仕方ないじゃんか。その代わり世界に入っちゃうと、呼ばれても気づかなかったりするけどな!そんで母さんから呆れられるんだ。


放課後、学校前のロータリーでスクールバスを待っていると、ヤツが校門の方から戻ってきた。近くの商店街の本屋にでも行ってきたんだろう。

「またマンガ買ったの?」

「おう。新刊が出てたんだ」

「よくお金が続くよね」

「父ちゃんが『変な薬物に手を出すよりいい』とか言って、本代は出してくれるからな」

さよですか。発言が過激な父ちゃんだな、おい。

実はヤツの部屋には『ガラかめ』が最新刊まで揃っているらしい。少女マンガなのによく買ったなっていうのと、長編マンガなのによく揃えたなって感心する。

その他にも私が読んでみたいなって思ってるマンガが揃ってるらしいのだが、なかなか男子の部屋に遊びに行くのは勇気がいるお年頃。

だいたい、昼休みに私の席にきてる女子はヤツに気がある子たちだし。人の恋路を邪魔するっていうか、誤解されるような真似はしたくない。

それに田舎の小学校は学区が広いから、ヤツの家までだって結構な距離があるし。かといって学校に持ってきてもらうと、持ち物検査で没収されかねないし。

マンガは読みたいけど、ダメだよなぁ……。



 ☆ ☆ ☆



「お前、昨夜あのアニメ見た?」

「へ?」

ヤツはマンガだけでなく、アニメもよく見ている。

同じ町内でも山のせいか電波状況が変わるせいで、町の北の方の家と南の方の家で映る局が違うんだ。県境の町だしな。天気予報も隣の県のものを見てたりする。民放の局数も違うらしい。

そのせいか同じ番組の話ができない同級生もいるんだ、これが。

私も弟たちのせいで男子が好きなアニメはよく見てるけど、そんなに深い話はできないぞ? どっちかってーと、アニメの中身よりアニソンの方が詳しいくらいだ。暇な時は家で歌ってるしな。

「あのアニメのさ、あのキャラいいよな」

どうやら片思いしてるコが、そのキャラに似てるんだとか。昼休みに話にくる女子たちには、片思いの話はナイショにしてくれって言われた。

はぁ、それはかまいませんけど……。色恋沙汰に私を巻き込まないでくれ、面倒だから。

恋愛事は経験値が少ないから、対処できないんだよホントに。


その日も図書室でウロウロしていたら、珍しいことにヤツが数人の男子と連れ立って現れた。1年生の頃以来じゃないか?

どうやら女子から逃げ出してきたらしい。

「いつも女子から話しかけられてるし、付き合い悪いぞ」

と責められたらしい。そう言われれば中2の頃までヤツとよくつるんでたメンバーで、昼休みに図書室でじゃれあってるのをよく見た仲間だ。

「今日、リ○ンの発売日だから、妹に買って帰らないと!」

「妹にって言ってて、お前自分でも読んでるじゃねーか」

「スクールバス来るまで俺にも読ませろー」

リ○ンか…。私にとっては、たまに行く従姉妹ん家で読ませてもらうのがせいぜいの少女マンガの月刊誌だ。

「『ときめき☆モンスター』面白いよね」

「あぁ、オナベくんな」

「違う! 真鍋くんだよ」

ホントにもう、男子ってば下んない言い換えするんだからさ! せっかくの素敵ヒーロー様をオナベとか、なんだと思ってんのよ。

「なんだお前、ああいう正統派ヒーローが好みか?」

「はぁ?」

なんなんだ。シリアス系正統派ヒーロー様はおちゃらけちゃいけない気がするってだけだ。ギャグとかパロディにしないで、そっとしておいてやれよ、全国の夢みる乙女のために。

カッコいいヒーロー様はカッコいいままにしておいてください、切実に。



 ☆ ☆ ☆



結局のところ、昼休みに私の席を陣取っていた女子たちは進展しない関係に業を煮やし、ヤツに告白して玉砕したらしい。中体連の応援に差し入れしたいだとかそんな話で、ハッキリ彼女になりたくて焦ったのかも。ここしばらく、私の席に来なくなったからそう思ったのだが。

「いや、俺の片思いで終わったみたい」

意味が分からん。振られたんだか振ったんだか、どうにもよくわからない話だ。

女子の方がアンタに気があって言い寄ってたはずなのに、アンタの片思いって話が変じゃないか?

「ってワケで、今度の日曜日、俺ん家にマンガ読みに来るか?」

は? なんで「ってワケで」ってつながるわけ???

「部活も引退したし、ヒマだろ?」

まぁ確かに地区予選で敗退しましたけどね。それはアンタもだろってツッコミは、お互いのために口にしないでおこう。

今年こそは県大会! って気持ちはどこの部も一緒だったと思うから。


久しぶりに来たヤツの家は、小学生の頃に家の外まで来たことがあるけど、中には入ったことがなかった。

廃品回収かなんかの行事で来たんだったかな、なんだったか忘れたワ。

ちょっと緊張しながら家に上がる。

「お邪魔しまーす」

「あらあら久しぶりね。どうぞ上がって」

ヤツのお母さんに会うのは小学校ぶりだ。なんか生あたたかい目で見られてる気が……気のせいか?

「こっちだ」

ヤツの部屋に入ると、作り付けの本棚にぎっしりのマンガが目に入った。

わー! 読みたかったマンガがいっぱいある!!!

あれもこれも…と目移りしたけど、とりあえず『ガラかめ』でしょ!

話も早々に一心不乱にマンガを読む。ヤツも自分で用意したマンガを読んでいた。

ふと見たら、ヤツの顔がニヤけてた気がする。マンガ、そんなに面白いのかな。

途中、飲み物の差し入れなど頂いて、思う存分マンガを読めて楽しい1日だった。来週も約束してしまった。流石に1日じゃ『ガラかめ』読み終わんなかったし。

あー、今から1週間後が楽しみだ。


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