五:この清き十六夜の夜に
テストは二つの意味で終わりました。結果は予想できてます(泣)
今回の内容は、とあるボカロ小説を読んで思いつきました。この小説、わかった方コメント下さい。
「…今日の夜は…」
華凛と別れ、自分の邸に帰ってきた山吹は蒼華のいない静かな庭に座り込んでいた。手元には薄紫色の扇子が置いてあり、少し前まで彼女が舞をしていたことを示している。今はそれにも飽き、風に吹かれた桜の花弁を見つめていた。白い紐に結ばれた髪の色が、薄桃色の花によく似合う。
「今日の夜は、何があるのかしら…?」
一人ため息をつくと、不意に後ろから声がかかった。
「ねえ、山吹」
「……華凛?」
そこにはさっき別れたはずの華凛が立っていた。心なしか、少しやつれているようにみえる。
「大丈夫?必要なら、薬湯を持ってこさせるけれど…」
華凛は黙って首を横に振り、山吹の隣にしゃがみ込んだ。
「山吹…未来はほとんど変えられない。だから、これから悲しいことがあっても逃げられないんだけど…」
曖昧に言葉を濁す華凛に、山吹は苛立ちを覚えた。
「よくわからない言い方はやめて。急にどうしたの?話すなら夜に会うときでいいじゃない」
華凛は言いにくそうにしている。
「…もしも自分の信用できる従者が離れていくとしたら、山吹はどうする…?」
嫌な予感に、山吹は胸を震わせた。
「まさか、蒼華に何かが起こるの…」
華凛は何も言わずに頷いた。
夜。
あの不思議な小屋で待ち合わせた二人は、それぞれの愛馬に乗って『華部屋』の前に来ていた。少しだけ欠けた十六夜の月も、こんな裏路地までは照らせない。しかし、昼間消えていた『華部屋』の灯りは煌々と輝き、周りを見るのには困らなかった。
「…格子の中、覗いてて。もう少しだから」
華凛に促されて、山吹は『華部屋』の中を見ていた。今のところ男の人が一人酒を飲んでいるくらいで、変わったところはない。窓の縁に豪快に座っている男の目にはろうそくが映り込み、まるで闘志を燃やしているように、また、何かを待ちきれず、興奮を抑えきれないように見えた。
「何も起こらないじゃな…」
しばらく待っても何もないのに嫌気がさした山吹が文句を言おうとすると、衝撃的な声が耳に飛び込んできた。
「ようこそ、おいでくんなまし」
「え……」
珍しく感情を宿らせた山吹の目が見開かれる。部屋の奥の方の御簾が開き、派手に着飾った女性がしずしずと歩いてきた。男は待ちわびたように立ち上がり、敷かれた五組の布団の上に移動する。
「蒼…華…」
華凛は息も絶え絶えの山吹の肩を抱き、無表情に言った。
「これは私が未来と過去を見て知ったことなの…。蒼華は、あなたに仕える前からこの仕事をしていたみたい。ただ、男性と『遊び』たいが為に…」
「この清き十六夜の夜に……何てことをしているの…」
「男性と『遊ぶ』、花魁の別名は惣嫁。きっと、蒼華という名前は偽名でしょうね」
山吹は外に漏れるろうそくの灯りと男女の影に背を向け、低薔薇の首に手をかけた。そのまま飛び乗るが、そこにいつもの勢いは無かった。
「帰るわ」
それだけ言い、彼女は狭い裏路地を去っていった。
あとに残った華凛の目が光り、艶っぽく揺れる。
「ごめんね……」
微かな謝罪の声が、突然路地を吹き抜けた強風に掻き消される。この風が山吹の力によるものだということに、華凛はしばらくしてから気づいた。
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